不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

166 僕の始まり

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叫び声が聞こえる。
僕を助けようとする声だ。

こうやって落ちるのは初めてかもしれない。

よく似た光景を思い出す。
物理的に落ちているのではない。

魂が落ちるあの時に…僕が死んだ時に似ている。

けれど…恐怖がない。
寂しさもない…。
やわらかな何かが僕を包むように、いや実際包んでいるのだろう。

僕はいつもとは違う風景の中、闇の中に沈んでいく。

闇の中…。
声が聞こえた。

まっくらな闇の中。

遠くに明るい光が見えた。
それは、小さな穴から覗いている光景のよう。

僕がいるけれどいない世界。
僕の夢の中の光景なのか。
本当に世界の光景なのか。

ふわふわした僕の頭ではわからない。

祭壇が見える。
全てが光に包まれている。
大きな魔石が琥珀色の宝石に包まれている。

ああ、きっと夢の風景だなと思う。

僕が覚えているこの世界でこんなきれいな風景はない。

神様の気配を感じない世界。

光の中、誰が静かに語る声が聞こえる…。


今度こそと決めたのだ…。
きっと助けるのだと…。

だから俺の手をとって、と…。


僕のために手を伸ばしている。

ずっと傍にいた気配。
この世界を進めるための存在。


僕の中でずっと僕を守っていた君の声がするんだ。

『ごめんね…ラスティ…』

僕は何かに包まれていた。
僕を守るために『俺』が僕をかばって抱きしめているような感覚。
実際そうなのだろう。
闇の中で、小さな穴のような場所から風景だけが見える。

何度も感じた光景だけれども…。
いつもは赤い炎につつまれた城が見えた。

嘆きの光景だ。
けれども…今見える光景は違う。

陛下が、僕によく似た人をマントに包んで大切そうに抱き上げている。

少し胸が痛んだ。

『大丈夫だよ。今回だけね?』

苦笑する彼に僕は、何がと問う。
彼は、笑った。

『陛下は君だけだから大丈夫。』

そんなのわからないと僕が言うと彼の呆れた雰囲気が伝わってきた。

『はぁ…まったく君は…これは少し…自覚させるために意地悪した方がいいのかな?』

あとで陛下に相談してみようかな…と彼は言う。

『…ん…でも陛下もちょっと自覚低いものね…バルハルト様案件かな?』

くすくすと楽し気な彼に僕は首を傾げた。
ひとしきり笑うと彼はそろそろかなと苦笑した。

『こうやってここで話すのは最後になるだろうね。君はそろそろ自分の肉体に帰ったほうがいい。』

馴染んだ闇の中で僕は首をかしげる。

『そう…最後…勝っても負けても『俺』にあとはないんだ。いや…『俺』たちにはかな?』

そういうと彼は、少し考えてからそうだなと頷く。

『もし…陛下や『俺』が負けちゃったら…君はここに逃げなさい。今度は生身でね。できれば陛下をつれて…そうすれば破壊から逃れることができる。地下はあの神の管轄ではないから。』

それにと彼はいう。

『君には長く守ってもらった。『俺』という者を育てたのは確かに君だ。だから君は『俺』の父になるらしい。まぁ…『俺』感覚だと母なんだけど…どうも母は別に出来たみたいだから。君は父だ。これからは父上と呼ぶね?だから…『俺』がこれからすることは…全部親孝行だよ。君の幸せのために頑張るね。』

今は意味がわからないだろうけどと彼は笑う。

『でも…そうだな…一番楽になれる方法はここに居ることだ。ああ…ここと言ってもこの暗闇ではない。君の肉体がいるこの場所の事。『俺』という君の複製が出来た今…君は運命から今すぐ降りれる…陛下とジークと一緒にここ…王国の地下に逃げれば…数年かな…我慢してくれたら、『俺』もあっちの神も居なくなって君たちは普通に生活できるようになる。』

どうする?と彼は言う。

僕の目の前に選択肢が現れる。

逃げる?
逃げない?

という選択肢。
にこにこと笑っている『俺』の気配。
答えなど知っているだろうと俺は口を尖らせた。

逃げないと僕は選択する。
僕を父と呼ぶというならば、君は僕の子供だろう。
僕に守られておけと彼に胸を張った。

『あはは…そうだね…君は…父上はそう言う人だ。』

彼は笑う。
泣くように。
踊るように。

『選択はなされた。後悔の無いように。』

僕はゆっくりと光に包まれる。
起きるのだろう。

そして、もうここには来ない。
それだけはわかった。
僕を父と冗談半分でよぶ彼がずっと僕を守ってくれていた僕のゆりかご。
どちらが、親だよと苦笑する。

僕の意識はゆっくりと浮上していく。

彼が僕を見上げていた。

君はずっとここにいるの?

僕の問いに彼は、そうかもねと笑う。
かなしげに。
僕は精一杯彼に手を伸ばす。

いっしょに行こう?

そういう僕に彼は首を横に振った。

『もう…一つでないから…さようならなんだ…』

そう笑う彼にどこからか現れた腕が絡みつく。

『え??なんで君が……』

慌てる彼がその腕に囚われる。
僕は、少しだけ焦ったけれど…その腕の持ち主が誰かわかったので彼に伸ばしていた腕をひっこめた。

少し寂しいけれど…きっとこれが正解なのだろうと僕は苦笑する。

きっとこの夢を僕は覚えていない。
けれど、この夢には意味があるのだろう。

そうこれは夢だ。

僕が死んで生まれる前まで魂が休んでいた時にいつも見ていた夢の空間。
きっと君が眠る内に僕はかくまわれていたのだろう。

暗く寂しいと感じていた場所だけれど…本当は僕が目を閉じていただけで明るかったのかなと穴から見える小さな琥珀色の世界を見つめながら思う。

『え??なんで『俺』が君に捕まってるの??なんで??どうして??』

慌てる『俺』は別の所から光の中に行くのだろう。
どうやらさよならではないようだなと、謎の腕に囚われた彼に言う。



それでは、次は光の中で…。



僕はそう彼に告げると、目を開いた。

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