不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

文字の大きさ
230 / 233
第七章 終わりという名の始まり

207 不信 アスside

しおりを挟む
アスは上階の様子をうかがっていた。
ノルンの奮闘…いや、時間だろうとわざと見せた隙をついて陛下とジークハルトが上階を抜けたのを確認してアスは、さて…と立ち上がる。
先ほど、意気揚々と下の階に言ったラスティのために、多少はディオスを消耗させたいが、自分の相手はジークハルトになる。

王国最強の騎士であり次期王。
それと、現世界最強の戦士であるディオス。

いくらこの世界の神に近い力も内包しているとはいえ、アスは生まれたばかりで力は二人に及ばない。
それに、とアスは周りを見る。
ここに咲く花をつぶしたくはない。
罠を仕掛けるのもやめた。
直接対決ならば、空間全体に防護魔法を仕掛けているので花は散ることはない。
けれども空間そのものに罠を仕掛けてしまうと防護魔法が使えず花に被害が出てしまう。
ここはせっかくライラックが育てた花畑だ。
ここがいいでしょうというライラックの言葉のままにここで待っていたが、失敗したなとアスは思う。

ジークハルトとディオスにとってはただの花だろう。

だが、地下でしか存在することのできなかった五番目の欠片にとって、この花は何よりの癒しだった。
ラスティの植物好きは、おそらくは五番目の欠片のそうい所を受け継いだのだろう。
今回の生で、薬学にこだわっていたのはその影響もあったと思う。
欠片の人格の一部であったものを疑似人格として幼い頃に宿したラスティに多少影響が出たのだ。

断然不利である。
防護魔法に少しばかり彼らの魔力と体力を吸い上げて花に与えるトラップも併せてみる。
少しは…これで消耗させられるが僅かだなとアスは思う。
普通の冒険者ならば干からびでもおかしくないが、あの二人だと、三分の二くらいは削れるとは思う。
普通ならば三分の二もかなり削れたと思うところなのだが、あの2人だとなとアスはため息をついた。

「力ありすぎなんだよなぁ……」

気配を感じアスは顔を上げる。
入り口にディオスとジークハルトが現れた。
花畑にあっけにとられた顔をしている。
だが、中心の芝生の広間のようなところに立っているアスを見て顔を引き締めた。
アスは、どうしようかと思いながら二人を見る。
ただ、少し二人の疲労を見て意外にも感じていた。

「…?……ノルンか……流石……」

アスは、ディオスとジークハルトの消耗をみてノルンの本気を感じる。
相当、激しい戦いを今もしているらしく、たまに地響きがしている。
現在最強はノルンかもしれないなとアスは思い直した。
そもそも…ノルンが内包している力はこの世界を創造した力だ。
殆ど使えないと思っていたが、流石な長く世界を支えているだけある。
ただ、彼にとってはこの生…ノルンとして生きていることであの魂は一気に変化した。
天の欠片の采配は流石と言うべきだろう。
ノーマに封じられた陽の欠片も変わってくれたらいいのだけれどとアスは思う。

「…アス…その…ラスティは?」

少し自分の考えに囚われていたアスは、ディオスの言葉で現に戻る。
ディオスの表情をみて多少は覚悟が決まったかとアスは頷く。
アスは、ディオスの消耗の状態と表情ですぐに通してもいいかとも一瞬思うが、一応最終確認はしようと口を開く。

「母上…父上に怒られる覚悟はしましたか?」

ディオスは、一瞬目を丸くしたが頷いた。

「ああ…ラスティの結論がどんなものでも受け入れるよ。」

そっちかーいとアスは内心突っ込む。

「残念…ならここは通せません。」

アスは肩をすくめる。

「どういう、返事を期待していたのか聞いてもいいかい?」

ディオスの言葉に、アスは肩をすくめた。
少し楽し気なディオスの表情に、アスはぴくりと肩眉をあげる。
これは、ディオスの言葉遊びかと納得したのだ。
先ほどの言葉は、本心でないとアスは思い直す。
ディオスは、確かに決めている。
半分は、ラスティの結論を受け入れる気だろうが、もう半分は自分の欲望にも目を向けたのだろう。

「分かっているのでしょう?ここで言葉遊びをして休もうと思っているのでしょうが、そうはいきませんよ?」

消耗している分をここでアスと話している時間を引き延ばして回復する算段なのだろう。
そうはさせないとアスは結論をうながす。
ディオスは肩をすくめる。
さっさと、言えというアスの圧にディオスは早々に白旗をあげた。

「結論は、受け入れる…けど、私は諦めない。そう決めた。」

アスは、ならいいかと頷く。
とはいってもディオスには消耗してもらわないとラスティが可哀そうだ。
ここを通るだけでも消耗は多少はするだろうけれどと、アスは頷く。

「なら…父上の所に行きたいならば僕を殺してください。」

負けませんよと手に魔力を集中する。
アスに残されている時間は、そこまでない。
魔力で動いているアスの体は、二人を相手にするには脆弱だ。
そもそも、アスの主はディオスだ。
一応支配権は、放棄しているとはいえディオスに逆らうという事はアスの精神にも負荷がかかる。

死ぬ気で戦わねば足止めなど出来ない。

「…すこし待ってくれ…アス…戦う前に話を聞いてほしい。」

ジークハルトがディオスの前に立つ。
アスは、めんどくさそうに集中した魔力を納める。

「なんですか?」

ジークハルトが、眉を寄せる。

「この空間に俺と陛下の魔力を奪う魔術を仕掛けているな。」

ええと、アスは頷く。

「なら…なぜ…自分で吸収しない。出来るのだろう。そんなに俺の魔力を受け取りたくないという事か。」

アスは、首をかしげる。

「いや…そうではないですけど…ここの花は大切なので…戦闘で散ったら困ります。」

真顔でいうアスに嘘はないなとジークハルトは判断するとディオスを見る。
ディオスは苦笑しつつ、防御魔法を解除した。
アスは眉を寄せる。
だが、覚悟は決めているのだ。

「花は大切ですけど………戦うのをやめませんよ?」

簡単に解除された防御魔法にアスは唇を噛みしめた。
主の権限をディオスは使ったのだ。
ディオスは、分かっているよと頷くと防御魔法をかけなおした。
アスに魔力が注がれるようにしたのだ。
突然自身の中に入り込んだ魔力にアスは、悲鳴を上げて座り込む。

「あ…な……ふぁ…」

ディオスは、慌てて出力を変更する。

「多かったっか…すまない…アス…でもこれで思う存分…未来のパートナーの力を試せるだろう?」

にこにこと笑うディオスにアスは、ラスティをさらったことを、怒ってるなぁと苦笑するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...