恋降る物語

まぽわぽん

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数秒間ラブストーリー

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ピピピッ
朝を知らせる電子音。
時計は6時半を示していた。
身体を起こし、乱れた髪を手櫛で整える。
欠伸と軽くストレッチ。それから、冷水で顔を洗う。ミントの香りで歯磨き、朝食はTKGだ。
「よしっ」
少しだけ気合いを入れて制服に腕を通した。
玄関でローファーを履いたら、毎朝のルーティンは終わりだ。


「二人とも、いってらっしゃい!」


母の声に、私と…
隣でスニーカーを取り出す、ほぼ寝起きのまま制服を着た弟も

「「行ってきます」」

声を返した。

* * *

ホールに二人で並ぶ。
そっと手を繋いで。

乗降用ボタンを押すと、暫くしてエレベーターは五階で止まった。行き先階ボタンは一階。扉が閉まると、二人だけの空間。
この時間帯は途中の階では止まらない。

「寝坊しなかったね。よしよし!」
私は弟の髪やシャツの襟、ネクタイを直す。

「だって…好きだし、この時間」
眠たそうに、恥ずかしそうに、弟は私にハグをして優しくキスをした。

チンッ♪

一階に止まり、扉がゆっくりと開く。
繋いだ手も、唇も、ゆっくり外された。
恋のルーティンも終わりだ。

「私も大好きだよ」

ふふっと笑う私に「乾燥で、唇荒れてた」弟は照れてそっぽを向いた。

寝癖の髪がぴょこんと上下に跳ねて可愛らしかった。


-fin-
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