不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

171 暗転 リオンside

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教会に戻ると大神官から、リオンは呼び出された。
大神官の執務室に入る。
執務室には、大きな飾り気のない机と飾り気のない質素なソファくらいしかない。
大神官は、リオンが入るとリオンの前に立ちそのまま話始めた。
話は短いモノなのだなとリオンは特に身構えずに大神官を見上げる。
エスターとノーマが別宅の方に戻ったと聞かされた。

「彼からの願いでしてね…。」

エスターは、どうやら新しい王子の話を聞いて自分の地位を返上しようとしようと思っていると報告に来たらしい。
大神官は、その相談を聞き、まずは王と相談して、進路として神官も視野に入れてほしいと伝えたようだ。

「エスター様の望みを出来る限り叶えようと思います。聖者リオンも協力を願います。」

大神官の言葉に、リオンは違和感を感じる。
エスターを教会が保護していたのは、いや後押しをしていたのは王子であるからだ。

次期王の望みがあるからだったはずだ。
なのに、彼の望みを聞こうとしている。

次期王がジークハルトとほぼ確定で、エスター以外の王候補が出てきたのでエスターの目は、なくなっただろう。
だが、王としては新しく現れた金の髪の王族は地位が低い貴族からの子で年齢もエスターより低い。
エスターの王候補の序列の変更は無いと言っていたのではないか。
少々奇妙に思いながらリオンはそう…という。
大神官は、リオンを見て少し言いにくそうに言った。

「あと一つ報告があります。…その…聖者リオン…聖者候補が現れました。」

僕は目を丸くする。
ついに次の聖者が決まるのかと。
しかし、リオンの中では次の候補はラスティであった。
ラスティかと首をかしげると大神官は眉を寄せた。

「新しく現れた…王子が次期聖者候補だとお告げがあったとのことです。」

リオンは目を丸くする。

「え…でも…あの子は…」

リオンは眉を寄せた。
自分が器を作ってしまった人造の人格である彼は、ディオスの魔法によりラスティと別れた。
リオンの力を受けているから聖者候補にもなりえるだろう。
だが、彼自身には力が無いのではないだろうか。

「王家側にはまだ伝えてはおりませんが…王子となる前に彼を教会に渡してくれないかと交渉するつもりです。」

大神官は、リオンに彼の教育を頼みたいと言ってきた。

「え…彼が受けたら…がんばります。」

あくまで受けたらだ。
たぶん彼は受けないだろうとリオンは思う。

「…お告げでは…彼は、神の後継者でもあるとのことです…我々は…何があっても彼を王家から譲り受けるつもりです。聖者リオンもそのつもりでいてください。」

リオンは目を丸くする。

「え…??」

神の候補ってと首をかしげる。

「我らが神は、天に帰る道が出来たと告げられました。我が神は天に帰られます。代わりの神としての魂がこの世界に現れたからだと告げられました。それが、新しき王子の魂であると。聖者リオンと縁が深い魂だとも…。」

リオンは開いた口がふさがらなかった。
何を言っているのだろうと。
前の生で、あれが何を言っていたか。
あの子を、自分の代わりに据えるつもりだというが、この世界は壊れてしまう寸前だろう。
今更、後継者がなどという戯言を信じられるはずもない。

「失礼いたします。」

ノックと静かな声が響いた。
大神官が、顔をリオンの後ろの扉の方を向ける。

「どうぞ…お入りください。」

扉が開き、ノーマが入ってきた。

「やぁ、聖者リオン、久しぶりだね。」

ノーマがにこにこと笑いながら入ってきた。
リオンは、胡散臭そうな目でノーマを見る。
陛下やラスティは、ノーマが稀人だと思っているのだろうが、リオンにとってはただの胡散臭い人物だった。
前世のゲームの話を知っているし、前世の生い立ちも自分の知っている女性によく似ている。
だが、リオンの目には彼は嘘をついている詐欺師に見えた。
どこかで手に入れた知識で、陛下…いやラスティに取り入って従者になっているが、怪しい。
そもそも、うっかりや天然という風に問題を起こしているが実際は故意だろう。
エスターに深く取り入ってる所為でエスターが必死に庇っているが。

「そろそろ私の役目も終わる。」

そう笑う彼の声がノーマのモノから聞きたくなかったものに変わる。
大神官がノーマに跪く。

「……お久しぶりです。」

リオンは、ノーマをにらみつける。
何をしにきた。
そう無言で彼に圧をかける。
彼はにこやかに笑うと簡素なソファに座った。

「聖者リオンはどうしてそんなに不服そうなの?君の大好きなラスティは運命から逃れたでしょう?身代わりを用意したのは君だ。その身代わりをラスティが大切にしているのは予想外だったの?」

にやにやと笑うその表情にリオンは眉を寄せる。
大神官は跪いたままだ。

「あんたが、言ってた続編ていうのは大嘘だと思っていいのか?第四の子供。」

にやりとノーマは笑う。
リオンの言葉を肯定も、否定もしない。

「君の想像に任せるよ。まいた種がようやく芽吹くんだ。楽しくて仕方ない。楽しみにしていたんだ。」

とても、とてもね?とノーマは笑う。

「あんたは…何をしようとしているんだ。」

うふふとノーマは笑う。

「あの子達を帰れなくして僕が帰る方法を考えてただけ。もう三番目は帰れないよね…ラスティの魂はこの世界のモノになっているのだから。あの子を捨てて三番目はこの世界から天に帰ったりしない。優しいからね。あとは、五番目がここで神様になってくれたら、僕が不要なものだ。三番目だって自分の好きな五番目の世界のほうが居心地良いだろうし、力を貸すのもそっちのほうがいいだろう?僕だってこの世界がそこまで嫌いって言う事もないんだ。新しい神様が生まれたらここは延命できるよ?君だって望んでいることだろう?」

だから力を貸してほしいなとノーマは笑う。

「…断るよ…たとえ…結果が同じでも…君に力はかさない。嫌な予感しかしない。君は…お前は彼らを苦しめることしかしない!!苦しめることしか考えていないだろう!!!」

リオンの言葉にノーマは笑う。

「あはは…何を言っているの?私は皆の幸せを考えているよ。だってそうでしょう。幸せって言うのは結局…不幸を知らないと感じないものでしょう?ずっと幸せだったら幸せなんて感じないよ。だって…人間は愚かな獣なんだから。幸せが手の中にあっても、幸せなんて思わない。それが当たり前だと怠惰に思っているだけ。もっともっとと、強欲に…幸せをむさぼろうとする…手の中にある幸せで満足なんかしない。強欲で醜悪な獣じゃないか!!!」

リオンは目の前が暗くなるのを感じた。

「次に目覚めるときは…君は最高に悲劇の中だ…そこから上がってきなよ。聖者リオン…君の意志なんか関係ない。そう…その意思はいらない。君の肉体だけ使わせてもらうよ。」

あはははは…そう笑うノーマの声にリオンは必死に抗おうとする。
だが、この神の前に小さな人の魂はあまりに無力だった。




ーだれか…だれか…このことを…こいつが元凶だと…ラスティに逃げろと…だれか…この声を…ー




リオンの叫びは、人には届くことはなかった。



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