不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
192 / 233
第六章 運命の一年間

174 騎士王子奪還

しおりを挟む
相性がいいのは分かっていたことだが、こんなことができるとは聞いていない。
僕は、座り込んでいたはずのアスが駆けだした後ろ姿を見つめてそう思う。
逆に僕が、ふにゃふにゃになった。
力は入らないし、あーとかうーとかしか声が出ない。

『主!!その手がありましたか!!外道ですな!!』

子竜の呆れたほうな感心したような声が耳に入る。
ノルンとマールが僕を支える。

「どうしたんですか!!」

混乱したノルンの言葉に僕は応えれない。

「ごめん!!ラスティの体を動かす能力を一時的に借りた。支えてあげて3分だけだから!!」

アスの言葉に、僕はなる程と思うがこれは困る。
早々にアスを鍛えるしかないが、こんなにふにゃふにゃだとどうやって鍛えればいいのだろう。
アスは、ジークの額に手を置いた。

「かなりきついと思うけど!!きっかけしか与えれないけど!!あとは自分たちで頑張るんだ!!!」

強烈な蒼い光がジークハルトの額から彼の中に流し込まれる。
ロイスの方にもその光は入っているようだ。
彼らの苦しむ声が響いた。

「あ…うあぁぁ…!!!!」

アスは、後ろに飛ぶように二人から離れて子竜の後ろに戻ってくる。
そしてそこでまたへにゃりと倒れた。
僕の体が自由になる。

「おえーん」

アスは申し訳ないという風に僕を見る。
僕は、首を横に振った。
たぶん、ごめーんと言っているのだろう。
生まれたばかりの体の制御が出来ないのだろうが何で僕が動けなくなったらアスの動けるのか…謎だ。
こういうのって貸し借りできるの?
僕の疑問はつきない。

とにもかくにも、どうしてこうなっているんだろう。
少し離れたところで、ジークハルトとロイスが苦しんでいる。

蒼い光がジークハルトにまとわりついている炎を押し返している。
だが、ロイスの方は拮抗していた。

どうしたらいい?
ノルンもマールも手を出すこともできずアスを支えている。
多分状態が分かっているのはアスだろうけどアスは、話せない。
さっきみたいに頭の中で会話できないかと思うけど、できるのならアスはやっているだろう。
本当に、偶然できただけということなのだ。

子竜は目を細める。
僕の困惑を読み取って、説明をし始めてくれた。

『元々…騎士王子は王の番とのほうの縁が深い…聖者と縁は表面だけの薄い関係だったようだな。騎士の方も薄いのだろうがそれでも一つの生では聖者の虜となっていた。そのため…あの炎を消すことは出来ぬようだ…だが…他のモノよりは薄まるはず…今は完全には取り戻せないが…王と合流してからならば、手はあるかもしれぬ。』

アスは、あーと言いながら二人に手を伸ばしている。
なんとか救おうと試行錯誤しているのだろう。
ふと、アスは僕たちを見た。

『主は応援してくれと言っている。』

僕は首を傾げた。

『今、彼らが何を大切にしているかを思い出すきっかけになるかもしれないから…と。』

よくわからないのが、とにかく僕らが傍にいるのだという事を分かってもらえたらいいらしい。

「ジーク!!ロイス!!負けるなーー!!!」

僕は声を張り上げた。
ジークハルトが、頷きロイスはわずかに反応をした。

「お二人とも陛下が来るまで頑張って!!!」

マールの声にジークハルトは頷くがロイスは反応がない。

「ロイス!!しっかりしなさい!!」

ノルンの声に、ロイスが顔を上げる。
一瞬ロイスの目に光が戻ったように思うのは、見間違いではないだろう。
ロイスは、ジークハルトを突き飛ばして、自分は窓から飛び出そうとした。
子竜がロイスの背に、衝撃波を吐く。
ロイスは背に子竜の攻撃を受けて窓の外に落ちる。

「ロイス!!!」

ノルンが悲鳴のように彼の名を呼び窓に駆け寄る。
僕はとっさにジークハルトの傍に駆け寄った。
ジークハルトは気絶しているようだ。
ノルンが窓から外の様子を確認している。

「…ロイス…」

僕も窓から外を覗くと少し先に言った庭でロイスは倒れていた。
生きてはいるようだけれど、ロイスの周りに血が見える。
ケガはしているようだ。

「僕が様子を見てきます!!」

マールはあわてて廊下に出ていく。
ノルンは、呆然と窓からロイスを見つめたままだ。

『従者め…一人で言ったら危なかろうに!!』

子竜が慌ててマールを追って外に出た。
僕は、一人座っているアスの所に戻る。
アスが、僕の服の袖を引っ張った。
僕はアスを抱えて気絶しているジークハルトの横に移動するとアスと一緒に座った。
アスは、ジークハルトをつついて意識を確信してから僕を見た。

「ん~」

頷いているから大丈夫という事だろう。
僕が首をかしげるとアスは僕の手を取って、自分の腰に僕の手を触らせる。
支えろという事だろうかと僕が彼を支えると満足そうにうなずいた。
アスはジークハルトの胸に手を置いてゆっくりと目を閉じた。
ふわりと蒼い光がジークハルトを包む。

「アス…治療してくれているの?」

ジークハルトの険しい顔が、安心したような表情へと変わっていく。
ノルンが、窓からマールの名前を呼んでいる。
窓の外から、少しケガをしているが気絶しているだけだという声が聞こえた。

怒涛のように起こったことに頭が付いていっていない。
ディーを送ったのに来ない陛下も気になる。


「…何が…起こっているのだろう…」

僕の言葉にアスが僕を見る。

「あー~」

大丈夫…そう言っているようだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...