恋降る物語

まぽわぽん

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送り狼と猫暖

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会社の忘年会。
あまり飲まないようにしよう。そう思っていた矢先、良い具合に酔っ払った上司に「お前、付き合い悪ぃな」だなんて煽られ、ついつい飲み過ぎてしまったようだ。多分。

(理性は残っていると思っていたが…)

終電に揺られ、隣には部下の女の子。
呂律の回らない彼女に「送り狼に襲われるのが怖い~家まで連れてって下さい~」だなんて腕にしがみつかれ突き放すこともできず、こうして一緒にいたりする。

(俺が“送り狼”だったらどうする?)

安心されるような男で良かったと思うべきか。
ガタンゴトン…
揺れと共に、隣から仄かに香る香水と酒の余韻、サラサラの髪が触れた。
はぁ…
溜息を吐く。

* * *

夜風に当たり酒も抜けた。
正気に戻り、彼女の家の前に到着。
愕然とした。

(実家暮らしだと思ったが、一人暮らしのアパートだと?)

オートロックもないような古いアパートだった。階段を上るとギシッギシッと壊れそうな音が響く。

「信濃さぁ~ん、鍵これです。開けて下さいよぉ…鍵穴見えないもーん」

もーん、ではない。
会社の上司とはいえ、男に鍵を開けさせるだなんて本気でやめろ。
女としての自覚を持て!
呆れる上に心配が込み上げて来た。

(酒の飲み方も教えなきゃならんのか。俺は親か?)

鍵を差し込むと、何故かスムーズに回らない。開けるには工夫がいるほどの老朽化だった。確かに酔っていたら玄関前で沈没する。

はぁ…
二回目の溜息。
靴を脱ぎ、彼女を抱えながら電気をつける。

「ありがとうございますぅ」

ぐでん…。
彼女はテーブルに突っ伏して、そのまま寝息を立てた。

(マジか)

帰り辛い空気が流れた。
せめて彼女には毛布、テーブルには水でも用意してから帰ろう…。

ベッドを見ると、大量の洋服の下に毛布は埋まっているようだった。キッチンに目を向けると、コップは大量の食器に埋まるシンクの中に。

(女子を疑うレベルだな…)

呆れることに慣れそうだ。
ベッドから毛布を取り出すと「ニャー」と鳴き声がした。
「猫?」驚いて毛布から手を離すと、下から大きな猫がのしのしと出て来る。
ジッと俺を見た。
ズボラな飼い主を考えると、お腹が空いているのかもしれない。
散らかった服を片付けるのは後回しにして、猫の食事とコップを洗うためにキッチンに向かった。

ジャー…
スポンジで泡立てた食器を水で流す横で、猫は“カリカリごはん”を食べている。キャットフードも無造作に置かれていたので探すのは楽だった。

「ふぅ…やっと皿洗い終わったな。コップも猫も大丈夫だ」

俺は何をやっているのだろう?
テーブルに突っ伏し、すやすや眠る彼女を一瞥。
邪魔にならない位置に水の入ったコップを置くと、急激な疲れと眠気を感じた。

「ニャーン」

食事を終えた猫が身体を擦り付けて来た。
軽く頭を撫でてやる。猫は膝に前足を置いて来た。
「甘えたいのか?」足を崩して彼女の横に座ると、猫は股に落ち着き、眠たそうに欠伸をした。
じんわりと温もりが広がる。そして動物の温もりは眠りを誘発した。

いつの間にか眠ってしまった…。

* * *

「な、な、な、なんで信濃さんが?しかも、ベッドから洋服やパンツ、ブ…ブラまで落ちて…!いやぁぁぁぁ」

壮絶な叫びで目を覚ますと、彼女がわなわなと震えながら獣を見るかのような目で俺を見ていた。

(獣はどっちだ!)


理性を倍増しにして叱り倒したのは言うまでもないが、「ニャーン」と俺に対して執拗に甘えて来る猫。そして彼女は明らかに態度を改めていた。
恥ずかしそうに、照れながら、脅す。

「責任とって下さいね!そうしないと、破廉恥なことをしたって、社内に言いふらしますからねっ」
「は?」
「うちの猫を手懐けた責任です。次の休日もうちに来て下さい!ね!」

意味がわからない。

三度目の溜息を吐きそうになったが、それは許されなかった。

「信濃さんのこと、ずっと好きなんです!」
彼女の決死の声と
「ニャー」
猫のひと鳴き。
溜息は絶句に変わったのは言うまでもない。

(二日酔いが抜けたら出直しておいで)


チュンチュン♪
どこかの雀が可愛らしく囀る。取り敢えず、夜が明けた。

-fin-
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