不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

131 行きはよいよい

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若干不安は残るものの、リオンの最近のことが知れてよかったなと僕は、マールとジークハルト達を待って帰ることにした。
若干と言うか…かなり不安だが。

暴走しなければいい子なんだけどなぁ。

そんなことを思いつつ、リオンの私室でたわいもない話をする。
最近はどうしているというものだ。
他に変わったことがないかという僕の質問に、リオンはそうだねと少し考えてから首を傾げた。

「ウェルタっていう商人の息子がいろんなものを売りにくるようになったかな。」

僕はへぇっと言いながら内心、出て来てたなと思う。
リオンの最後の攻略対象。
まぁ以前ノーマが言っていた続編があるとしたらちょっと違うのだが。
とはいっても、僕の死の運命に関わっている最後の一人だということには変わりないだろう。
僕の残った運命に関わるとしたら彼だろうなと思っていた。

「トリスティとは交流があったみたいなんだけど…最近は疎遠になってるってぼやいてたかな?」

マールが少し眉をよせた。
何か言いかけたが、ここでする話ではないと思ったのだろう。
口を閉ざした。
僕はそんなマールが気になったがともかく、今はウェルタのことを聞こうとリオンの話に耳を傾ける。

ウェルタはすでに独り立ちをして、いまは行商のようなことをしながら、自分の店を持った時に商品になりそうなものを見てまわっているのだという。
僕はへぇっと頷きながら内心、おや?と首をかしげていた。
ゲームの中や、今ままでの彼はそんなことはしていなかった。
この時期のウェルタは自身の兄を押しのけて父親の後継者になっていた。
彼は今までだったら、商店の中では交易のほうを担当していたはずだ。
だが、今回の彼は商会を継がず、独り立ちをして行商をしているという。
確かに、最終的には彼は商会の後継者を降り、旅の商人になる。
彼が旅の商人になるのはトリスティと組んだためだったはずだが。

疎遠になっているのに、旅の商人になっているという矛盾に少し首をかしげる。

リオンは、他にもいろいろ話していたがそろそろいい時間になった。
僕とマールは、また来る約束をしてリオンの私室を出た。
まだ、ジークハルト達が来ていないので教会の前に設置してあったベンチで待たせてもらうことにした。
時間もあって人も居ない。
僕とマールがのんびり待っていると人影が近づいてきた。

「あれ?」

マールと僕は首をかしげる。
トリスティが一人で歩いてきたのだ。

「どうしたの?」

マールがそう問うとトリスティは、微笑んだ。

「ああ、ジークハルトが少し用事があって遅くなってるから…私が先に来たんだ。もう少し待ってくれるかい?」

マールは少し眉をよせた。
何か引っかかるものがあったのだろうか。
僕はマールとトリスティを交互に見て少し考えているとリオンの声がした。

「あーよかった、まだいたんだね。マールちょっと来て、お土産渡すの忘れてたんだ。」

マールが少し戸惑っているとトリスティは待っているから行ってくると良いと微笑む。
少し戸惑ってからマールは頷いた。

「ラスティ様、少し行ってきます。ここから動かないでくださいね?」

頷く僕にマールは、端ってリオンの方へと向かった。
トリスティは、マールの背中を見ていたが、すこし考えているようだった。

「そうだな…ラスティ様のほうがいいか…」

そういうと彼は微笑んだ。

「ねぇ、ラスティ様、少し歩きませんか?マールもジークハルトも時間がかかるでしょう。」

僕は、マールに動かないようにと言われたことを思い出した。

「でも…マールが…」

大丈夫ですよとトリスティは、笑う。
僕は少し考えて、トリスティの顔を見る。
やわらかく微笑むトリスティに、そうだねと僕は頷いた。

「うん…分かった。」

トリスティは、こちらですと教会の横にある小さな小道に僕を誘った。
僕は、トリスティの後ろをついていく。
少し歩いてから僕はトリスティの背中に声をかけた。

「…ねぇ、僕でいいかって何が?」

トリスティはええと頷く。

「マールに相談があったのですが…よく考ええたらラスティ様のほうが適任だなと思いました。」

へぇと僕は頷く。

「どんなこと?」

トリスティは、少し考えているようだった。
彼は振り向くことなく、考えていたがここでは話せないですねと苦笑する。

「少し…二人になれるところに移動させてください。」

僕は、少し首をかしげたがまぁトリスティは信用できるしと頷く。
トリスティは、すみませんと振り向かずに行った。

「では…こちらに…」

小さな小屋と扉があり、その扉の向こうは緩やかな階段だった。
地下の様だ。

「あまり…地下はいい思い出ないな。」

僕の言葉にトリスティは、苦笑しつつすいませんと言う。
しかたないかと僕はトリスティの後ろについて階段を下りる。
少し降りたところでいきなり扉が閉まった。

「え??」

僕が慌てて扉の方を振り返ると後ろに男が立っていた。

「え??誰??」

そう口を開けた僕の、口の中に何かがねじ込まれる。
飲み込まないように必死に吐き出そうとしが前の男の手が僕の口と鼻を抑えて呼吸を奪う。
後ろから僕を羽交い絞めにする男の腕の所為で身動きが取れない。
トリスティの腕だった。

なんで??

僕は、必死に暴れるが口と鼻を覆う手はまるで人の手のように感じない。

「苦しでしょう?飲み込んだら…離してあげますよ?」

男の声がする。
トリスティのものとは違う声がそう囁いた。
僕は、酸欠でぼぅっとしてくる意識を必死に手繰り寄せようとした。

けれど…『俺』が僕を押しのけて表に出た感触と共に『俺』は口の中のそれを飲み込んだのだ。

男が僕が飲み込んだのを確認してから僕から手を放した。
意識が落ちていく。
目の前の男が塵になって消えていく。

後ろから僕を抑え込んでいる男が笑っている。

「これで…俺からトリスティを奪ったあいつを苦しめることができる…。」

そうつぶやく男の声を聴きながら僕の意識は闇に堕ちて行った。



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