イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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12 『想いの矛先』の書

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『身近な公園に魔物の襲来があった』
この事件は、世界に強い衝撃をもたらした。

魔物の狙いは"勇者"であり"害となる力"を排除すること。
襲撃された側の世界も"害となる魔物を排除する勇者"が護るべき対象だ。
両者は否応なく透明なイコールで繋がっている。
その透明なイコールが隔てる壁となり互いの距離が縮まることはなかったが、今回の事件は、その認識を覆えす結果となった。
両者は互いにを意識する。

* * *

物々しい空気が街を包んでいた。
行き交う戦闘院の兵士、各所に佇む警備士に自ずと視線が向く。
"転生者"未来を抱いて歩いていると、百発百中、すれ違う兵士や警備士に「お気を付けて」と声を掛けられる状況だった。

"転生者"は"勇者候補"だ。世界を委ねる『将来の盾』…当然ながら失うわけにはいかない、誰もが擁護する。
また、その『将来の盾』を召喚する召喚士も同等な扱いを受ける。世界を護るための"道具"なのだから大切に扱わねばならないと。

"道具"

そう言われて眉を寄せる者も多いが、悲観的に思う事はない。私はそう考える。
誰かの"道具"だろうが何だろうが、それが自身にとって"かけがえのない結果"に繋がっていれば何も言う事はないのだ。

封鎖された公園の前で足を止めた。
魔物達に襲われたという転生者と召喚士達、彼らこそ悲観してこの世を去ったのではなかろうか。
先に待つ"かけがえのない結果"が突然の終止符。居た堪れない。

「あなたの転生者は何ヶ月ですかな?」

後方から声を掛けられた。振り返ると、老夫婦が供花を手に立っていた。

「私の転生者はあと数日で2ヶ月だ。発育に遅れがあるので幼く見えるだろうが」

未来の指が私のローブをギュッと握っては離して遊ぶ。

「奇遇ですな、うちの娘が召喚した転生者と同じ月齢だ。短い生涯だった…」
「ごめんなさいね。ほら、あなた、見ず知らずの方を困らせてはダメですよ」

二人は公園の入口に設置された献花台に供花を置いた。事件の遺族だ。

「うちの娘は魔法の才のない召喚士だった。家の世襲で嫌々ながらも召喚士になって、やっと覚えた召喚術は相性が悪く娘の身体を蝕んだ。転生者を召喚したあとも生死の境を彷徨ってなぁ…」

誰かに聞いて欲しいというより供えたいのだろう、言の葉を。

「召喚術は人の子を産むより死の確率は高い。転生者を召喚する事も奇跡に近い確率だ」

私は経験者。肯定する言葉を添えた。

術は術者の身体を媒体として魔力を吸う。術の威力が高ければ高いほど、身体は酷使され蝕まれていくのだ。

「全くその通りだよ。娘は召喚術が成功するまで苦労した。成功しても苦しんだ。転生者が召喚されたのは奇跡。そんな奇跡や、娘の努力も我慢も瞬く間に消されて…あぁ、娘と転生者は幸せだったのか…!」

言葉尻は絶望に溶けていく。
私にそれを止める術は持ち合わせていない。苦しみか幸せか、この世を去った者だけが知り得ることだ。

「老夫殿。公園に訪れる召喚士と転生者の目的をご存知だろうか。転生者や他者との関わりを深め『コミュニティー』と『視野を広げる』こと。苦行とは掛け離れた目的だ」

唯一理解していることを話した。
"転生者"を想い、『楽しい』を共有し、育成しようと公園に来るのだ。
老夫婦の娘達も、死の直前まで満ち足りた時間を過ごしていたのではないか?…憶測だが。

「あーうー」

ほんの少し表情を見せ始めた未来が老夫婦を見つめると、彼らは目尻に涙を残しながらも微笑んだ。

別れを告げて帰路に着く。

小さな"勇者候補"に携わると一日の経過がとても早く感じる。一分一秒の日常の変化が忙しく、後悔に割く時間すら与えてくれないのだ。

事件で亡くなった召喚士らも、私も、命の赴くまま"転生者"を導く日々。

そうした日々の中で幸せを垣間見て充実する。近しい者が涙するくらいの苦しみと不幸のまっ正面に立とうとは思わない。
それが魔物と遭遇した瞬間であっても…。
冥福を、祈ろう。
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