不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第四章 波乱の学園生活

68 少しだけ複雑な感情

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授業が始まっても僕はぼんやりとしてしまっていた。
担任の教師が、教科書を読んでは細かい説明している。
カリカリとペンの走る音の中、僕はどうしても集中できない。
頭には別のことばかりが浮かぶ。
教師の声が、教室に響く。
たまに冗談を交えて教室は笑いに包まれていた。

僕は、笑いもせず教科書を眺めていた。

どうにも、授業に身が入らない。
授業もあまり頭に入っていなかった。
どうしても、ちらつく光景。
朝のロイスとジークハルトの仲のよさそうな光景。
気になってしまうのだ。
授業を受けながら、頭にあったのはジークハルトのことだった。
どうしても気になってしまう。

なんだろう。

何かの予感なのだろうか。
不安がまとわりついているようなそんな感じだ。
手は器用に先生が書く文字を追って書いているけれど。
漠然ともやもやとした、自分でもよくわからない感覚。
このままだといなくなってしまう。
そんな焦燥感にかられるのだ。
どうしてだろう。
ロイスが、前の生で僕を殺した人だから。
そうかもしれないけれど。
でもあの時のロイスと今のロイスはまるで別人で同じ人だとは思えない。
思ってもいない。
だから、前の生の恨みとかそういう感情ではないと思う。
ジークハルトの愛情を今まである意味独り占めしていたところもあるから少し寂しいということなのか。
寂しいとか、なんて、僕は傲慢だなとぼんやりと思う。
この不安は別のような気もする。
でも、ジークハルトのことのような気もする。

ロイスと婚約とかになったら祝福しないとな。

そう思うのに、もやもやしている。
でも、嫉妬とは少し違うと思う。

なんだろう。
もやもやする。

本当にそんな不可思議な息苦しさを感じる。
このもやもやが何かの予感ならば…。
そっと自分の胸の上に手を置く。
内ポケットにあの誘拐事件から回復薬や解毒薬を入れるようにしている。
入っていることを確認して、担任が書き始めた板書を目で追う。

なにが原因でこんなにもやもやしているのか。

自分は、そんなにジークハルトとロイスのことが気になるのだろうか。
ジークハルトもロイスも好きだから、二人が幸せに笑っているのはすごく僕にとっていいことなのだけど。
二人を思うともやもやとする。
ふぅ…とため息が出てしまった。
ジークハルトのことが気になって仕方がない。

「どうかしましたか?ラスティくん?」

担任の声に顔を上げた。
教室の皆が僕を見ていた。
どうやら、先ほどのため息が思いのお他響いていたようだ。

「……ごめんなさい…」

担任のレスリル・アネモネが端正な顔に心配そうな表情を張り付けている。
薄い灰色の髪を長く伸ばして後ろに束ね、メガネの奥で青い綺麗な瞳が不安そうな光に揺れていた。
20代前半の学園でも人気のある伯爵の地位をもつ教師だ。

王妃が教室で体調が悪くなったとか、嫌だろうな。

少しこのレスリル先生には意地悪くなってしまう。
いい先生なのだろうけど、僕はあまり近寄りたくない。

熱心な聖者信徒だ。
リオンを敬ってないのでは?と以前ちくちく嫌味を言われたことがある。

結構幻滅した。
それから、距離を置いている。
事情をしれば仕方がないことなのだが。

先生の家は、先の戦いの前までは、この国の貴族というわけではなかった。
つまりは、リノと同じで敵側の国の貴族。
侯爵家だったという。

爵位は下げられているが貴族のままではいる。
けれども、元は敵国の貴族。
王城に上がることは許されていない。
元々侯爵だった家柄から考えると屈辱的だろう。
先生自身も、王族に良い感情はもっていないようだ。
教師としては真面目で、分け隔てはない。
けれども、少し感情が出てしまう時があるようで嫌味を言われたりはある。
ひどい目にあっているわけではないが、苦手意識はやはり出てしまう。

「…体調が悪いのでは?顔色が悪い。」

マールも心配そうにのぞき込んでいた。
僕は、少し考えてから体調には問題ないなと思う。

「体調は問題ないです。授業を続けてください。」

何でもないと答えるが、担任はいやいやと言ってくる。

「いえ…本当に顔色がわるい…保健室に行きますか?」

まったなぁと思う。
心配してくれているのだろうが大げさだ。
妙にしつこい。

「大丈夫です。」

レスリル先生は、しかし…とつぶやく。
いっそ保管室でサボるか?と思った時だった。



「ねぇ、ラスティ…僕の所為?」
リオンが、そう口を開いた。


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