不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

150 走竜 ディオスside

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いつまで続くのだろうと足元の闇をディオスは見つめる。
まるで自分の心のようだとディオスは思う。

ーこの世界が繰り返していると知った時、少しばかり以前の生と言う記録を思い出したー

そこでの自分はラスティをただ、失っていた。
そして完全に壊れるのだ。
今回は、そうではなかった。
ラスティを守れていると思っていた。
それだけがディオスの命をつないでいた。

ーけど…ラスティがいなくなったら…ー

見ようと思っても今は、ディーからの情報は切れている。
自分の傍にいないのはわかっているからラスティの傍にいるはずだ。
ラスティの意識がないのか、今魔力をラスティから受け取れなくなっているのだろう。
先の自分への伝令でディーは力を使い果たしている。
供給される魔力がなければディーはそろそろ消滅するだろう。
長く持ったものだなと、使い魔の状態から自分の異常性を苦笑しつつディオスは思う。

「ラスティ達は脆いからなぁ…けがをしてなければいいけども。」

もし、ラスティが死んでいたら自分はどうなるのだろうとぼんやりとディオスは思う。
たぶん、今度こそ確実に壊れるのだろうとディオスは暗い笑みを浮かべた。
ふと、もう一人のラスティのことを考える。

ーあの子は…ラスティの体が壊れても、残っているかもしれないな…最低でもあの子は助けれるだろう。ー

ラスティが気にかけていた、もう一人のラスティ。
魔法で生まれた人格だが、その人格は魂を持っていた。
美しい魂だと思った。
ラスティが願うように彼の友人として人の体を与えることが出来ればラスティの良い友人…いや兄弟になるだろう。
でも、とディオスはため息をつく。
あの子もディオスにとって大切だと思える存在だ。

「けど…あの子は俺のこと嫌いなのだろうなぁ…」

もう一人のラスティは、ディオスを前にすると妙に挙動不審になる。
存在を隠している時はそうでもなかったと思う。
けれども、今は、おびえているようにも感じられていた。
ディーを通してみているとラスティには…いや他の者にも砕けた様子で接しているのにディオスを前にすると警戒しているのかガチガチになっている。

「俺の態度が悪いのかなぁ…」

ディオスはうーんと悩む。
消滅させると思っているのかもしれない。
少しばかり確かにディオスはもう一人のラスティには思うところはある。
だが、嫌いなわけではなく、逆に好ましいと思ているのだ。
けれど、少しばかり混じる感情が彼をおびえさせているのかもしれないとディオスはため息をついた。

「確かに大人げないよなぁ…」

そろそろかと判断し、ディオスは魔法を発動させた。
落下速度が更にゆっくりとなる。
地表が見えたので魔法を解除し着地して周りを確認するした。
魔物の気配はないが、生き物の気配はする。
先に降りていたバルハルトが、ディオスを手招きしていた。
ディオスは静かにバルハルトの横に立つ。

「おい…あれ…」

大型の走竜が穴に顔を突っ込んでじっとしている。
おそらく獲物が出てくるのを待っているのだろう。
魔物ではないが、なかなかに強い生物だ。

「うん?獲物待っているにしては…しつこいな…あいつらは飽きっぽかったはず…何やってんの、あれ??」

走竜は知能も高い。
無理だと理解すれば別の獲物を狙うことが多いはずだ。
だが、あの走竜はしつこく穴に顔をつっこんで待ってる。
ディオスは、動かないし変だなぁと首を傾げたが、もしかしてと眉をよせた。
辺りにあの走竜以外の生き物の気配がない。
魔物も、獣の気配も他の生き物の気配がないのだ。
いるのはあの走竜の気配と奥に感じる大物の気配。

「…そういうことか?ならあの穴の中は…ラスティ達かな…」

ディオスがラスティ達が逃げ込んでいるかもしれないなと、言いながらバルハルトを見ると彼も頷いた。

「あれがここの主ってことはないよなぁ。」

バルハルトの言葉にディオスは頷いた。

「あれは…魔物ではないからねぇ。手ごわいが魔法生物ではないから主の可能性は無いな。」

奥にもっと大きな気配があるとディオスはつぶやく。
鼻の良い走竜は、獲物の匂いに集中しているのかディオスとバルハルトに気が付いていない。
バルハルトがどうする?とディオスを見る。
倒すか、脅かして逃がすかと問う。

「逃げなかったら晩飯にするか?」

バルハルトはディオスの言葉に眉を寄せた。

「ちと固いんだよなぁ。あれの肉。」

味はいいのだがと言いながらバルハルトが、魔石を振りかぶった。
魔石が首に当たり、走竜の足元に転がった。
走竜がこちらを向く。
その瞬間に走竜の足元に転がっていた魔石が閃光と爆発音を出した。

『わぁ!!』

穴の中から驚きの声が上がったのをディオスの耳は拾っていた。

「ラスティだな~」

やっぱり穴に避難していたかとほっとする。
無事だったという案度とはやく走竜を倒して姿を確認しないと…とディオスは思う。
走竜は閃光に一瞬ひるんだが、元々目より匂いを感じで動く生き物だ。
未だに視力は戻らないだろうが、匂いを感じて正確にバルハルトに向かって走ってくる。
少しよろけているように見えるのは閃光で目をやられているからだろうかとディオスは疑問に思う。
バルハルトが剣を構えた瞬間、ディオスはタイミングをはかり、炎の魔法を走竜に放つ。
熱と光が走竜を包んだ。
あまりの熱に足を止め暴れ出す走竜はバルハルトを見失ったのだろう。
のたうち回りながら匂いを感じようとしているのか顔を上げた。
その首めがけてバルハルトは高く飛び上がり落下の勢いのまま剣を振り下ろした。

肉と骨を断つ音があたりに響く。

ごろりと音を立てて首をが落ち、次いで走竜の体が床に倒れ伏す。
バルハルトは剣についた血を剣を振ることで散らすと鞘に納め走竜を確認した。

「あまり手ごたえがなかったな。」

バルハルトの言葉に、ディオスは炎を消し、走竜の胴の腹に手を置いた。
そして、眉を寄せる。

「飢えていたようだな…かなり痩せている。弱っていたようだ。だから簡単にやれたのだろう。」

本来ならばもっと抵抗するだろうとディオスはつぶやく。
穴の中の獲物をしつこく狙っていたのも食べ物が無かったせいだろう。
おそらくは結界が上の穴を覆ったことで獲物がここに入ってこなくなった。
ここの洞窟の生き物はおそらくこの走竜に食われたのだ。
そして、食べるものがなくなり走竜も飢えていた。
奥にいるであろうこの洞窟の主は核を持つことから魔物で食べ物は必要がない。
この世界に満ちている魔力が動力だから元気だろうとディオスは推測する。
さて…と、走竜はそのままにしてディオスは穴の中を覗き込むとラスティが祭壇の陰から顔をのぞかせていた。

ディオスは安堵と共に、自分を見つめる瞳が不安に揺れていることを感じた。
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