不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第五章 変わる関係

110 不安

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朝の光の中、庭で奥の間の使用人たちが三人揃って掃除をしている。
今は手を止めて談笑しているようだが。
ノルンとマールとノーマが楽し気に話をしているのを僕は、読んでいた本から目をあげて微妙な気分で見ていた。
本は、陛下が呼んで待っていてと渡してきた宿題だ。
陛下は、今日は教会に行くために午後を休むためにと早朝からバルハルト公と王宮に行ってしまった。
僕は陛下が帰ってくるのを本を読みながら待っている状態だ。
パラパラと読む本に書かれてる気になるワードに眉を寄せる。
分かっていてこの本を僕に渡してきたのなら陛下は相当意地が悪い。
いや…分かっていて渡したのは確実だろう。
注意しろという事なのだろうと、僕はため息をつく。
どこまで分かっていて陛下は、動いているのだろう。
手にした本に目を落とす。
どうにも以前の生で得た知識より魔法の概念が増えている。
何がここまで世界をゆがめているのだろうか。

「そもそも…僕が生き残ろうとすることが世界をゆがめてるということなのだろうか。」

最近特に感じる。
世界もそうだが、個人的にもそうだ。
皆がおかしくなっているような気がする。
気ではなく、おかしくなっているのだろう。

「まともなようで…一番まともでないのは…陛下だものなぁ」

僕を盗聴していた所為で僕の事情も知っているらしい陛下は、そのことを隠そうとはしていないけども、陛下本人は何か隠している。
というか…盗聴がすでにまずいです。
犯罪です。
陛下は、結構病んでるのだろうかと少し思う。
少しどころではないかもしれないが。

「ん~…まぁいいか…。」

僕は、陛下については思考を投げた。
かんがえても仕方がない。

陛下は…おそらく味方だ。

それだけわかっていればいい。
若干投げやりに思考を放り投げる。

まぁ…僕も危ない。
陛下のそんな独占欲を心地よいと感じているのだから。
僕も相当オカシイ。

「それでね…」

庭で楽し気に話している三人の声が聞こえた。
その三人に僕は目を向ける。
太陽の下青い芝の中のレンガの道の上で箒をもったまま三人は楽し気に話をしているようだ。
仲の良い三人に見える。

時折ノーマを見るノルンの眼に観察するような光が浮かぶのが見えるが。
ノルンのその気持ちは僕にもわかる。

ノルンとマールに不信はない。
ただ…一人…ノーマに僕は少し不信を覚えている。
普通にジークハルトに毒を盛っている時点で信じてなくても当たり前だろう。
だが…僕の前世と同じ世界の記憶を持つという話を聞いて少し心を許していた。

「けどなぁ…」

手元の本をめくる。
気になったワードを指でたどる。

言霊。

言葉に意味が力を持つという言霊。
ノーマという名前には意図せず元リノを牽制する言霊が封じられている。
ノルンとマールの名前からとったノーマという名前にリノは封じられている。
そういうことなのだと、陛下が読むように言った本には似たような事例が書かれていた。

そこまでの用心をしないとならないのだろうか。
偶然だろうか。
そう思いながら僕は本を読みながら気になったワードを無意識に指でなぞっていた。

なぞるワードはネガティブなものが多いことに僕は気が付いた。
何か不安に感じているのだ。
何が不安なのだろう。

今日会うのはリオンだ。
教会に行くという陛下が合うのは大神官だという。
僕を連れて行くのは学友のリオンに会いに行くと良いと陛下が連れて行ってくれることになってる。
実際はそうだ。
友人のリオンに会いに行く。
先に会いに行きたいという連絡はしている。
返事は、楽しみに待っているというもの。
ジークハルトの事からリオンも学園にいっていないという。

「リオンに会いに行くだけ…」

なのに…時間が過ぎるごとに不安が増していく。
怖いと感じている。

リオンに会いに行くために教会に行くのが怖いのだ。

ロイスとジークハルトは今日は留守番だ。
あの時の冒険者のロイスはいない。

それなのに…怖いと思う。
あの教会に今日行くのは怖いと思う。
この感覚は何なのだろう。

今日あの教会で何かあると予感しているのか。
もしくはトラウマで怖いと感じているのだろうか。

「そうだ…まだ…始まってもないのに…」

16歳まで猶予があると油断していなかっただろうか。
していた。
第二王子が16歳になっているということが条件ならば…今年は条件があっている。
その上で、僕が殺されたっておかしくないのだ。

「…そうだ…その条件だって…ただの思い込みかもしれない。」

ジークハルトの事件はたまたまで…16になったらやはり僕はエスターに毒を…。

ぞっとしてしまう。

もしかしたら変わっているかも。
そう思った。
希望を持ってしまった。

その希望がただの錯覚だったら。
結局何も変わっていなかったら。

足元から何かが崩れていく感覚を僕は感じながら、すでに意味を読みとれなくなってしまった本を眺めていた。

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