イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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47『鉄靴の奏』の書

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カツカツ…
鉄靴が歩幅に合わせて音を立てる。聞こえる強弱は距離を表す。ピタリ、音が止まると威丈高に低音の声が頭上からした。

「宮廷魔術士・木蓮の所有物だった奴隷は貴様だな」

未来を背中で隠す。危険な空気は肌でも感知した。

「木蓮様は私の主人に違いないが。宮廷騎士殿は私に御用か?」
と今後は訂正するべきだな。木蓮は死んだ。新たな主人が貴様を求めている。…迎えに来た」
「…ッ!!」

グイッと耳朶を引っ張られ、皮膚ごと黒曜石のピアスが抜かれた。生温い血の感触が頬から首筋に這う。

「木蓮様が亡くなった?」
「二度も言わせるな」
「…ッ」

宮廷騎士の男は顔を近づけると、もう片方の耳朶に痛みを刺した。

「俺と揃いのピアスは主人からの贈り物だ」

口角を上げ、耳朶からの流血を指で掬うと「似合ってるじゃないか」舌で吟味して嗤う。

「紫苑様、全焼の確認が済みましたが」
「塵も残さず片付けろ。この家屋は、罪人が魔力飽和の防護魔法まで多種使用し危う気なものを秘匿していた場所だ」
「ハッ」

部下に程よく指示を出した男の氷の様な視線は小さな"転生者"に向く。

「足枷は面倒だ。この娘も殺すか」

鞘から迷いもなく剣を取り出すのを見て、私は印を組み魔法の詠唱を口走る…が、男はそれを許さない。印を組む両手に剣を走らせた。避けた拍子に魔法は消失。男は腕を翻し、未来に剣先を閃かせた。

キィィィン

横合いから飛んできた剣に、宮廷騎士の剣は標的を瞬時に変える。

「戦闘院の紋様か」

地面に突き刺さった剣の柄に男は舌打ちする。その柄をガッと握った大きな手、筋肉のしなり、大柄な背中に深紫の外套を纏った巨漢の戦闘院院長、不知火シラヌイはニッと不敵に応えた。

「偉そうな面構えは宮廷騎士か。人畜無害な"転生者"に刃を向けて何してる?」
「…邪魔立てを。足枷を外そうとしただけだ。俺はこの奴隷の男が目的であり陛下のご意向である!」

不知火は優しく包むように未来を抱えると、私に訊いた。

「…加護殿、よく聞け。木蓮殿から貴殿を護るように頼まれている。どうする?俺に護られるか、それとも自身で護る側に立つか…此処で選べ!」

煤の臭いが風に舞った。

幼少期の"転生者"だった頃、勇者選抜最終試験で主人の危機に直面した。結果、暴走した。それは護られる側の甘えと弱さだった。

…今は、どうだ?

提示されたのは二択の選択だが私の中では一択。愛着ばかり増える世界で、暴走する弱さなど微塵もない。

「不知火教師、未来を任せても構わないか?」
「構わん。そこに何の問題がある?」
「感謝する。私は宮廷騎士殿に同行しよう。状況を確認した後、今後を…考える」
「よし、いい返事だ!それとな、これは本人に届けてくれ」

ポイッと投げられた指輪を掌に握った。誰の指輪か、問うまでもなく知っている。
「承知した」応えた私の腕を、冷徹な宮廷騎士の男は無遠慮に引っ張った。
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