イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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34『ナンバータグに結ぶ絆』の書

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白光の靄の中で少女が意識を失い男達に攫われて行く。

部屋に残されたアンクレット…
真っ二つに切れた『ナンバータグ』は、人身売買に不要だと落とされた。それが、事のあらましで成り行きというわけだ。

魔法の持続時間が終わる。靄がサァッと散らばった。

「つまり。この少女は、私の召喚した"転生者"と間違えられて攫われたのか」
「んー。偶然にも不運、そんな感じでしたねぇ。おまけにドンピシャで勘も当たりまして、申し分なく"勇者候補"神隠し事件の証拠現場っす」

3日分の食事が盗まれた事実よりも愕然とした。
窓の閉め忘れも大変なショックだが、自身が対応していたら、少女も、少女の背後にいる"召喚士"も危険に晒されることはなかったのだ。

「保存容器が空となって転がっていても、泥棒を諌めるどころか謝りたい気持ちになった。…私の不手際だな」
「えー!?これって偶然の事故!大丈夫っすよ、加護様。先の『時遡りの魔法』で疑いを掛けてた男が一人映ってましたし。オレ、今から後を追ってみますから~」

トンッと胸を叩く千手。その手を掴む。

「私も同行して良いか?」
「デートのお誘いっすか♡」
「そうじゃない」
「くぅ~!否定がめっちゃ速い、悲しい、泣けるぅ」

苦笑して首を横に振る。
真っ二つに切られた『ナンバータグ』を手のひらに乗せた。

「これはこんな風に無造作に放置されていいものではない。"転生者"と"召喚士"を結ぶ絆だと思っているから」

自身の足首にはそれはもう無いけれど。
耳朶の黒曜石がその代わりだと主人木蓮様は絆を結び直した。
この世界の支えになるものだ。
少女も、いつか気付く時が来る。
3時間の制限で後悔する前に急がなくては。

「すぐにでも届けに行きたい。少女の"召喚士"も大丈夫だろうか。気掛かりだ…」

床に座っていた未来が、四つん這いからゆっくり立ち上がる。頼りないが力強くもある一歩をドアに向けた。
召喚してから9ヶ月。私の"勇者候補"は思うがまま自発的に育っていく。

「了解っす。それじゃあ任せて下さいねぇ。すぐにでも泥棒ちゃんを迎えに行きましょうか~」
「千手様には感謝ばかりだな」
「ご褒美は約束ですよ?」

耳元で「未来ちゃんと同等のキスくらいはお願いしゃす」と囁かれ、口元をポンポン叩いていた。それが褒美?首を傾げるところだ。

「今度こそ施錠を確実にして出掛けよう」
「…あー。窓の閉め忘れが、そんなにもショックだったんすねぇ」

ショックというか。
千手に、度重なるみっともない一面を見られていることが面映いのだ。
頬が少し、感情の熱を放出していた。
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