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序章
1 ― 悲しみのソラ ―
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夢か、記憶か、幻影か。
それは失われた世界の残響であり、過去の旋律。
消え去った世界に刻まれた、最後の記録の音。
広大な宇宙の果て。
太陽と呼ばれる恒星の周囲を巡る惑星。
生物を生み出した地球という星――そこから飛び出し、火星を開拓し、生活を始めた人類は、やがて戦いへと向かってしまった。
いや、最初に求めたのは戦いではなかった。
彼らは救いを求めたのだ。
母なる星に。
だが、その手は拒絶された。
彼らに宿った力を恐れた者たちによって。
火星に住み始めた人類は、≪共感≫という能力を身につけた。
不毛の大地を切り拓く彼らに与えられた、心を通わせる力。
本来ならば祝福と呼べるはずの力だった。
だが、火星の人々はそれを戦いのために用いた。
戦いに利用するしかないほど、彼らは追い詰められていたのか。
それは、戦いを始めた者にしか分からないことだろう。
≪共感≫の力は、数で劣る火星側を、地球軍と同等に戦える存在へと変えていった。
戦闘時の妨害工作によりセンサーは機能せず、目視による戦闘が主流となった。
その状況下において≪共感≫の力は、確かな武器となった。
敵の心を察知し、攻撃を加える――それは一方的な虐殺に近い戦いだった。
目視に頼る地球軍に勝ち目はないと思われた。
だが、数に勝る地球軍は技術を高め、≪共感≫の力を超えようとする。
妨害を超える技術、精度を増すセンサー。
しかし火星側の妨害技術もまた進化し、一進一退の戦いが続いた。
すでに、何のために戦っているのか、双方わからなくなるほど長く。
そんな中、地球側により強力な≪共感≫能力を持つ子供たちが生まれた。
火星軍への対抗として宇宙に作られた補給基地。
地球軍に属する宇宙生まれの子供たち。
その中に、火星の人々に似た力を持つ子供たちが生まれたのだ。
地球軍は彼らを少年兵として戦場に投入した。
その投入が偶然だったとしても、彼らは戦果を挙げ続けた。
火星側は彼らに追い詰められ、戦場は火星本土へと押し進められていく。
このまま、地球軍が火星軍を制圧し、戦いが終わる――。
そう思われていた時だった。
地球側で最強の≪共感≫能力を持つと謳われた少女が、火星側についた。
強大な能力ゆえに戦うことができなかった慈愛の少女。
だがその慈愛ゆえに、敵兵の男の心に≪共鳴≫し、男の悲しみを受け止め、彼女は戦うことを選んでしまった。
……彼女の心は、戦うたびに軋み、ひび割れていった。
壊れていく彼女の心に≪共鳴≫した地球軍の少年兵たちの嘆きが、さらに彼女を蝕んでいく。
それでも彼女は戦った。
悲しみを抱えた男のために。
少女は、ある部隊の少年兵たちに討たれた。
少年兵たちは泣きながら、壊れていく彼女を救うために、彼女の命を絶つことしかできなかった。
これで……彼女の悲しみも苦しみも終わる。
少年兵たちは、ただ静かに涙を流した。
だが彼女の能力は火星側で解析され、様々な装置に埋め込まれてしまっていた。
死してなお、彼女の心は残り続け、壊れ続けていく。
戦いに正義などない。
生まれるのは悲劇だけ。
英雄など幻影にすぎない。
それでも少年は、ただ一人歯を食いしばり、彼女の意志を継いだ。
壊れ続ける彼女の心の中に残る、最後の望みのために。
彼女の思い人を止める――。
彼女とは別の方法で。
相対することで男を救うために、少年は男の前に立ちふさがった。
それが、自らの手で葬った愛する≪姉≫への弔いになると信じて。
憎しみを飲み込み、男を救うために――彼女の願いを継いだ。
男の拒絶は深く、少年の未熟な心では男のことを完全には理解できない。
けれども、あの男は止めなければならない。
男のためにも。
そして少年は、自らにとって最後となる戦いへ――その翼を広げた。
それは失われた世界の残響であり、過去の旋律。
消え去った世界に刻まれた、最後の記録の音。
広大な宇宙の果て。
太陽と呼ばれる恒星の周囲を巡る惑星。
生物を生み出した地球という星――そこから飛び出し、火星を開拓し、生活を始めた人類は、やがて戦いへと向かってしまった。
いや、最初に求めたのは戦いではなかった。
彼らは救いを求めたのだ。
母なる星に。
だが、その手は拒絶された。
彼らに宿った力を恐れた者たちによって。
火星に住み始めた人類は、≪共感≫という能力を身につけた。
不毛の大地を切り拓く彼らに与えられた、心を通わせる力。
本来ならば祝福と呼べるはずの力だった。
だが、火星の人々はそれを戦いのために用いた。
戦いに利用するしかないほど、彼らは追い詰められていたのか。
それは、戦いを始めた者にしか分からないことだろう。
≪共感≫の力は、数で劣る火星側を、地球軍と同等に戦える存在へと変えていった。
戦闘時の妨害工作によりセンサーは機能せず、目視による戦闘が主流となった。
その状況下において≪共感≫の力は、確かな武器となった。
敵の心を察知し、攻撃を加える――それは一方的な虐殺に近い戦いだった。
目視に頼る地球軍に勝ち目はないと思われた。
だが、数に勝る地球軍は技術を高め、≪共感≫の力を超えようとする。
妨害を超える技術、精度を増すセンサー。
しかし火星側の妨害技術もまた進化し、一進一退の戦いが続いた。
すでに、何のために戦っているのか、双方わからなくなるほど長く。
そんな中、地球側により強力な≪共感≫能力を持つ子供たちが生まれた。
火星軍への対抗として宇宙に作られた補給基地。
地球軍に属する宇宙生まれの子供たち。
その中に、火星の人々に似た力を持つ子供たちが生まれたのだ。
地球軍は彼らを少年兵として戦場に投入した。
その投入が偶然だったとしても、彼らは戦果を挙げ続けた。
火星側は彼らに追い詰められ、戦場は火星本土へと押し進められていく。
このまま、地球軍が火星軍を制圧し、戦いが終わる――。
そう思われていた時だった。
地球側で最強の≪共感≫能力を持つと謳われた少女が、火星側についた。
強大な能力ゆえに戦うことができなかった慈愛の少女。
だがその慈愛ゆえに、敵兵の男の心に≪共鳴≫し、男の悲しみを受け止め、彼女は戦うことを選んでしまった。
……彼女の心は、戦うたびに軋み、ひび割れていった。
壊れていく彼女の心に≪共鳴≫した地球軍の少年兵たちの嘆きが、さらに彼女を蝕んでいく。
それでも彼女は戦った。
悲しみを抱えた男のために。
少女は、ある部隊の少年兵たちに討たれた。
少年兵たちは泣きながら、壊れていく彼女を救うために、彼女の命を絶つことしかできなかった。
これで……彼女の悲しみも苦しみも終わる。
少年兵たちは、ただ静かに涙を流した。
だが彼女の能力は火星側で解析され、様々な装置に埋め込まれてしまっていた。
死してなお、彼女の心は残り続け、壊れ続けていく。
戦いに正義などない。
生まれるのは悲劇だけ。
英雄など幻影にすぎない。
それでも少年は、ただ一人歯を食いしばり、彼女の意志を継いだ。
壊れ続ける彼女の心の中に残る、最後の望みのために。
彼女の思い人を止める――。
彼女とは別の方法で。
相対することで男を救うために、少年は男の前に立ちふさがった。
それが、自らの手で葬った愛する≪姉≫への弔いになると信じて。
憎しみを飲み込み、男を救うために――彼女の願いを継いだ。
男の拒絶は深く、少年の未熟な心では男のことを完全には理解できない。
けれども、あの男は止めなければならない。
男のためにも。
そして少年は、自らにとって最後となる戦いへ――その翼を広げた。
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