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第十九話②『招待されて』
しおりを挟むそう尋ねると兜悟朗はこんな言葉を口にする。
「問題御座いません。今回の主役は嶺歌さんでございます。お嬢様からは私に貴女様をエスコートするよう仰せつかっております故、本日は私兜悟朗が嶺歌さんをおもてなしさせて戴きます」
そう告げて深く綺麗なお辞儀をした。
今回は嶺歌に対する感謝の場だと形南は何度も言っており、現に形南からの感謝は今日の数時間だけでたくさん受け取っている。
しかし彼女の一番信頼している執事まで嶺歌にエスコートさせるというこの状況は、形南がどれだけの思いを嶺歌に向けてくれているのかが伝わり、それが素直に嬉しく思える。
「ですが嶺歌さん」
そんなことを考えていると突然、兜悟朗が言葉を付け足してきた。
「パーティーの際にもし貴女様がお気に召される執事がおりましたら、何なりとお申し付け下さい。直ぐにその者と交代いたします」
「あ、はい……」
突然な話に嶺歌は思わず頷いてしまう。
すると兜悟朗は嶺歌の返答を聞いて直ぐに笑みを溢すと「何かありましたらお申し付け下さい」と言葉を残し、扉の近くで待機する姿勢を見せ始める。嶺歌がドレスをゆっくり選べるようにと配慮してくれている様子だった。
その様子を見た嶺歌は再びこちらに気を配り続ける形南と兜悟朗には感謝してもしきれないとそう改めて感じ、そして胸が温かくなるのを実感していた。
そうして形南の事を再び考える。
これから二人で綺麗なドレスを身に纏い、楽しい話をしてパーティーを楽しめるだなんて、なんて贅沢で素敵なプレゼントなのだろう。お礼だと彼女らは口にするが、こちらが感謝してしまいたい程だ。
嶺歌はそこまで考えると、早く形南に会うため思考を切り替えドレス選びに頭を集中させた。
「まあ嶺歌! なんてお似合いなの!」
数々のドレスの中から自分の心に一番響いた青色のドレスを選出し、数人のメイドからあっという間に飾り付けてもらった嶺歌は執事の兜悟朗にエスコートされながらパーティー会場と称された場所に到着した。
嶺歌の選んだドレスは、胸元から袖にかけて上品な刺繍のレースが施され、ウエストで切り替えられたスカートはチュール素材が重なり美しいフレアが広がっている。膝丈のそのドレスは控えめに言っても大人びており、着用している嶺歌の心を高揚させていた。
一足先に到着していた形南はそんな嶺歌の姿を見て、甲高い声をあげるとこちらに走り寄ってくる。
純白のドレスを身に纏った形南の姿は控えめに言っても美しく可愛らしい。まるで天界から訪れた天使のようなその姿に嶺歌は率直な感想を口にした。
「ありがと! あれなのドレスもめっちゃ可愛いー! その色のドレスあれなに似合うね」
そう言って形南を賞賛すると彼女は嬉しそうに口元を綻ばせ、嶺歌の手を握ってきた。
「嬉しいですの! 嶺歌、兜悟朗のエスコートは問題ありませんでした? 何かあれば遠慮せず仰ってね!」
「ありがとね。でも大丈夫! 兜悟朗さん、探しても粗が出ないくらい完璧だから」
嶺歌はそう言葉を返すと形南が「あらあら」と嬉しそうに口元に手を当て、兜悟朗は「勿体無いお言葉感謝致します」と丁重な一礼をしてくる。
話を盛ったつもりは毛頭ないのだが、しかしこのように改まった反応をされるとどう対応したらいいのか分からなくなる。
「それでは嶺歌、お気に召した所から回りましょうか。まずはどちらに行かれたいかしら?」
形南が沈黙を破ってくれたおかげで嶺歌は安堵した。それから彼女に言われた通り気になる所を探し、演奏が聞けるというエリアに目を向ける。
あそこに行っていいかと尋ねると形南は勿論ですのと嬉しそうに言葉を返しそのまま演奏エリアに向かうことになった。
そして当然なのだが兜悟朗も着いてくる。それがまた気恥ずかしく、嶺歌の顔の熱は下がるどころか更に強める要因となっていた。
席に座ると二人の為だけに演奏者達が音楽を披露してくれた。
そうしてその後もプロのマジシャンのマジックショーを生で拝見したり、会場を真っ暗にして天井に星座を映し出すプラネタリウムを楽しんだ。
他にも五つ星レストランのシェフが作りたてほやほやのデザートを振る舞ってくれたりと予想外の豊富なパーティー内容にその都度感動しながら、嶺歌の気持ちは終始浮き足立っていた。
「楽しいですわね」
「うん本当! こんな豪華な一日なかなかないって」
パーティーを一通り楽しんだ二人は一旦休憩しようとふかふかのソファに座り、雑談をしていた。
形南のエスコートをしている執事も、嶺歌をエスコートしてくれている兜悟朗も今この場には居らず、完全に形南と二人きりである。
嶺歌は自分がいつもより着飾っているせいかまるで本当にお金持ちのご令嬢になった気分だった。
今身につけている嶺歌のドレスも、嶺歌がいるこの空間も、そして常時嶺歌をエスコートしてくれる兜悟朗も全てが非日常的だ。
「本当にありがとう! 今日の事は一生忘れないだろうなー」
嶺歌が本心からそう呟くと形南はあらと声を上げながらくすくすと笑みをこぼす。
「今回のお礼がお気に召していただけて良かったですの」
形南は嶺歌に目線を向けながらそのような言葉を口にした。
嶺歌は「あれなが喜ばせようとしてくれたんだから何でも嬉しいよ」と言葉を返し笑ってみせると彼女は嬉しそうに笑いながらお礼の言葉を述べてくる。
「けれど、私の最初の案を採用していたら嶺歌はきっと怒られていたと思うのですの」
「ええ? そんなことあるかな」
形南の言葉に同意ができず嶺歌は顔を顰めた。形南にお礼をされて自分が怒るような事など、起こり得るだろうか。
しかし数秒後に形南がその詳細を口に出し、嶺歌の思考は一変する。
「はいですの。最初の候補は高円寺院家の鍵のプレゼントでしたわ。次の候補は高円寺院家の紋章が印字された特殊なクレジットカードのプレゼントでしたの。どちらも結局お蔵入り案となりましたけれど」
「ああ、それは却下かな……」
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