恋降る物語

まぽわぽん

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遠恋

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男女の『友情』って疑われるよね?
私達は違うよ。
絶対不滅な『友情』を貫き通そうよ!
ずっと仲良しでいようね。

「うん、いいよ。友達はさ、切っても切れない“仲良し”が続くんだ。ずっと一緒だよ」

小指と小指の“約束”は小学生の時に結んだ。
だから
私と彼、ヒロ君は…意気投合の『友情』を、中学生になっても高校生になっても続けようとしていたんだ。


* * *


でも、おかしいな。
高校生になると状況が一変。


ヒロ君は、背も伸びて男らしくなり
私も、胸やウエストが女らしくなった。
それは男女の身体の変化。

『友情』があるとはいえ…

手を繋ぐことは、お互いに恥ずかしくて出来なくなった。
横並びでお喋りすることも自然と少なくなった。
心の変化だった。

私達の“約束”は何のためにあるの?
よくわからない溝のようなものを感じて、苦しくなった。


* * *


ヒロ君も同じだったのかな?

「ごめん、『友情』は“おしまい”にしようかと思ってて。好きな女の子に告白したいと思っているんだ。だから、ごめん」

ふいに。
学校の廊下で、すれ違い様に言われた言葉だった。
続きは、流れるような言葉の連鎖。


「ほら、窓の外を見て。飛行機雲が見えるだろう?雲が短ければ、明日は“晴れ”なんだって。晴れたら、僕は告白するって決めた」
「そっか。…じゃあ、最後の『友情』で応援してあげるね」
「うん。ありがとう」


遠ざかるヒロ君の背中を見送った後、ポロポロと涙が出た。苦しみの余波だ。
変だな。
『友情』が終わることへの悲しみからでは無い気がした…。

"応援してあげる"

そう言った筈なのに、心の奥底から「明日は雨になればいいのに…」ゾッとするような自分の声がした。


* * *


「飛行機雲の予報通り、晴れだったね…」

目覚まし時計を止めてベッドから起きると、カーテンの隙間から光が差していた。
ホッとするような残念なような、複雑な気持ちに満たされていた。


ヒロ君は誰に告白するの?


朝食は半分も食べられなかった。
玄関で靴を履いたところで、外からポツポツと雨の音。

「あら、天気雨じゃない?」

すぐに止みそうだけど…と、母の声。
傘を手渡してくれた。
受け取りながら複雑な気持ちは深みを増す。
告白はどうなるのだろう。
晴れで雨で。
モヤモヤしたまま歩いた。

すぐ横を救急車のサイレンが大音量で通り過ぎた。ドキッとして時計を見る。「遅刻しちゃう。急がなきゃ!」モヤモヤは無理やり消した。


* * *


ヒロ君は欠席していた。

ぼんやりと教室の窓から空を眺める。
七色の虹と、飛行機雲が長い線を引いて飛んで行くのが見えた。
明日は雨なのかも知れない。

やっぱり告白するなら今日なのに。

他人事だけれど他人事じゃない。
シャーペンを指でクルクル回しながら、焦る想いに眩暈がした。


放課後に知ることとなった。
ヒロ君の欠席理由は、永遠の欠席だった。


“晴れたら告白をする”そう言っていた当日の朝、工事現場から落ちてきた落下物が頭部に当たり亡くなったのだ。


* * *


ヒロ君が眠る棺の前に私は立っていた。
遠い場所へと旅立つには突然過ぎた。

私は泣きながらずっと考えて、ヒロ君の葬儀に参列した。

そんなに遠い場所へと逝ってしまったら、追いかけることも、伝えたい言葉も届かないけれど。


「友情の“おしまい”の代わりが欲しいよ、ヒロ君…」


喧嘩して決別したわけではなかった。
ヒロ君が誰かを好きになっても、私との『友情』が本当に“おしまい”なのかを考えたら、それは嘘。
『友情』が終わる理由が、どこにも見当たらなかったからだ。
それなら、ヒロ君が“おしまい”と言ったのは何故?

答えが見え始めたとき、心に広がった優しい風のような気持ちが、すとんっと心に落ちた。


「ねぇヒロ君。今度は“仲良し”がずっと続くような『恋』をしようよ」



遠いところに旅立ってしまったヒロ君には、もう届かないだろう。
小指と小指の“約束”もできない。
それでも
『恋をした想い』は結び直したいと思った。


-fin-
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