不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

180 子竜と主

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バルハルト公とジェン公の傷が癒えたため、二人に転移の魔法陣を教えて暴れている人や怪我人を地下に送るように陛下は頼むと僕とアスを地下に連れて行ってくれた。

アスがまだ、よちよち状態なので陛下はアスを連れて行ったら地上に帰るつもりのようだけど。

転移した途端に目の前には大きな竜が座っていた。
琥珀色の魔石に包まれた大きな広間に、大きな竜が鎮座していたのだ。

『おお…主!!王と王の番も来たのか。』

子竜の真の姿だったようだ。
アスは、練習の成果で少し歩けるようになった。
陛下に支えられていた手を離してよたよたと竜に向かって歩く。
アスは竜のお腹に抱き着いた。
竜が、一気にデレた。
いや、どう表現したらいいのか。
竜の目がこれでもかと三日月に歪んだ。
尻尾が大きく振られ地響きがする。
アスは、倒れないように竜にしがみついているようだ。
それが、余計に竜の尻尾の勢いをつけているのだが。
一応微笑ましいので、放置しよう。

「大きくなった。」

アスの言葉に竜は大きくうなずく。

『まっていた。主。もう我も一人前だ。あの時は…まだ子竜だったせいで戦えなかったが…今度は主のために戦えるぞ。主の眷属たちもこの洞窟に転移して来ておる。戦えるのは我だけだろうが…補助や回復が出来るものが残っているもの達がここに来た。』

竜の周りに妖精、フェアリーと言うのだろうか。透明な羽の生えた少女や少年たちの姿をした者たちが集まる。
そして一人、人と同じ大きさの女性が現れた。
そう、女性だ。
僕は目を丸くする。
この世界は、男ばかりではないのか。
陛下は、僕を庇っている。
たぶん、陛下の目には彼女は異形に映っているのだろう。

『妖精王…ライラック、ここに参上した。久しいな、主。ふふ…王の番が目を丸くしているな…ここにはいないはずの存在だからな…まぁ…我は…人にあらず。人とは異なる種だ。王の番には…妖精族と言った方がいいだろうか。まぁ…王の番の印象では森にいる印象らしいが…我らは地下の湖に住んでいる。竜王が炎ならば、我は水。周りにいる子達は風の属性もあるが、基本は我の子供達だからな水の力を持っているから癒しの力が強い。』

回復は任せよとライラックは笑う。

『主に名をいただいたものは…もう我しか残っていない…すまないな…主…。』

アスは首を横に振る。

「いや…助かったライラック…竜以外は皆狂い…魔物になって聖者に屠られたかと思っていたから…」

ライラックは頷く。

『竜王は、主に名を貰っていなかったからな。陽の欠片は我と竜王が別だとは判別できなかったようだ。竜王のみが残っていると思っているようだ。我らは力も弱い。陽の欠片は地下のことはそこまで見ることはできないからな。とはいえ、我は回復程度の力しかない。陽の欠片と戦う術がないのが悔しいものだが。』

アスは、竜を見上げた。

「そうか…竜に名を渡す直前だったのだな…僕が聖者に倒されたのは…ならば…竜、エレムルス。お前の名だ。」

竜は大きく体を震わせた。

『エレムルス…』

アスは、そうだと頷く。

「そうだ、エレムルス…」

竜は何度も頷く。
陛下は、目を細めた。

「律儀な竜だな…まだ…名を貰っていないならば…縛られていなかっただろう。眷属ではなかったんだな…けれども途方もない時間、あの竜はアスを待っていた。主としてアスをずっと待っていた。名を貰うために。名を貰って…ようやく…アスの眷属になったんだ。」

アスの眷属になったという事は、アスと共に生きるという事だと陛下は言う。
この世界で命が尽きても、天に帰ることなくアスの元に生まれ変わるのだという。

呪いともとれるが、本人の希望ならばいいことなのだろう。
なら、この世界に繰り返し生きている僕は何に属しているのだろうとふと思う。
アスなのだろうか。
いや、アスではないと思う。
なら、やはり陽の欠片と言うものにつながれているのか。

竜が僕を見た。

『王の番よ。お前の魂は王と共にある。』

陛下が眉を寄せた。

「竜、あまり人の心を覗くのは感心しない。」

竜は、いや、エレムルスは息を吐く。

『そういうな。王…この洞窟は我が一族が主より守るよう命じられた…人で言う領土というものだ。我はこの洞窟の安全を守らねばならぬ。主を守らねばならぬ。そのための力だ。この洞窟でのみ我は全てを見通せる。王の番が答えを欲していなければ我も言わぬが…王の番は考えすぎて明後日の方向に暴走している時もあるようだっからな。そうそうに問題は解決したほうがいいだろう。いままでは主がそれを補っておったが…分かたれたのだから仕方あるまい。我としても多少は手助けをしようとは思う。』

陛下はそういう問題ではないだろうとため息をつくがエレムルスはやれやれと肩をすくめるだけだった。

『まぁいい…ともかく…王と王の番よ。騎士王子と騎士は、ようやく正気を取り戻したぞ。騎士王子は軽かったからよかったが…騎士は、地上に返すな。陽の欠片に食われる。』

陛下は、そうかと頷くと眉を寄せた。

「師匠は?」

エレムルスは、ため息をついた。

『あれは眠らせておいてやれ。働きすぎだ。一度寝たらしばらくおきぬだろう。陽の欠片の毒気はぬけている。』

陛下はそうかと頷く。

「で…どうするべきか…このまま地下にもぐっているわけにはいかないだろう。」

竜はうむと頷く。
アスは、少し考えてから悲し気に目を伏せた。

「アス?」

僕の問いかけにアスは、目を伏せたままつぶやいた。

「…陽の本体を狙いましょう。」

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