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18『ジャッジメント』の書
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カカオ茶が程よい温度になり飲みやすくなる。弥勒は話を一通り聞き終えると一気に飲み干した。
困惑する思考を整理する。
"勇者"選抜最終試験は極秘裏。
勇者候補の能力が異常値だった場合、処置は適切なのか不適切なのか。
魔物達の危険性を度外視した試験内容の、痛恨のミス。
生き残りは、試験対象の二人だけ。
極め付けは、公式書類には無記載の事故…。
『正しい』と"世界判断士"の自身が思える判断材料がどこにも見当たらなかった。
証拠も確証もない。だから加護の話が本当か嘘か、それすら決められない。
深い溜息を吐く。
「うぅぅ。ふぁ…うわぁぁぁん!」
「お腹が空いて起きてしまったようだ。弥勒様、少し席を外すよ」
「いいよー気にしないで♡わたしも職場に戻るから」
「そうか。では、次に来訪した時には少し冷ましたカカオ茶を用意するとしよう」
泣き出した転生者・未来に向かう"魔王かも?"と直感で思った召喚士。"胡散臭い"から逸脱した変化が弥勒の内心で起こっていた。
疑いの標的が、育成にあたふたする加護から変動する。
世界が必要と欲している"勇者"の有り様へ。
世界は"勇者"に本気で平和を護らせようとしているのだろうか。
選抜最終試験は下手すると"召喚士"は元より"勇者候補"も不幸な結果となっていた。
それを望んでる?
誰が為、何のために?
"勇者"を亡き者にしたら、活発に動き始めた魔物や何処かに潜む"魔王"の蹂躙が始まる。
「そんなものを求めているの?」
『正しい』を追求しようとすると、重ねるように不穏な『歪み』を視る。
見て見ぬ振りを強要されている気分になる。
ゾッと寒気が疾った。判断士は『正しく』物事を判断するのが仕事、そんなことは全身が許さない。
「うわわぁ!晴れてたから油断したよね」
加護の自宅から離れて5分。
ピンク色の傘を置いて来てしまったことに気づいた弥勒は足を止めた。すると、
「これは貴女の忘れ物?」
振り返る先に、隻眼隻腕の男がピンク色の傘を手に立っていた。見た目の年齢は不詳、指に宮廷魔術士の証である指輪…。それとなく雰囲気が加護に似ているのも不思議だ。
「ちょうど取りに戻らなきゃって思ってたの。ありがとう。召喚士の、木蓮様…?」
「元召喚士だね。そうか、僕の"転生者"に面白い虫が纏まりついてるみたいだったけれど…それは貴女?加護に話を聞いているみたいだ」
「ん~面白い虫は職場の同期だけど♡」
傘を受け取る。
世界判断士としても個人的にも、この人には興味があった。
「そうだわ、木蓮様。世界に全財産を支払うくらいの高額を出してまで、加護を"奴隷"として引き取る意味と価値はあったの?
"転生者"に"勇者"の付加価値がなかったらただのゴミでしょ、世界から見捨てるのが世の道理だわ」
木蓮は怒るでもなく「まぁそうだよね」何気なく世間話をする風情。
「貴女は、加護をただのゴミだと思うかい?…僕には思えないな。付加価値を付けるとするなら、自身が召喚した"転生者"は『溺愛の対象』だからね」
揺るがない『当たり前』を目にして弥勒は声を出して笑った。
「やだ、最強に馬鹿な人だわ♡」
「"召喚士"は馬鹿じゃないとね。最高の褒め言葉だよ。人生の大半くらいは"転生者"に捧げる生き物でいい」
それじゃ、また。
軽く会釈をして二人は別れた。
「わたしも人生の大半は『正しい』に捧げる判断士でありたいのだけどね」
不穏に思える歪みが視えるなら、判断材料は多い方がいい。
召喚士・加護と、加護が召喚した"転生者"の動向は、これからもずっと見守る必要があるだろう。
弥勒は澄み切った直感と思考で、そう判断した。
困惑する思考を整理する。
"勇者"選抜最終試験は極秘裏。
勇者候補の能力が異常値だった場合、処置は適切なのか不適切なのか。
魔物達の危険性を度外視した試験内容の、痛恨のミス。
生き残りは、試験対象の二人だけ。
極め付けは、公式書類には無記載の事故…。
『正しい』と"世界判断士"の自身が思える判断材料がどこにも見当たらなかった。
証拠も確証もない。だから加護の話が本当か嘘か、それすら決められない。
深い溜息を吐く。
「うぅぅ。ふぁ…うわぁぁぁん!」
「お腹が空いて起きてしまったようだ。弥勒様、少し席を外すよ」
「いいよー気にしないで♡わたしも職場に戻るから」
「そうか。では、次に来訪した時には少し冷ましたカカオ茶を用意するとしよう」
泣き出した転生者・未来に向かう"魔王かも?"と直感で思った召喚士。"胡散臭い"から逸脱した変化が弥勒の内心で起こっていた。
疑いの標的が、育成にあたふたする加護から変動する。
世界が必要と欲している"勇者"の有り様へ。
世界は"勇者"に本気で平和を護らせようとしているのだろうか。
選抜最終試験は下手すると"召喚士"は元より"勇者候補"も不幸な結果となっていた。
それを望んでる?
誰が為、何のために?
"勇者"を亡き者にしたら、活発に動き始めた魔物や何処かに潜む"魔王"の蹂躙が始まる。
「そんなものを求めているの?」
『正しい』を追求しようとすると、重ねるように不穏な『歪み』を視る。
見て見ぬ振りを強要されている気分になる。
ゾッと寒気が疾った。判断士は『正しく』物事を判断するのが仕事、そんなことは全身が許さない。
「うわわぁ!晴れてたから油断したよね」
加護の自宅から離れて5分。
ピンク色の傘を置いて来てしまったことに気づいた弥勒は足を止めた。すると、
「これは貴女の忘れ物?」
振り返る先に、隻眼隻腕の男がピンク色の傘を手に立っていた。見た目の年齢は不詳、指に宮廷魔術士の証である指輪…。それとなく雰囲気が加護に似ているのも不思議だ。
「ちょうど取りに戻らなきゃって思ってたの。ありがとう。召喚士の、木蓮様…?」
「元召喚士だね。そうか、僕の"転生者"に面白い虫が纏まりついてるみたいだったけれど…それは貴女?加護に話を聞いているみたいだ」
「ん~面白い虫は職場の同期だけど♡」
傘を受け取る。
世界判断士としても個人的にも、この人には興味があった。
「そうだわ、木蓮様。世界に全財産を支払うくらいの高額を出してまで、加護を"奴隷"として引き取る意味と価値はあったの?
"転生者"に"勇者"の付加価値がなかったらただのゴミでしょ、世界から見捨てるのが世の道理だわ」
木蓮は怒るでもなく「まぁそうだよね」何気なく世間話をする風情。
「貴女は、加護をただのゴミだと思うかい?…僕には思えないな。付加価値を付けるとするなら、自身が召喚した"転生者"は『溺愛の対象』だからね」
揺るがない『当たり前』を目にして弥勒は声を出して笑った。
「やだ、最強に馬鹿な人だわ♡」
「"召喚士"は馬鹿じゃないとね。最高の褒め言葉だよ。人生の大半くらいは"転生者"に捧げる生き物でいい」
それじゃ、また。
軽く会釈をして二人は別れた。
「わたしも人生の大半は『正しい』に捧げる判断士でありたいのだけどね」
不穏に思える歪みが視えるなら、判断材料は多い方がいい。
召喚士・加護と、加護が召喚した"転生者"の動向は、これからもずっと見守る必要があるだろう。
弥勒は澄み切った直感と思考で、そう判断した。
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