不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第二章 運命を壊す方法

38 質の悪いお客様

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宰相の息子を後宮に入れることは出来ないので、僕も今日はお城に向かう。
ノルンとマールも一緒に来てくれることになった。
奥の間に、僕が一日いないとことは珍しいので、今日は奥の間は、大掃除するらしい。

宰相の息子とのお茶会のあとに魔導師長とも会談予定。

今日はいそがしいなと思う。
決まったら決まったで、陛下もバルハルト公もきっちり準備はしてくれた。
二人は通常公務があるから参加できない。
魔導師長との会談は、仕事が片付いたら行くと陛下は言っていた。
時間的に宰相の息子とのお茶会の時は難しいと、顔を曇らせていた。
魔術師長が、陛下の忙しい時間を狙って、セッティングしているようだ。

過保護な保護者どもには邪魔させない!!ということらしい。

ノルンとマールは、茶器やお菓子のお皿なども入念にチェックして用意してくれている。
僕は、ジークハルトと一緒に大人しく二人を眺めていた。
ジークハルトは、しきりに何かを感心していて、ノルンとマールに任せていらたら安心だと言っている。

お茶会の準備が終わり、時間ぴったりに彼は現れた。
魔導師長が彼をエスコートしている。
その後ろには、宰相の姿もある。
神経質そうな美少年。
年齢は、ジークハルトと同じ年のはず。

いかにもめんどくさいという表情の中の瞳は、侮蔑の感情を宿している。

「ラスティ様、初めまして。私は、宰相リアストル・セージの息子のトリスティ・セージといいます。」

いかにもめんどうだという風情で彼は言う。
僕は、普通に挨拶して彼を席に促した。

「いえ、顔を見せたのだから帰っていいですよね?」

お前に会うのは面倒でしかないという顔で彼は言った。
宰相が額に手を添えて天を仰ぎ、魔導師長は目を丸くする。
ジークハルトは、不快そうに彼を眺めている。
最悪な空気だ。
さて、と僕は可愛らしく首を傾げた。

「昨日奥の間でとれた香草を混ぜて作ったお菓子があるのです。美味しいので食べていただけませんか?」

僕の言葉に不快そうにトリスティは、眉を寄せた。

「はぁ?…ままごとの泥団子を食べろと?」

ノルンとマールが、彼をにらみつける。
城の料理長がきちんと作ってくれたお菓子だ。
泥団子のわけはない。
分かり切ったことだろうが…。

幼稚な悪意。
幼稚な暴言。

ぶっちーんと何かが外れた。
そう…外れたのだ。

ここで僕が気分を害しても相手の狙い通りという奴だ。
彼は、僕を怒らせて失態させたいのだろうなと思う。

僕の方の「わがまま」でせっかく会いに行ったのに登城を断られたとでもしたいのか。
表に出ない僕。

適当に言質だけとれば、あとは好きに噂できるということか。

噂など尾ひれがつくもの。
例え、噂する者が最初に尾ひれをつけてもだ。
多少の真実が入っていれば、こちらは頷かざる負えない事態も出てくる。
完全に嘘ならば、彼の虚言としてはねのければいい。
悪意満載の彼には、何をやっても悪く言われるだろう。

所詮は僕を陥れてやろうという気でこの話を受けたのだろうなと思う。
ならば、僕は時間まで穏やかに受けて流す。

……、それだけだ。

舐めるなよ?自慢じゃないが、こういうモンスターには慣れている。
伊達に「俺」は、前世で、社畜してねーんだよ。
にっこり笑って、心の中で舌を出す。

隙は見せない。
隙を見せたら食われて終わり。

営業のサービス価格の赤字仕事の残業続きでクソ上司の嫌味たらたら最低環境。
帰りたいって愚痴ばっかで手を動かさない同僚ども。
お前らが、きちんと仕事覚えて質問三昧しなかったら定時に帰れたつうの。

そうだ…「俺」はこういう奴だった。

残業で疲れ切ってトラックにひかれて死んだんだ…「俺」。
あーあ…やたらまとわりついてくる同僚の失敗に付き合わされて連日残業だったものな。

ラスティの純粋さに、飲まれていた。
「俺」は純粋なんかではない。

本来、怠惰でだめな男だ。
何かのためって思わないと立ち上がれない弱い奴だ。
自分一人なら、どうなってもいいかと今まで思っていたけれど。
俺には今守るべき「家族」が居るから。

ようやく、立ち上がる理由が出来た。

陛下やジークハルトに悪いことをしたなと思う。
彼らは強いからって思っていた。
だから、守る必要なんてない。
どこか今までの生ではそう思っていた部分がある。
だから、だらだら流された。
「俺」は死ねばいーんでしょってどこかでそんな風にいじけて思ってた。

ようやく目が覚めた。

この生で陛下もジークハルトも「家族」だって思えた。
「俺」は「家族」のためなら頑張れる。
「俺」は「家族」を守るために生きていた。

「家族」のためなら生きることに貪欲になれる。

…目の前の胸糞悪い餓鬼の態度で目が覚めたというのも情けないけれど。
今まで自分がどれだけ陛下に守られてぬくぬくとしていたのか思い知らせされる。

甘えて怠惰にぬくぬくと包まれていたかを思い知る。
逆らうことも忘れて流されて…自分では何も考えすに流されて繰り返す生。

でも…前世の俺はどうだった?
すごくひどい奴だった。
醜くあがくバカだった。
のたうち回って歯を食いしばってなんでこんなに頑張ってんのっていうくらい働いた。

「家族」のために歯を食いしばって働いて働いて働いた働いた。
「俺」の存在意義が「家族を守る」だっだ。
辛いときの支えが「家族」だった。
一人だと、立っていることも生きていることも面倒くさくなる奴だったから。
いいことではないのはわかっているけれど。
どっか壊れてる。
依存してる。
そう思うくらい、「家族」を守るという思いにとらわれて。
でも…その分、家族も必死に俺に返してくれていたのも知っていた。

ーお兄ちゃんが、がんばってくれた分…私が働けるようになったら…楽させるね?ー

泣きながらそう言いながら入学式に向かう妹を思い出した。
忘れてた…ゲームばっかりしてる姿しか覚えてなかった。

好意には好意で返す。
悪意には悪意で返す。
当たり前だよな?

伊達に、学生時代からバイト三昧していない。
営業スマイルで、胸糞悪い客の相手もしてたなと思い出す。

思い出した営業スマイルでトリスティに向かう。
聖者を信仰する彼にとって僕は敵でしかない。

ならば、僕の態度は決まる。
僕にとって、彼はモンスタークレーマー。

背筋を伸ばす。
目の前には、質の悪いお客様。
後ろには守るべき、ノルンとマール。
そう、彼らだって今は「家族」。
大事な大事な守るべき人達。

…まだまだ僕の方が守られているけれど。
ここは踏ん張る。頑張ります。

さあ、どう追い出そうかな?
もちろんお城お店の評判は落とさないように。

「ままごとですか…楽しそうですね。」

くすくすと僕は余裕で笑って見せる。
僕の態度に、馬鹿にされていると思ったのだろう、トリスティが、はぁ?と不快気に僕をにらんだ。



僕はにこにこと余裕で笑う。
しっかりおもてなしするよ。
思い出させてくれたお礼だ。



純粋なラスティの中身は、仕事人間で弱いダメ人間の社畜なんだってことをな?



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