不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
167 / 233
第六章 運命の一年間

149 独白 ディオスside

しおりを挟む
バルハルトと穴に飛び込んで、しばらく闇の中を落下する。
多少落ちる速度を遅くしているから、地面に足がつくのは数分かかるだろう。
本当は逆に速度を速めたいところだが、バルハルトが怒るのでしかたなく速度を落としていた。

闇が続く、闇の中へ落下していく。

恐怖を感じるのが普通だろうとディオスは眉を寄せた。
ラスティとマールはどんなに怖かっただろうとディオスは苦しく思う。
だが、ディオスの本人の感想としては、結構落ちるなと言う軽い感想だった。

ー着地失敗したらこれは死んじゃうなぁ~ー

薄く笑いながらそんなことを思う。
ラスティとマールは無事だろうかと眉を寄せるがバルハルトの言いつけは守らないとなとため息をつく。
どちらかと言うと速度を落とすより早めたいのだがとディオスは、先に落ちて行ったバルハルトのおせっかいめと口を尖らせた。

ー別に…俺はいいだろうに。ー

とはいっても、ディオスもバルハルトの心配の原因が自分だという事は理解している。
弟が死んでから、ディオスは自分の命を軽視するようになった。
ディオス自身、自覚はあるがそれを治すことをある時期はあきらめていた。
今は少しは改善しようとはしているが、その時の影響はひどく治ってはいない。
理由は分かっている。

最愛の弟が国のために死んだからだ。

家族に愛されていた弟。
確かに両親も愛していたはずなのに、国のためにと弟を帝国に差し出した。

殺されるとわかっていたのにだ。

助けるための方法は、確かにあった。
それに賭けていたという事も理解はしている。
そして、国王としての、父の苦悩を見ている。
だが、今でもディオスは納得ができていなかった。

その時は王位継承権はなかったディオスを差し出せばよかったではないかと。

自分ならば、よかったのにと今でも悔やむ。
王族に生まれた宿命だなどと口では言えても、心は納得できないままだ。
自分ならばと今でも悔やむ。

ー自分だったら…帝国のやつを殺して終わってやったのにー

暗い感情をディオスは飲み込む。
帝国のほうも当時から高い戦闘力を持つというディオスを警戒し、弟を指名したのは分かっている。
そんなことは、できなかったという事も。
だが、後悔はディオスの心を病ませていた。
ディオスの感情の大半は壊れてしまっているように彼は感じていた。
一番が、自分の命を軽視する考えになってしまったことだろう。

命は大切なもの。

言葉は知っているのに心が受け付けなくなったのだ。

国など、どうでもいい。
王など、くだらない。
別に、滅んでいい。
別に、死んだっていい。

ディオスは虚無の中で暮らしていた。
いつ死んでもいいと思うようになった。
ただ、バルハルトやジェンが泣くので生きていた。
辛うじて、二人がディオスの命を引き留めていた。
弟のために共に必死になって戦った仲間たちは、大切だという心だけは辛うじて残っていたからだ。

ーあいつらは…これ以上泣かしたくないー

弟が死んだときに泣けない自分の代わりに泣いてくれた親友たち。
ディオスの虚無を理解してそれでも彼を見捨てず傍で支え続けてくれた親友たち。

ー弟がいなくなって…心に穴が開いた。怒りに身を任せて殺しに殺した。ー

ディオスはその時に更に壊れている。
弟を亡くして悲しみに囚われて、敵を殺しに殺して自分と同じ家族を失った者を量産した。
それを理解し、ディオスは殺した者の大切なもの達からの憎しみをぶつけられて彼は更に心を壊した。
自分を憎むもの達に殺されても当然だと思うようになった。
それが、自分の死にざまだろうと己をあざ笑っていた。

ー結局、俺は、感情のまま悲劇を量産することしかできない獣だー

父王は息子を見殺しにした愚王として退位し、国を救った英雄としてディオスは王になった。
ディオスは表面上は穏やかな笑みを絶やさない名君といわれるようになった。
だが、その心の内は、虚無しかなかった。
自分をただのヒトゴロシだと罵っていた。
苦しみしかない生など、早々に終わらせたかった。

ーけど…バルハルトとジェンが、俺を大切だと言うから…ー

ディオスは二人を悲しませないというそれだけで生きることにしていた。
自分の価値などそれしかないとディオスは思っていた。

国王など…だれだって出来る。
別に国など、頭が誰になっても民がいれば別にいいだろう。
名前が変わるだけだと投げやりになっていた。

そんな日々を過ごしていた。
けれど…ディオスには大切だと思えるものが少しずつ増えて行った。

最初は、ジークハルトだ。
バルハルトとジェンの間に生まれたジークハルトを初めて見た時にディオスの心が少しだけ動いた。
小さな手に指をつかまれた時に、大きな瞳が自分を映していた時に。

そして、自分の子だと、嘘だと分かっていてたがエスターが生まれた時もそうだった。
己の子ではないと分かっていた。
けれど、彼はディオスを父と慕って甘えてきた。
どうしたらよいかわからず、エスターの教育は間違っていた部分も多いが。

か弱い彼らが平和に生きれる場所を守る。
彼らが大切だと思えるものを守る。

自分にも守るものが出来たのだと。
大切だと思えるものが増えたのだと。

そして、あの日。
弟と同じ色のラスティを見た時に、愛しいという感情を思い出した。

最初は、正直に言えば弟の代わりに幸せにしたいという思いだった。
けれど、ラスティと過ごすうちに弟とは違う意味で大切で、幸せにしたいと思えるようになった。

だが、自分のことはどうでもいいという考えは払しょくは出来ない。
ここで死んでも別にいいという投げやりな考えのまま、ディオスは今も心が壊れたままだ。
だから、いろいろな無茶を平気でしてしまう。
それでも、先ほどのジークハルトの悲し気な瞳は少し胸が痛んだ。

ー別に…いいのに。俺が死んだらラスティが自分のモノになると喜べば。ー

そんなことが出来ない優しいジークハルトにディオスはため息をつく。



「それを許してもらえないのが…俺の罪なんだろうな…」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...