お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第十六話②『露見』

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「俺に喧嘩売っといて逃げられると思うなよ」

 すると竜脳寺りゅうのうじは調子を完全に取り戻したのか最初に会った時のような鼻につく態度をこちらに向けてくる。

 しかし嶺歌れかはそんな余裕そうな竜脳寺に追撃で攻撃を仕掛ける。

「そろそろ耳でも澄ませたら?」

「あ?」

 嶺歌は自身の耳に右手を当て、耳を澄ませるポーズをとった。

 その不可思議な嶺歌の行動を見て竜脳寺は再び眉間に皺を寄せる。そしてそれに合わせるようなタイミングでそれは始まる。

金神流王かねがみりゅうおう学園の高校二年生、竜脳寺外理さんは、高円寺院家財閥の高円寺院形南様を去年の5月12日に裏切りました。彼は別の女性と関係を持ち、一線を越えてしまったのです』

「………あ?」

 それは校内放送だった。裏庭でも良く響き渡るその大きな放送は、竜脳寺の失態を報道している。内容はほとんど新聞の記事に書かれている事と同じだ。

 竜脳寺が形南あれなを裏切ったという事実を視覚だけでなく聴覚からも知らしめる事で本人に自覚させる為であった。とはいえ、これで竜脳寺が反省するとはとても思えない。そもそも奴が心から反省するなど想像もつかないのだ。

「おい! なんだこの放送は! 止めやがれっ!!!」

 そう、竜脳寺は絶賛逆ギレ中だ。これでは反省どころか嶺歌への矛先が深まっていくだけだ。しかしこれではまだ足りない。

 校内放送は途切れることなく竜脳寺の失態を延々と報道していた。

 大音量でそれを聴いているしかない竜脳寺は何かを思い付いたのか放送部へ行こうと中庭グラウンドからの離脱を決めたようだ。しかしそんな事を許すほど嶺歌は優しくない。

「待ちなって」

 嶺歌をその場に残しグラウンドを後にしようとする竜脳寺に嶺歌は声を掛ける。奴は非常に憤った様子でこちらを見返した。

「てめえへの仕返しはこの後にしてやる。首を洗って待ってろ」

 まるでチンピラのような奴の言動には心底呆れる。

「いや放送部行っても変わんないから」

「あ"??」

 振り返る竜脳寺りゅうのうじ嶺歌れかはそう言葉を投げる。そうして次の仕掛けに入った。

『~~~♪』

 途端に放送は歌へと変わり、この場に不釣り合いな音楽が流れ始める。

 竜脳寺は突然の放送の切り替わりに動揺した様子で放送が流れるスピーカーに目をやった。

『竜脳寺外理の失態は~♪』
『婚約者を裏切ったこと~♪』
『学園の恥~♪』
『学園の恥~♪』
『竜脳寺家の恥~♪』
『愚かな竜脳寺外理なんてあわれ~~~♪』

 流れる音楽は大音量で竜脳寺の元へ流れる。耳を塞いでも聞こえるこの不可思議な音楽に、竜脳寺は分かりやすくも憤りをあらわにした。

「んだこのふざけた音楽は!!! おい!!! てめー!!! ざけんじゃねえぞ!!!!!」

 吠える竜脳寺を見て嶺歌は確信する。先程よりも確実にダメージを与えられている。

 新聞の記事に校内放送、そして意味不明な音楽。これらが合わさり竜脳寺の精神を抉っているのは間違いなかった。

 これらの演出は、竜脳寺にしか分からない幻聴だった。

 新聞部の記事作成だけは本物であり、嶺歌が時間をかけて部長へお願いした正真正銘本物の品であるが、それ以外の校内放送やこの不気味な歌詞の音楽は全て嶺歌が魔法で作ったイカサマだ。

 竜脳寺は嶺歌によって幻聴を聞かされているのだ。

 ゆえに竜脳寺以外にこの放送が聞こえる事はなく、頭の可笑しい音楽も聴こえるものではない。

 竜脳寺はそれに気付かず、学園内に自身の羞恥があらゆる方法で露見されていると思い込んでいる。

 そう思い込ませるのが嶺歌の目論みだった。

「新聞部、放送部、それとこの楽曲。あんたはどれから止めにいくつもりなの?」

 嶺歌れかは怒りを隠せずにいる竜脳寺りゅうのうじに語りかける。

 対面している奴の表情は野獣のように険しく、今にも嶺歌に掴みかかってきそうな雰囲気を持っている。

「てめえが俺様の人権を奪いやがって……」

 そして予想通りに竜脳寺はこちらに歩を進めるとズンズンと近付き、嶺歌の胸ぐらを掴んできた。

 だがこちらがそれで怯む事はない。奴の態度は予想通りであり、嶺歌としても何も支障のない展開だ。

 そしてそろそろこいつに思い知らしめてやらねばならない。竜脳寺が今どんな状況下に置かれているのかを――。

 嶺歌は片手で竜脳寺に見えない透明ステッキを振るい、奴に事態を把握させる行動に出た。

 嶺歌がステッキを振るうと途端に竜脳寺の怒りに満ちた表情は――――一瞬で青ざめた。

「…………は?」


「竜脳寺くん、あの人本当に竜脳寺くん?」
「今まで猫かぶってたってことかよ? やべー」
「竜脳寺さんがあんな横暴な殿方だったなんて……」
「婚約者を裏切ったんですって? とんでもないわね」
「竜脳寺あいつ、いい奴だと本気で尊敬してたのに…」


 途端に騒めき出す中庭グラウンド。そう、このグラウンドには実は大勢の生徒がいたのだ。

 竜脳寺は突然現れた多くの生徒の存在にひどく動揺しているが、彼らは突然現れたのではなく、嶺歌の魔法によって隠されていた。

 かけていた魔法は魔法だ。

 竜脳寺を中庭グラウンドに呼び出す前に嶺歌は多くの生徒たちをあらかじめ中庭グラウンドに誘導していた。

 本日の六時に竜脳時の新聞の詳細を中庭グラウンドにて詳しく説明すると新聞記事に予め書き込んでもらっていたのだ。

 嶺歌の予想通り、学園の中でも有名な竜脳寺の特集記事に釣られる生徒は多くいた。

 そしてそれを餌に集められた生徒たちに、竜脳時の本性を間近で見てもらう。最高の演出だ。


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