不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
195 / 233
第六章 運命の一年間

177 アスの中の『俺』 アスside

しおりを挟む
眠りの中でアスは探し物をしていた。
元々はラスティの中にあった魂だ。
アスの魂の器になった、『俺』を探している。

一度目覚めた時に、陽の欠片の罠が発動していた。
あれは、ラスティが消えたと世界が判断した所為だろう。
だが、ラスティは存在している。
その矛盾が生まれた時に、聖者の縁があるものを操れるように、その異常を正すために動くように仕掛けていたということだろう。
推測が多大に入っているがとアスは眉を寄せる。

陰の欠片と呼ばれるものの知識が流れ込んでアスは現在自分と言う存在が制御できない状態だ。
少しずつ制御を取り戻しているが、元々持っていない肉体の扱いが良くわからない。
ラスティの中にいた時の感覚を取り戻そうとしているがうまく行かない。

おそらくは、今のアスは『俺』と呼ばれていた時の器が欠けている所為だろうと思っていた。

ラスティの中にいる人格…いや…魂はやはり三人いるのだ。
いや…三人というのはオカシイ。

アスと陰陽のラスティがいるのだ。

ラスティという魂は、彼は、稀人の魂だ。
天の欠片の目として送り込まれた存在。
天の欠片の目だ。
星の欠片の目ではない。
偽造されているので、陽の欠片は気が付いていないだろうがと、アスは思う。

「御伽噺や教会の話を適当に聞き流しているところが、陽の欠片の致命的な抜けなんだよなぁ。」

天の欠片は抜け目がない。
星の欠片と陽の欠片は、それ相当の罰を受けるだろう。
もう星の欠片は罰を受けている。
力を奪われ、この世界で奉仕している。

ラスティの傍で彼を守るために動いている。

天の欠片がよくやるお仕置きだ。
アスは、天の欠片のお仕置きを思い出してため息をついた。
星の欠片は力もないし記憶もない。
陽の欠片は気が付けないだろう。
自分のやったことを自分の目で見てこいと言う天の欠片の怒りを感じる。

「まぁ…きちんとしたパートナーを見つけそうだし…いいかな…?」

星の欠片のことは今回は関係ないけど、今後ラスティの支えにはなるだろう。
だから、しっかり見ておかないとなとアスは思いながら、自分の中で眠っているもう一人のラスティの気配を探す。
今はラスティの器は陽のラスティだけになっている。
アスの器に陰のラスティが移動している。

皆、アスと『俺』が同じように思っているが実は違う。
まぁ、自分もそう思っていた。
魔石に残っていた記録を受け取るまで。
陰の欠片としての記録。
それを受け取って処理ができていないけれど。
魔石を元に作られた体は、こかなり人に寄っている。
それはこの世界で暮らすには良いが、魔石に残っていた記録を受け止めるには弱いものだった。
この体を失って天に帰るときに、天の欠片にきちんと報告で来るように必要分を残して魂の奥に封じる。
その作業を行っている所為もあって、体の自由が利かない。
アスは、『俺』の器に守られていただけだ。
陰のラスティが作り出した、器に包まれて同じように経験して二人で『俺』になっていただけだ。

『俺』は今も居る。
と言うよりは、アスの体の主導権は『俺』にある。
『俺』が眠っているからアスの体も起きない。
アスに馴染まない。

「王も『俺』がもういないと思っているんだろうな…」

ディオスが、アスと『俺』への態度が違うのはその所為だ。
未だにラスティの調子が出ていないのも『俺』が欠けてしまっているからだ。
そう、今はラスティが欠けてしまっている。
ラスティが思い出せない稀人の記憶も、ディオスとの睦言を記憶しているのも『俺』だ。
アスと言う人格が生まれたので、『俺』の人工の器は役目を終えて消えたとディオスは思っている。

「王も複雑だろうけどね…『俺』はもう一人のラスティだ。僕の器ではあるから僕と同一ではあるけど…僕にアスと名をつけたことで僕は『俺』でなくなった。でも…『俺』はやっぱりもう一人のラスティで…どうあってもラスティなんだから…もとに戻さないとラスティが欠けたままで…王のパートナーとして掛けたままになってしまう。」

陛下の愛を受けたもう一人のラスティはやく返さないと、とアスは彼を探す。
アスとしても複雑だった。
『俺』はアス自身でもある。
けれども一体化していたラスティの陰の魂でもある。
相性がいいので陰の欠片である自分と名前を貰うまで融合していた。
同じだけれど、別の個体。
でも同じ。
アス自身もディオスを思う気持ちはあるがそれは親愛に変化はしている。
だが、彼を思うと切なくなる。
はやく、アスと言う個体になりたいとアスは、切なく痛む感情を飲み込む。

「はぁ…ラスティは過保護だよなぁ…」

『俺』はアスを守るためにアスに『俺』は、ついてきたのだろうが、それは無茶なことだ。
疲弊して起きれなくなっている。

アスがしっかりと定着すれば消えていいと思っているのだろう。
その手伝いが自分の仕事だと思っているのだろうが、そうはいかない。
たぶん、自分は人造の人格だからと思っているのだろうけれど、アスは消滅など許す気はなかった。

アスは結構イライラしていた。
確かにアスは、ラスティの育てた魂だ。

性質はラスティだろう。
ラスティに近いだろう。

だが、ラスティが育てたためにある人物にも似てしまっている。
アスにも自覚があった。

この人物に似るのは危険だと。

彼らが理想としている人物だから、彼らの記憶の中の彼女に寄ってしまった。
自覚はあった。
アスと名前が中途半端になってしまったのが拍車をかけた。

どちらかきちんと選ばれていたら、混ざることなくどちらかの性質になっていただろう。

だが、アスは混ざった。
ラスティの前世の彼に…いや…彼らが。

元々は似た魂の兄妹。
ただ、兄は妹を育てるために過保護に育てた。

『俺』は無意識にアスの魂を過保護に守っていた。
いるのかいないのかも分かっていないくせに。
彼は、無意識にアスの魂を過保護に守っていたのだ。

その過保護感が若干アスを、彼らの記憶の中の妹に寄せた。

多少歪んだ彼女は意地っ張りだが、優しく強く明るく前に進む魂となった。
やさしく、強く、そして暴走気味の彼の妹を、アスはその彼女を見本にしてしまったのだ。

「ラスティには、しっかり思い出してもらって陛下とラブコメしてもらうんだからな!!!」

アスは、『俺』の魂を見つけた。
がっちりと彼の魂を見つけるとにやりと笑う。

「戻る時だよ、ラスティ…まぁ羞恥にのたうち回るだろうけど…」

アスは、ふと真顔になる。

「可愛いだろうなとか…思ってるけど、思ってないよ。」

にこにこといい顔としながらアスは、『俺』をラスティの元に転移させる。
そして、少しだけ涙を流した。
寂しくて。

「これで…ラスティとの関係はなくなっちゃうんだけどね…性格も…もとに戻るわけだから…王やラスティの僕への見方が変わっちゃうかな…」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...