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第四十一話②『海』
しおりを挟む平尾が合流してから車で約一時間程が経過すると、目的地である有名なビーチに到着する。
今回は貸切ではなく、一般人もたくさんいる。きっとこれらも形南の平尾に対する配慮なのだろう。
一旦兜悟朗と平尾とは別れ、形南と二人、女子更衣室へと入っていく。形南はニコニコした様子でとてもご機嫌な笑みを溢していた。
「平尾様の水着姿……とても楽しみですの」
それを聞いて嶺歌も兜悟朗の水着姿を思い浮かべる。
しかし兜悟朗が主人である形南がいる手前、肌を露出させる図が想像できなかった。もしかしたら何か羽織ってくるのではないだろうか。
(いやでもそれもめちゃいい……)
想像した兜悟朗の姿はどのような格好であってもときめかない理由にはならない。嶺歌はどんな姿の兜悟朗でも絶対に見た瞬間格好いいとそう思ってしまう。それはここ最近で確信した事でもあった。
(本当、ほの字一択なの我ながら凄いな)
そう事を考えながら僅かに赤らんだ顔を振り払っていると、形南が陽気な笑顔で嶺歌に問い掛けてきた。
「ねえ嶺歌、水着はどのようなものをチョイスなさったの?」
「あたしはこれ」
そう言って脱ぎかけの衣服を全て脱ぐと予め着ていた水着が出てくる。形南はまあ! とそのことに驚いた様子を見せ、再び口を開いた。
「そのような着用法がありましたのねっ! とても楽でよろしいですわね! 私も今後はそのようにしますの!」
「楽でいいけど、下着忘れるのあるあるだから気をつけてね」
嶺歌が苦笑しながらそう言うと形南も気をつけますわとくすくす笑い出す。そうして形南は話題を戻してきた。
「嶺歌の水着とっても可愛いですの! あなたらしいですのね」
今回の水着は自身の貯めていたお小遣いから新たに購入していた。
本当はビキニを着ようと思っていた嶺歌であったが、兜悟朗の事を意識するとそのような大胆な水着を着れそうになかった。
平尾や他の異性に見られる事は平気なのに、兜悟朗にだけはどうしても恥ずかしさが出てきてしまう。
そのため今回はおへそが少しチラ見えするくらいの比較的露出の少ない水着だ。
ボトムスもスカートではなく、裾の広がったキュロット仕様の短パンである。色は無難なカーキ色を選出していた。
「ありがとう。実はこれ昨日買ったんだ」
形南の褒め言葉に素直にお礼を告げてそう言うと形南はまあ! と再び声を上げて驚く。
新調なさったのねと言葉を付け加える形南はそう告げながら自身も水着に着替え終わっていた。
形南の水着はお嬢様感溢れるくすんだ黄色のワンピースだ。胸下にあしらわれたレースアップのリボンが、ピンク色になっておりそれがまた可愛らしい仕様になっている。
「あれなの水着もめっちゃ可愛いね! ワンピースタイプ、ちょっと悩んでたんだー」
「ありがとうございますの! ワンピースの嶺歌もとても似合うと思いますわ!」
そんな会話を交わしながら形南と準備を整え、二人で揃って集合場所へと向かう。
そこには既に兜悟朗と平尾の姿があり、兜悟朗は予想通りに水着の上からシャツを羽織っており、胸元はボタンを掛けた状態で隠され、露出が控えめになっていた。
しかしいつもの兜悟朗の姿よりは遥かに露出のあるその格好は、大人の色気がどことなく漂っており、胸元から僅かに見える鎖骨や、チラリと見える筋肉が嶺歌の鼓動を加速させる。
(や、やば……かっこよ…………)
思わず顔を覆いたくなるほどの衝撃を受けた嶺歌は、咄嗟に顔を逸らして海を見渡すふりをした。
すると兜悟朗は柔らかく微笑みながら三人に向けて言葉を掛けてくる。
「ご準備お疲れ様でございます。私はこちらでお荷物を見ておりますので、皆様ご安心して海を満喫なさって下さいませ」
「ええ、任せましたの。平尾様、嶺歌! 参りましょう!!」
形南は兜悟朗にそう一任する言葉を告げると、嶺歌と平尾の腕を両手で引っ張っていき、そのまま海の方まで足を動かす。
嶺歌は兜悟朗のことが気になったものの、ずっとそばにいるのも気持ちがバレる要因となるだろう。
まだ自身の思いを彼に告げる勇気がないため、嶺歌は兜悟朗とは少し間を置いてから話そうと思い直し、形南と平尾の三人で海を楽しむのであった。
第四十一話『海』終
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