不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

181 天の欠片の気配

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僕が首をかしげていると陛下がアスに問う。

「場所がわかるのか?」

アスは、いいえとつぶやいたがしばらく考えていた。
地下に居るのは確かだと答え、教会の地下に居るのは確実ですと言葉をつづけた。
言葉はだいぶスムーズに話せるようになったなと僕はアスを見る。
たまに、面白いことになるけども。

「妨害して細かい場所は特定できないようにはしていますが…教会の地下に陽の居ることは確かです。陽の日を入れて地下に自分の領域を作っているつもりなのでしょう。確かに陽の日が当たっている場所は彼の領域に侵食されます…僕は今のところ人なので陽の欠片よりは力が弱い。こういうことも起こるのですが…完全に奪われているわけではない…」

アスは、何か手があるはずだと考えている。
僕は首を傾げた。

「夜ならどうなの?」

アスは頷く。
通常ならば、夜になったらチャンスはあるのだけどと、それも対策済みらしい。

「教会の光に陽の力を含ませているのだと思う。」

上から降り注ぐ陽の力の灯りと言う言葉の力を使っているのだろうとアスは肩をすくめた。
どうもこの世界は、言葉の力というものが強いらしい。
おそらくは、欠片と言われているアスたちは特に言葉の力に縛られているとおもう。
人より力のあるのであろう彼らへの制約。
そういう事なのだとは思う。
僕がそんなことを考えていたら陛下は何か別のことを考えているようだった。
陛下はふむと頷く。

「教会を崩壊させるか?」

うん、陛下の魔法なら出来そうだけど…。
結構陛下は今回のことに怒っているようだ。
いや…結構ではなくかなり?

「ダメです。エスター様やトリスティ様達がいます。」

僕がいうと陛下はそうかとつぶやく。
言わなかったらやってそうなとこが陛下の怖いところだ。

「防御魔法を使って守ったらよくないか?」

諦めてなかった。

「ダメです。」

陛下は手っ取り早いと思ったのだがと口を尖らせた。
アスはくすくすと笑うと、そうだと目を瞬かせた。

「母上、ジークハルト様に挽回のチャンスを。」

陛下は首をかしげる。
いや…母上ってなに?
陛下が母上なの?
なんで、いきなり母上??
そして陛下も普通に反応しているし。

「別にジークは失態を犯していないだろう。」

アスは、やれやれとため息をつく。

「そうは思っていないでしょう。本人が。ねぇねぇ、マール。ジークハルト様を呼んでくれないかい?」

少し離れたところで、ノルンと集まってくるであろう怪我人達用の物資を確認していたマールは、いいよと言って走って行ってしまった。
マールは、アスを最初に僕にいっしょに仕える従者というか使い魔にアスはなるのだと思っていたので、しばらく友人のようにアスと接していたという。
アスが王子になると聞いて態度を改めたらしいが、アスが寂しがった。
マールは、そんなアスが可愛かったらしい。
公の場以外では、アスを友人として扱っている。
僕もそうしてほしいと言ってみたのだが…断られた。
少し悲しい。
ほどなく、ジークハルトは走ってくる。

「よんでいると聞いたが…えっと…アス?」

うんとアスは頷く。
ジークハルトは、正気になって改めて見るアスを見て少し戸惑っているようだった。
髪の色彩で言えば、僕よりもアスは陛下に似ている。
たぶん、陛下がつながりを強固にしようとアスの体を作る材料に陛下の髪を使ったせいだろう。
瞳の色はアスの瞳は僕の硬質な金色とは違って甘い琥珀色だ。
彼の魔力の色なのだろう。
僕と似ている容姿ではあるが、陛下の特徴もある。
確かに、アスは陛下と僕の子供と言えるだろう。
なんとなく、恥ずかしいものだが、アスは僕と陛下の特徴をしっかり持っているのだから。
ジークハルトは、じっとアスを見ている。
陛下はそんなジークハルトを見て少し考えてからにやりと笑った。

「…そうだな…正式に紹介はしていなかったね。ジーク。この子が僕とラスティのある意味共同で生み出した子だ。息子だと思っているアスだよ。かわいいでしょう?」

ジークハルトは、少し苦笑してから頷く。

「ええ…そうですね…では…彼を正式な後継者とするのですか?」

陛下は、いいやと首を横にふった。

「アスの魂はこの地下の支配者の魂だ。教会の神を倒したら…この世界の神になるかもしれない…そう言う事でいいのかな…アス…君が兄弟の元に帰りたい?」

アスは、いいえと首を横に振った。

「僕は…陛下とラスティの魂が安心してこの世界を離れるようにできるまでこの世界を育てたいと思っています。陽の欠片が、この世界をいらないというなら僕が頑張ります。それに…陽の欠片にとっては天に帰る方が苦痛でしょう。かなりの罰になるはずだ。」

そう言ってアスは少し離れたところに居るノルンを見る。

「天の欠片の怒りは、相当の様です…僕は…しばらく帰りたくないです。彼の怒りに巻き込まれたくないから。」

皆が首をかしげた。
何故、アスがノルンを見ながらそのようなことを言うのかもわからない。

「…ちゃくちゃくと…天の欠片のお仕置きがセッティングされていくなと…陽の欠片がやったことはそれだけの事だったという事です。」

不思議そうに首をかしげる僕にアスは、苦笑する。

「僕らの中で…天の欠片が一番力を持っている。いや…本当なら…陛下の魂の元になっている彼が一番なのだけど彼は属性が決まっていない所為で出力が半減しているから、実質天の欠片が一番なんだ。だから…天の欠片が僕らに見えないように何か仕掛けたとしたら僕らにもわからない。今回は…陽の欠片にわからないように罠を仕掛けたみたいだ。だから…陽の欠片は誤認している。必死に帰ろうとしているけれど…帰ったら彼の欲しいものはそこには居ない。陽の欠片の苦手な…天の欠片しか天には居ない。陽の欠片が帰りたいのは、星の欠片のためだ。けど…星の欠片は、すでに罰のためにいろいろやらされているみたいだ。」

陛下が、まさかとノルンを見た。

「…ノルンだけではないです。ノルンとマールの兄弟が…この生で現れたのは…天の欠片がこの生で確実に陽の欠片が帰ってくるから。僕らが失敗しても、成功しても…この世界は神を失います…もうこの世界には、神がいなくとも進めるから。僕は、この世界を癒すまではいますけど。」

そこまで話してアスはふぅと息を吐いた。

「どうしたの?」

アスは少し考えてから、頷いた。

「がんばって話したら疲れた。」

こてりと首をかしげるアスに僕はただ苦笑した。

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