不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

190 世界の反撃

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ディオス達の教会突入から時間は少し遡る。

置いて行かれたーーーという僕の叫びに皆苦笑する。
皆、竜の前に集まり憤慨する僕をなだめようとしている。
皆は、どこか予想していたのだろう。
陛下は、何があっても僕を置いていくだろうと。
ジークハルトはため息をついて少し考えている。

「…敵前逃亡はちょっと許せないな…陛下…」

ジークハルトは僕を見て微笑んだ。

「ラスティ…俺が行ってくる。お前は…悪いが足手まといだ。陛下を必ず迎えに行ってくるから。」

任せろというジークハルトの言葉に、アスがうーと反論した。

『主は、騎士王子が、行けば操られるだけだと言っている。騎士王子の過去…いや生まれる前ともいえることの所業の所為だが…欠片仕込んだ印は人の身で抗えぬ。』

ジークハルトは、眉を寄せる。

「陛下は…大丈夫なのか…」

うむと竜は頷く。

『王は問題ない。騎士王子の父の騎士団長も母の魔術師も問題ない。だが…いくら強大な力を人の中では持っていても…王であっても陽の欠片には勝てまい…。王の死は…この世界を進めるための言霊の一つではなかったか?王の番。そなたの知る物語の幸福な終わりには何が必要だった。王か…ここにいる騎士王子の死ではなかったか?』

僕は眉を寄せる。
死ななくとも倒されねばならないだろう。
けれども、もう一つ大切なことがある。

『…聖者の番が必要か?』

そう、と僕は頷く。
この世界の幸福な終わり方。
いや…この世界が模倣している物語の幸福な終わり方は…その終わり方で必要なもので一番必要なのは聖者の幸福だろう。つまりは…リオンの…そこで僕は何か引っかかる。

「アス…ちょっとごめんよ。」

アスは首をかしげて頷く。
僕はアスのシャツをめくりあげた。
アスの胸にある、星の紋章。
皆それを見て、黙る。

「…リオンの幸福ではない…必要なのは…アスのパートナーで…アスの幸福。」

言霊というものが、必要ならなそれでいいはずだ。
リオンはすでに聖者の力がない。
聖者ではないとされたらアウトだ。
けれどもそれで話を幸福に終わらせたとしてこの世界まで終わらせるつもりではないだろうなと言う疑念も出てくる。そもそも、ここまで僕の知る話とは全く違う状態で言葉だけを埋めて行っているのだ。
いくらでも屁理屈をつけて埋まるという事だろう。

それにその言葉が埋まったと、そもそも誰が決めているというのだ。
僕の憤りのような疑問に竜は、羽を軽く揺らした。

『王の番よ…確かにこの世界は欠片達が支えているが、世界は世界のモノだ。欠片は補助で世界の方向性を決めて見守るのが本来の役目。星や陽の欠片が手出しをしすぎたためにこの世界はおかしくなった。必要な言霊が埋まったと判断しているのは世界であろう。この星が決めている。我はそう思う。確証はないがな。』

アスは、そうそうと頷いている。
欠片がいなくなっても世界は進める。
欠片は世界が育つまでに約束としてここにいるだけということなのだろうか。

僕はそんな疑問を持ちつつアスを見る。
アスは、そうそうと頷いている。
分かって頷いているのか、僕をなだめようとしているのか微妙にわからないが。

僕はアスの胸の星を見ながら考える。
とマールが僕の肩に手を置いた。

「アス…様のお腹が冷えちゃいますよ…。」

僕はあわててアスのお腹を隠すべく服をきちんとと整える。
アスは、少し考えてから竜を見た。

『…なるほど…しかしそれでは主が困りませんか?…まぁ…騎士王子をこの戦に参戦させるには…まぁ…なる程…一時的という事ですね。確かに我か…妖精王が認めれば一時的とはいえ番に認定されるでしょう。』

しかしとあまり乗り気でない竜の代わりに妖精は、嬉しそうだ。

「よいではないですか。主様ももしかしたらそのまま…うふふ…そうなったら…うふふ…楽しみが増えますわね。」

さぁさぁと妖精は、ジークハルトをアスの前に座らせる。
アスはジークハルトを見下ろしていた。
ジークハルトは、アスをきょとんとした微妙に幼い顔で見上げていた。
アスは、ん~と少し考えてえいたかと思うといきなりジークハルトの唇を奪った。

「わぁ!!」

慌てる僕をマールとノルンが何故か目隠しする。

いや…チューくらいでそんな…別に…。

目隠しが妙に長い。
皆が沈黙しているのも微妙に居心地悪い。
と何かが倒れる音がして漸く視界が、自由になる。

目の前にはジークハルトが赤くなって口を押えてうずくまっており、アスは何事も無かったかのような表情で立ち上った。
よたよたしておらず、強化魔法を使ったようだ。

「魔力を少しもらったからジークハルトはしばらく動けないだろうね。さて…僕が、動けるうちにすぐに動くよ。」

すっとアスは、僕の方を見る。

「…ラスティ…父上…ここで選択してほしい。戦う気はあるかどうか。」

僕は首をかしげる。

「陽の欠片の模倣したシナリオで聖者と確実に戦っていない者は、そもそも物語に居ない、マールとノルン…そして途中で脱落するラスティだ。」

僕は首をかしげる。

「けど…何か続編があるって…」

アスは目を閉じる。

「たぶん…陽の欠片が慌てて付け加えた要素だろう。マールとノルンと言う従者がここまでラスティと懇意になって物語に食い込んでくるとは陽の欠片も思っていなかった。予想外な人物が現れたから自分の意のままに操れるノーマを使ってそういう運命を付け加えたんだ。陽の欠片の計画を進められるようにと…予防線に。けど唐突であまり意味がなかった…陽の欠片はラスティが聖者候補だとしていたつもりだったから、ラスティルートもあるとしたけれど…結局聖者候補は僕だった。ラスティが聖者候補でないとなったことでノーマの言う追加シナリオが破綻した。」

アスは肩をすくめる。

「なんとかごまかそうと、陽の欠片は世界に干渉して捻じ曲げて捻じ曲げて…今になって、世界に反撃を食らったんだよ。矛盾があいつの破綻を招く。なら…僕らのできることはその矛盾を大きくしてあいつの物語をつぶすことだ。」

アスは、微笑む。

「だから…ここで選択して。世界の反撃の要はね…本当なら死んでいるはずのラスティ…君だ。あの物語の最初のきっかけの…本来は居ないはずの君にしかできない。」

僕はアスを見る。
本当はもっと穏便にしたかったけど…あいつの思惑にある程度のろうとするとラスティと陛下とジークハルトを危険にしてまうからねとアスは悲し気に眉を寄せる。
アスとしては、魂の兄弟のようなものの陽の欠片のことも考えてたのだろう。
リオンのことも考えていたのだと思う。
たぶん、僕らの思考はこの世界に影響力のある陽の欠片の考えに左右されるのだろう。
アスはそれを知っていた。
陽の欠片の思惑もある程度わかっていた。


「当初の計画とは違ってしまうけれど……ここまできたら言霊をつぶすんだ。君が死んでいないことを世界に刻み付けて…終わらせよう。」

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