7 / 7
"メッセージ"は演算
しおりを挟む
アルバイト先の珈琲店で、店長に「おいで」と呼ばれた。何事か、と思えば客に提供するドリンクのコースターにメッセージを書いて欲しいという。
“今日も笑顔の一日を”
“Happy DAY”
サラッと読める良い言葉を書くのだそうだ。
客との距離感を縮めたいというのが狙いだと言うけれど、結局は、店長の人となりが反映された店作りをしたいのだろう。
「わかりました。でも、あまり字は上手でも綺麗でもないですよ?」
「いやいや、いいんだ。それにね、きみの字は丸っこくて愛嬌があるのが良いんだよ」
* * *
客足はそんなに多くない。
チェーン店が並ぶ界隈での老店舗だ。
自然とメッセージを書く回数は少なく丁寧なものとなる。常連客と笑顔を交わす機会もぐんと増えた。
そんな折、若いのにチェーン店を好まず老店舗を好む青年が声をかけて来た。いつも仕事の合間に珈琲を嗜んでいる常連客だ。
「兄さん。悪いが17時ちょうどに来る女子高生にこのメッセージを書いてもらえるか?」
渡してもらった紙を見て笑う。
随分と長い、数学の数式だった。
答えの導きまで丁寧に書かれた後に、追加で『苦手ならブレンドじゃなくてカプチーノにしろ。チョコレートパウダーのトッピング』と締め括っていた。
「かしこまりました」
この青年の注文はいつも“ブレンドコーヒー”
砂糖もミルクも好まず、好きな豆のブレンドで香りと深みと苦味を愛しんでいる。
ふと思う。
この青年は難問に気付いているだろうか。
17時に全速力で走って来る女子高生は珈琲を苦手としている。勉強もそのようだ。けれど、彼の隣席を確保し、彼の顔を眺め、どれほどに満ち足りた顔をしていることか。
* * *
今日は16時50分に青年は会社へと戻って行った。会議があるのだそうだ。
17時ちょうどに女子高生が走って到着する。
青年の姿がない事に落胆したが、テーブルに置かれたカプチーノとコースターのメッセージを見て弾むように破顔した。
店の看板猫の“わたあめ”が「ニャーゴ」とひと欠伸したので、よしよしと撫でた。
-fin-
“今日も笑顔の一日を”
“Happy DAY”
サラッと読める良い言葉を書くのだそうだ。
客との距離感を縮めたいというのが狙いだと言うけれど、結局は、店長の人となりが反映された店作りをしたいのだろう。
「わかりました。でも、あまり字は上手でも綺麗でもないですよ?」
「いやいや、いいんだ。それにね、きみの字は丸っこくて愛嬌があるのが良いんだよ」
* * *
客足はそんなに多くない。
チェーン店が並ぶ界隈での老店舗だ。
自然とメッセージを書く回数は少なく丁寧なものとなる。常連客と笑顔を交わす機会もぐんと増えた。
そんな折、若いのにチェーン店を好まず老店舗を好む青年が声をかけて来た。いつも仕事の合間に珈琲を嗜んでいる常連客だ。
「兄さん。悪いが17時ちょうどに来る女子高生にこのメッセージを書いてもらえるか?」
渡してもらった紙を見て笑う。
随分と長い、数学の数式だった。
答えの導きまで丁寧に書かれた後に、追加で『苦手ならブレンドじゃなくてカプチーノにしろ。チョコレートパウダーのトッピング』と締め括っていた。
「かしこまりました」
この青年の注文はいつも“ブレンドコーヒー”
砂糖もミルクも好まず、好きな豆のブレンドで香りと深みと苦味を愛しんでいる。
ふと思う。
この青年は難問に気付いているだろうか。
17時に全速力で走って来る女子高生は珈琲を苦手としている。勉強もそのようだ。けれど、彼の隣席を確保し、彼の顔を眺め、どれほどに満ち足りた顔をしていることか。
* * *
今日は16時50分に青年は会社へと戻って行った。会議があるのだそうだ。
17時ちょうどに女子高生が走って到着する。
青年の姿がない事に落胆したが、テーブルに置かれたカプチーノとコースターのメッセージを見て弾むように破顔した。
店の看板猫の“わたあめ”が「ニャーゴ」とひと欠伸したので、よしよしと撫でた。
-fin-
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる