ノクターン・コード

神島 すけあ

文字の大きさ
2 / 11
序章

1 ― 悲しみのソラ ―

しおりを挟む
夢か、記憶か、幻影か。
それは失われた世界の残響であり、過去の旋律。
消え去った世界に刻まれた、最後の記録の音。

広大な宇宙の果て。
太陽と呼ばれる恒星の周囲を巡る惑星。
生物を生み出した地球という星――そこから飛び出し、火星を開拓し、生活を始めた人類は、やがて戦いへと向かってしまった。

いや、最初に求めたのは戦いではなかった。
彼らは救いを求めたのだ。

母なる星に。

だが、その手は拒絶された。
彼らに宿った力を恐れた者たちによって。

火星に住み始めた人類は、≪共感≫という能力を身につけた。
不毛の大地を切り拓く彼らに与えられた、心を通わせる力。
本来ならば祝福と呼べるはずの力だった。

だが、火星の人々はそれを戦いのために用いた。
戦いに利用するしかないほど、彼らは追い詰められていたのか。
それは、戦いを始めた者にしか分からないことだろう。

≪共感≫の力は、数で劣る火星側を、地球軍と同等に戦える存在へと変えていった。

戦闘時の妨害工作によりセンサーは機能せず、目視による戦闘が主流となった。
その状況下において≪共感≫の力は、確かな武器となった。
敵の心を察知し、攻撃を加える――それは一方的な虐殺に近い戦いだった。

目視に頼る地球軍に勝ち目はないと思われた。
だが、数に勝る地球軍は技術を高め、≪共感≫の力を超えようとする。
妨害を超える技術、精度を増すセンサー。
しかし火星側の妨害技術もまた進化し、一進一退の戦いが続いた。

すでに、何のために戦っているのか、双方わからなくなるほど長く。

そんな中、地球側により強力な≪共感≫能力を持つ子供たちが生まれた。
火星軍への対抗として宇宙に作られた補給基地。
地球軍に属する宇宙生まれの子供たち。
その中に、火星の人々に似た力を持つ子供たちが生まれたのだ。

地球軍は彼らを少年兵として戦場に投入した。

その投入が偶然だったとしても、彼らは戦果を挙げ続けた。
火星側は彼らに追い詰められ、戦場は火星本土へと押し進められていく。

このまま、地球軍が火星軍を制圧し、戦いが終わる――。

そう思われていた時だった。

地球側で最強の≪共感≫能力を持つと謳われた少女が、火星側についた。
強大な能力ゆえに戦うことができなかった慈愛の少女。
だがその慈愛ゆえに、敵兵の男の心に≪共鳴≫し、男の悲しみを受け止め、彼女は戦うことを選んでしまった。

……彼女の心は、戦うたびに軋み、ひび割れていった。
壊れていく彼女の心に≪共鳴≫した地球軍の少年兵たちの嘆きが、さらに彼女を蝕んでいく。

それでも彼女は戦った。
悲しみを抱えた男のために。

少女は、ある部隊の少年兵たちに討たれた。
少年兵たちは泣きながら、壊れていく彼女を救うために、彼女の命を絶つことしかできなかった。

これで……彼女の悲しみも苦しみも終わる。
少年兵たちは、ただ静かに涙を流した。

だが彼女の能力は火星側で解析され、様々な装置に埋め込まれてしまっていた。
死してなお、彼女の心は残り続け、壊れ続けていく。

戦いに正義などない。
生まれるのは悲劇だけ。

英雄など幻影にすぎない。

それでも少年は、ただ一人歯を食いしばり、彼女の意志を継いだ。
壊れ続ける彼女の心の中に残る、最後の望みのために。

彼女の思い人を止める――。

彼女とは別の方法で。
相対することで男を救うために、少年は男の前に立ちふさがった。
それが、自らの手で葬った愛する≪姉≫への弔いになると信じて。
憎しみを飲み込み、男を救うために――彼女の願いを継いだ。

男の拒絶は深く、少年の未熟な心では男のことを完全には理解できない。
けれども、あの男は止めなければならない。
男のためにも。

そして少年は、自らにとって最後となる戦いへ――その翼を広げた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...