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暇つぶしライフワーク
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コンビニまで行こうか…。
歩いていると気になる行列があった。
確か、二ヶ月前までは食パン専門店があった場所だ。
閉店になってからはシャッターが閉まったままだった。新しい店が入ったのか?しかも行列ができるような…。
(何の店だ?)
客層は主婦が多い。
主婦達の服装からして洒落た雰囲気の店だろうか。最後尾に並んだのは気まぐれだ。
* * *
「いらっしゃいませ」
商品を売る気が無いのか?薄暗い店内。
柔らかな照明の先には、はにかむ笑顔の魅力的な若い青年と、暖色に照らされたショーケースの中にドーナツの陳列が見えた。
なるほど。
主婦達の心を掴んでいる。
フワッと甘い香。
可愛いらしいドーナツの紙袋を手渡される時に耳元で囁かれた意味深な微笑に苦笑いした。
「お客様の容姿や声に一目惚れ、と言ったら不愉快ですか?」
あぁ
この趣向では主婦達が泣くよ。
「いや、そうじゃない。面白いネタだが妻帯者だ」
片手をひらひらと振って店を後にした。
ドーナツは妻の好みかもしれない。
妻の嗜好に合うなら、レシート裏に書かれた電話番号だけは気にするか。
* * *
時計を見ると昼前。
この時間なら妻と待ち合わせできるかもしれない。
商店街に馴染む整体院に足を向けると、妻の友達が「あらあら!旦那様じゃない。今日もイケメンね!」気付いて笑った。
笑顔は何歳になっても綺麗で完璧なメイクだ。
「ツネちゃんは中に居ます?」
「居るわよ。まだ施術中かもねぇ。先生との会話が楽しくて止まらないみたいよ」
「またか。先生には嫉妬するよ」
妻の友達が「ま、お熱いこと♡」微笑んで去って行った。
待ち人の妻が整体院から出てきたのはそれから数分後。手を振った。
自分より50も年上の妻。
彼女を幸せにするのが自分の生き甲斐だ。
「やだぁ、待ってたの?そのドーナツの袋、可愛いわね。ちょうど整体院の先生と新しく出来たドーナツ屋さんの話をしてたの」
彼女の話はとんでもなく長いが“退屈”にはならない。
寧ろ、自分を楽しませてくれる。
「その店だよ。食欲と性欲が掻き立てられるドーナツ屋さんだったな」
「食欲はわかるけれど…性欲?」
「主婦が好みそうな店員が居たのと、俺にアプローチしてきた結果論」
「あらまあ、嫌だ。妬けるじゃない」
「整体院の先生には負けるよ」
彼女の足取りはスローペース。
人生を歩むには、このくらいのスピードが丁度いい。
ふたりでドーナツを食べて満足する。
妻が好む、柔らかさと甘さが備わっていた。
笑顔を交わす。
いいね、レシート裏の電話番号にコールしようか。副業のアルバイトの時給はドーナツで良い。
* * *
さて、そろそろ仕事の時間だ。
「今夜も同伴のお客様が居るの?」
「指名の予約でいっぱいだよ」
水商売をしていると、見た目の美しい女性達を数多く見掛ける。だが、心のケアを怠っている者も溢れている。
彼女達のメイクをしてあげるのは“暇つぶし”に向いていた。
暇が嫌いだ。
「いってらっしゃい」
送り出してくれる50も年上の妻。
彼女の元気な声が続くようにと、俺は働く。
この上なく魅力的なライフワークだ。
-fin-
歩いていると気になる行列があった。
確か、二ヶ月前までは食パン専門店があった場所だ。
閉店になってからはシャッターが閉まったままだった。新しい店が入ったのか?しかも行列ができるような…。
(何の店だ?)
客層は主婦が多い。
主婦達の服装からして洒落た雰囲気の店だろうか。最後尾に並んだのは気まぐれだ。
* * *
「いらっしゃいませ」
商品を売る気が無いのか?薄暗い店内。
柔らかな照明の先には、はにかむ笑顔の魅力的な若い青年と、暖色に照らされたショーケースの中にドーナツの陳列が見えた。
なるほど。
主婦達の心を掴んでいる。
フワッと甘い香。
可愛いらしいドーナツの紙袋を手渡される時に耳元で囁かれた意味深な微笑に苦笑いした。
「お客様の容姿や声に一目惚れ、と言ったら不愉快ですか?」
あぁ
この趣向では主婦達が泣くよ。
「いや、そうじゃない。面白いネタだが妻帯者だ」
片手をひらひらと振って店を後にした。
ドーナツは妻の好みかもしれない。
妻の嗜好に合うなら、レシート裏に書かれた電話番号だけは気にするか。
* * *
時計を見ると昼前。
この時間なら妻と待ち合わせできるかもしれない。
商店街に馴染む整体院に足を向けると、妻の友達が「あらあら!旦那様じゃない。今日もイケメンね!」気付いて笑った。
笑顔は何歳になっても綺麗で完璧なメイクだ。
「ツネちゃんは中に居ます?」
「居るわよ。まだ施術中かもねぇ。先生との会話が楽しくて止まらないみたいよ」
「またか。先生には嫉妬するよ」
妻の友達が「ま、お熱いこと♡」微笑んで去って行った。
待ち人の妻が整体院から出てきたのはそれから数分後。手を振った。
自分より50も年上の妻。
彼女を幸せにするのが自分の生き甲斐だ。
「やだぁ、待ってたの?そのドーナツの袋、可愛いわね。ちょうど整体院の先生と新しく出来たドーナツ屋さんの話をしてたの」
彼女の話はとんでもなく長いが“退屈”にはならない。
寧ろ、自分を楽しませてくれる。
「その店だよ。食欲と性欲が掻き立てられるドーナツ屋さんだったな」
「食欲はわかるけれど…性欲?」
「主婦が好みそうな店員が居たのと、俺にアプローチしてきた結果論」
「あらまあ、嫌だ。妬けるじゃない」
「整体院の先生には負けるよ」
彼女の足取りはスローペース。
人生を歩むには、このくらいのスピードが丁度いい。
ふたりでドーナツを食べて満足する。
妻が好む、柔らかさと甘さが備わっていた。
笑顔を交わす。
いいね、レシート裏の電話番号にコールしようか。副業のアルバイトの時給はドーナツで良い。
* * *
さて、そろそろ仕事の時間だ。
「今夜も同伴のお客様が居るの?」
「指名の予約でいっぱいだよ」
水商売をしていると、見た目の美しい女性達を数多く見掛ける。だが、心のケアを怠っている者も溢れている。
彼女達のメイクをしてあげるのは“暇つぶし”に向いていた。
暇が嫌いだ。
「いってらっしゃい」
送り出してくれる50も年上の妻。
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この上なく魅力的なライフワークだ。
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