不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第七章 終わりという名の始まり

206 本当はどうしたいの?

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上階の爆発音が響いてきた。
上ではノルンが妨害しているようだが、かなり激しいようだなと思う。
洞窟全体に竜が防御魔法をかけていて崩れることはないらしいけれどちょっと怖いなと思いながら、ぼんやりと座っている。
僕は結局、何がしたいのだろう。

アスは、じっと目を閉じて瞑想している。
魔力を温存しているのだ。
アスは、ここで陛下とジークハルトを迎え撃つという。
僕には陛下ときちんと話をするようにと。

「ねぇ…アス…」

僕が声をかけるとアスは、うん?と首を傾げた。

「まるで以前みたいだね。」

アスは『俺』ではないというけれど、たぶん『俺』なのだと思う。
いつの間にかいた『俺』。
リオンが作ったという疑似人格。
2人でよく話していた。
大体が、『俺』が僕を叱咤激励している感じだったけれど。
『俺』は、方向性は明後日の方向な所もあったけど僕を守ろうとしてくれていた。
今も、アスになって少し天然というか無垢というかそういうところが強くなったけど…たぶん、僕の中に置いていった隠していた記憶とかを抱えていない所為だろうけど…やぱり僕を守ろうと明後日の方向だけどしてくれている。

僕が守ってあげないといけないのに。

何度も何度も繰り返した死をただ、回避したいだけの僕はその目的が無くなったら少し空っぽになっている。
残った立場、お妃様を頑張ろうと思っていても陛下にすらいらないと言われていじけてしまった。

そんなバカな理由にも、付き合ってくれるマールとノルン、そして、アス。

ここに居たって僕はまだ迷っている。
陛下に要らないと言われたのだから潔くいなくなってしまえばいいのではと。
居ていいのだと言ってくれるノルンやマール、アスの言葉もうれしいのに。

「迷うのは別にいいんだけど…自由にしていいんだと陛下が言ったんだから自由にしようよ。」

にっこりとアスは微笑む。

「陛下は…ああいっているけど…ラスティが居なくなったら抜け殻だろうね。」

アスは自分の細い腕を見た。

「僕は…陛下の使い魔でもある。自由意志をくれているけど…陛下は僕に枷をつけている。本人も意識してではなかったとは思うけど。この不自由な体だ。魔力を上手く練らないとまともに動けないこの体は、他人の魔力を受けないと長くは持たない。陛下はなんでこんな形に僕をしたと思う?」

僕は首を傾げた。

「僕は…僕の体はラスティへの陛下の歪んだ愛のメッセージだと思っている。無意識だろうけど…。自分に依存してほしい、傍に居てほしいとね。けど…陛下が欲しいのは僕ではないから、同じ性質のジークハルトに渡そうとしているのだと思うけど…ジークハルトがそれはそれで可哀そうだよね。」

こういうのは結局は心が必要だよとアスは言う。

「…ジークハルトは嫌い?」

アスは、どうだろうとつぶやく。

「好きも嫌いも…僕にとっては…そうだね…映画の中の登場人物たちが目の前に突然現実に現れてきたような感覚なんだと思う。ラスティという名の劇場の中で、じっと見ていた映画の中にいつの間にか来た…そんな感覚かな。」

好きも嫌いもないよとアスは苦笑する。

「生身のジークハルトに会うとは思っていなかったことだし…僕は、ラスティに幸せになってもらう事の方が重要だ。ジークハルトだって、ずっと陛下とラスティに愛を訴えてきた人だ。そんな人が、突然現れた僕のパートナーになれっていわれてもいい気はしていないはずだよ。愛しい陛下に言われたからしぶしぶそうしているんだろう?」

それは、どうかなと僕は思うが黙っている。
こういうことは、横から言ってもしかたがない。
上で激しくやりあっている、マールやノルンのように直接やりあうのがいいだろう。

結局は、そうなのだ。
アスのことならわかるのに。
自分に置き換えてみたらそんなものなのだ。
直接やりあうしかない。
ぐじぐじしていたが…腹は決まった。

「そうだね…そうだ…僕は本当に往生際が悪くてぐじぐじしていたけど…そうだものね。」

アスが首をかしげる。
僕は口角を片方だけ引き上げて悪く笑った。

「ねぇ…アス…もう一段下の階がここってあるんだよね?」

アスはうんと頷く。

「強化魔法が効いているのは、そこまでだけど…もっと下もあるけど…」

僕は、うんと頷く。

「アスはここで、ジークハルトの足止めお願いね?」

アスは、僕をみて頷く。

「決まった?」

うんと僕は頷く。

「こういう時は…弱肉強食の世界っていいよね。」

アスは、首を傾げた。

「それも薄れていくと思うけど…突然どうしたの?」

うんと僕は頷く。

「最初から無理だと思うのはやめた。覚悟を決めた。僕は陛下を倒して…陛下を嫁にします。」

アスは目を丸くした。
僕の表情を、見てにんまりと人の悪い顔を浮かべる。
それが少し陛下の笑顔に似ていて少し鼓動が速くなった。
なんだ…やっぱり僕は陛下が好きじゃないか。
僕は、自分の思いは嘘ではないなと何故か納得した。

「あはは、ラスティらしくなった。今度こそ本当によくわかんないけど吹っ切れたんだ。僕は…なら…ジークハルトを倒して彼に自由をあげよう。」

楽し気に笑うアスに僕は、あーと思う。
たぶんだけど…ジークハルトは本気でアスが好きだと思う。
陛下と僕を好きだと言っていたのも…僕らの最初の『子供』になるアスを無意識に感じていたからだろう。

自由にしていいと言ってもジークハルトはアスを選ぶだろう。
結構ジークハルトの愛も重いので、アスはつぶされないと良いけど。
これは…勝っても負けても…アスがジークハルトに取られる事だけは覚悟しないとなぁと僕は思うのだった。

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