不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
197 / 233
第六章 運命の一年間

179 暗中模索

しおりを挟む
アスはだいぶ慣れたと上半身をぐるぐると動かしている。

「少し…頭ふらふらする?ん…なんだろ???」

言葉もはっきりしてきた。
僕は、補助しつつアスの様子をながめつつ戻って来たという何か考えていたのだがいまいちわからなかった。
アスが言うには元々あった物なので、違和感がないのではないかと言う。
何を思い出したのか、強烈な記憶出ないと元々持っていた記憶に埋没している状態なのではないかと。
アスは、立ち上がろうとしてぺたりとへちゃげた。

「ばりゃんずぅ~」

バランスと言いたいらしい。
しばらく繰り返してから、僕をみて情けなさそうな表情をした。

「バランス崩した…きげん…危険…違う…ん~…ピンチ…」

はぁ…と大きくため息をついてアスは肩を落とす。

「急がないと…あっちにやられちゃう…たいこうできるの…僕なの…」

僕が首をかしげると、アスは俯いてしばらく眉を寄せてぶつぶつとつぶやいてから僕の方を再度むく。
どうやら、文章を練習してから話そうとしているらしいが、僕としてはたどたどしい言葉で顔を真っ赤にして一生懸命話しているアスも可愛いので別に練習しなくていいのにと思ってしまう。

「陽の欠片と対抗できるのは、陰の欠片の僕しかいないの。王は他の子の相手で大変だし、ラスも守らないとだし、忙しいでしょ?なのに僕がこんなの…大変でしょ…」

甘い琥珀色の瞳が潤む。
どうも感情制御も上手くできないらしくしゃくりあげて、アスは泣きだしてしまった。
僕は、頭を撫でつつ困ってしまう。
アスの言っていることは正しいと思う。

エスターとノーマは教会に行ったままだ。
ウェルタはトリスティが連れてどこかに行ったと報告が上がっていた。
学園でも生徒や教師が幾人か消えたらしい。
彼らは暴動の方に名が挙がっていないので、おそらく教会にいったのだろう。

「陽の欠片は強い?」

アスは頷く。

「欠片は、ルールが無いと倒せない。この世界は陽のルールで動いてる。僕と王の欠片が聖者に倒されたのはそういうルールを陽が作ったから。陽と戦えるのは…同じものしかない。」

だから、僕が戦わないととアスは悲し気に目を伏せた。

「僕が復活したのが、きっけけになった。人と言うのはね…にく…肉体と…魂…人格の両方があるの。『俺』は僕の人格の器だった。『俺』は、器の『俺』とアスが一緒だったから、もーひとりのラスだったの。わかれちゃったからもー一人のラスではなくなった。それが、陽の欠片の作ったルールのラスがいなくなったというキーワードを埋めたの。もともとリオンは冒険をしている記録があるから…今回のあとのキーワードは…陛下とリオンが戦うくらいしか残ってない。」

陛下とリオンが戦ったらそれでこの世界の崩壊のキーワードが揃ってしまうとアスは言う。
僕は、なるほどと思いながら、そうだろうかと思う。

何故なら、僕が死んだ…消えたというのは苦しい言い訳だろう。
僕は生きているのだから。
第二王子であるエスターも生きている。

つまり、キーワードが埋まっているようで埋まっていない。
一見埋まったように見せかけているが、そこをつくことはできないだろうか。

「…ねぇ…アスは…天の欠片さんとは連絡方法は無いの?」

アスが首をかしげる。

「そのルールを陽の欠片のわからないうちに書き換えることのできるのって…天の欠片さんだけなのでは?」

アスは、首を横に振った。

「出来ない…でも…そう…ルール無用の場所ある。地下は僕の世界。僕がルール。」

僕は、眉を寄せる。
陽の欠片もそれは分かってるだろう。
だが…とアスは何か考えていた。

「アス?」

しばらくアスは考えていたが、僕を見てため息をつく。

「陽は…僕が出来ないと思っている…だから…油断している…そもそも…そう言うところがある。だから…王に僕らは子供と言われてた。」

ノックの音がして陛下が多少疲れた顔で入って来た。

「は~癒し…ではなかった…ジークとロイスと師匠は地下で竜に任せてきたけど…あれで何とかなるのかな?」

アスは、少し考えてから頷く。

「地下は僕のルール。陽のルールから外せる。でも地上に戻ったら縛られる。暴れる人は地下に送ると良い。僕の骸がいたところは広いから、あそこにケガした人も送って良い。僕の眷属をあの空間に行かせた。転移魔法は竜に教えてもらった?」

陛下は、アスを見て頷いたが、座り込んでいるアスに首を傾げた。
床にへたり込んでいるアスを軽々と持ち上げると顔を覗きこむ。

「ところで、なんで床に座っているの?」

アスは顔を赤くした。
見た目が美青年なアスだが、言動が幼いから可愛いのだよなぁと僕は陛下と言う美形とアスと言う美形の戯れに眼福と思いながら眺める。
ふと、妹のやってたゲームのスチルが結構綺麗で好きだった自分を思い出す。
戻って来た記憶なのか…僕は、今まで思っていた以上にあのゲームが好きだったんだなと思う。

今までだったら、いくら美形同士でも眼福などとはお思っていなかったと思う…。
思っていなかったよな…。

だんだん自信がなくなってきたが、たぶんこういうところが戻って来た記憶の影響なのだろう。
いや…陛下は普通にかっこいいし見てて楽しかったから、今まで通りか?

僕の葛藤など知らない二人は、イチャイチャしている。
いや…違う。
イチャイチャしてないはずだ。
僕の目どうした。

「…まだ立てない…」

陛下が僕を見たので僕が頷いた。

「ん~俺が支えるから歩く練習しようか。」

妙に嬉しそうな陛下に僕は、ため息をつきつつそれがいいねとアスを促す。
アスは情けない顔をしながら陛下に支えられてまずは立つという事をさせられている。

「まぁ…体の機能としては問題ないし…もともとはラスティの体で動けていたんだから感覚をつかんだらすぐに動けるようになるだろうけど…うふふ~可愛いなぁ~」

陛下はものすごく楽しそうだがアスはものすごく泣きそうだ。
だが、アスは、よちよち歩く練習をしつつ何か思いついたらしい。
そうだと、にこりと陛下に笑った。




「あのね…あのね…陛下…地下でラスボスしてくれないですか?」



いや…陛下もともとラスボスだし。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...