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第五十九話②『魔法少女の失態』
しおりを挟む何故彼がその言葉を発せられているのか、意味が分からなかった。
平尾が嶺歌の前から一時的にいなくなった事で魔法少女に関する記憶は完全に消去されるはずだ。その魔法が、本来であればどのような人類にもかけられる筈である。
だと言うにも関わらず、数十分ほど離脱した筈の平尾の記憶はまるで先程の光景を覚えているかのような口ぶりだ。いや、そうでなければ今のような単語を口にする事は出来ないだろう。
何が起こっているのか分からない嶺歌はただただ呆然と平尾を見つめ返した。
それは魔法少女の記憶消去事情を知っている形南も同じようで、彼女も声にならないのかその場で静止していた。
するとその沈黙を破るかのように兜悟朗が声を発する。
「嶺歌さん、平尾様は先程の記憶を一時たりともお忘れになられてはおりません。一度お屋敷の外まで移動しましたが、状況はお変わりないようです」
兜悟朗は嶺歌に視線を向け、小さく一礼しながらそのような言葉を口にする。平尾本人も困惑しているのか、兜悟朗の言葉を聞いて自身の頬を終始掻いていた。
「ええっと……あたし一旦外出ます」
嶺歌はそう言って形南の自室の扉を開け、迅速に広い廊下へ出た。そうして数分の時間を経てからもう一度形南の部屋へ戻る。
ノック音を響かせてから扉を開けると一番初めに平尾と目が合う。彼は制服姿の嶺歌を見て再び声を発した。
「魔法少女……ってこと、お、覚えてるよ?」
「まじか……」
異例だ。とんでもなく例外的な事故が起こってしまった。平尾はどうやら、記憶消去の介入を受け付けない人間らしい。
一体何故そのような不可思議な現象が起きてしまうのか謎に包まれてはいるが、どうやっても彼が魔法少女の嶺歌を忘れられないという事は間違いようのない事実だった。
「なんで忘れないの? あたしの姿が見えなくなると、記憶が自動的に消去されるのに」
嶺歌は怪訝な顔をして平尾にそう言うと、彼は困惑した表情で視線を逸らしながら「いやあ……な、なんでだろ」と声を出す。彼の様子からして本当に平尾にも事情は分からないようだ。
平尾が魔法少女の関係者なのではないかという疑いは、今の反応で見当違いであると分かってしまった。
「何故正様は嶺歌のお姿を覚えていらっしゃるのでしょう……」
嶺歌達の様子を静観していた形南はポツリと声を漏らす。口元に手を当てながら心底不思議そうにそう言葉を発する形南に平尾は顔を向けた。
「あ、あれちゃんはし、知ってたんだね」
「ええ、ごめんなさいですの。ですが、嶺歌の秘密を漏らす事はしたくありませんでしたの」
そう言って形南は深く平尾に頭を下げると平尾は慌てた様子で「い、いや! 謝る必要な、ないから」と形南の両肩を優しく撫で始める。
その二人の初々しい光景に微笑ましい思いを少なからず感じながらも嶺歌は思考を続けていた。平尾にバレてしまった以上、魔法協会からお達しがくるはずだ。
(あたしに記憶を消す能力はないし……)
魔法少女は万能であるが、それでも不可能な事もあった。記憶の消去は例外であり、魔法協会にしか行う事は出来ない。
だからこそ嶺歌がこの場で平尾の記憶を消すという行為は出来ないのだ。その力があれば、嶺歌は躊躇いなく彼の記憶を消していただろう。
しかしそれが出来ない今は、平尾の記憶を維持させる他あるまい。彼に忘れて欲しいと言うのも無理な話だ。
「平尾、今見た事誰にも言わないで」
嶺歌はそう言う事しか出来なかった。
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