イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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48『イヤイヤで反抗は』の書

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任務は終わったとばかりに宮廷騎士団は撤収した。召喚士を失った"転生者"と教え子を失った"教師"は静けさの中にポツンと置かれる。

ポカポカッポカポカッ

頭をポカポカ叩かれながら、不知火シラヌイは今しがた預かり保育となったばかりの未来に視線を向けた。

ポカポカッポカポカッ

痛くも痒くもない小さな手のゲンコツは続く。
ふっくらしたピンク色の頬は思いっきりむくれていた。
よいしょっと苦笑いひとつ、肩に乗っけ直す。

「イヤイヤ期か?反抗期か?どれもこれも育成者泣かせの年頃ってヤツだな!」
「ケーキつくるっていってたのに、あるじ、いないっ」
「そりゃ正しいイヤイヤで反抗だ」

地面に置かれていた紙袋は、宮廷騎士達の往来で横たわり中身が溢れ落ちていた。
丁寧に拾い直しながら不知火は全焼した家屋に嘆息する。

「作る予定は『苺のケーキ』か。約束した主人に文句でも言いに行くか?」
「"やくそく"」

繰り返した言葉は不可思議なトリガー?
耳から脳へと届き、何かが外れた。
スゥゥゥと未来の瞳が青白く紋様を映し出していく。


『そうだよ…約束をした。ボクから言い出したこと』
『ほら、駄々っ子はやめよう?大切な人が居ないなら見つけに行けばいいだけ』

…語りかける声は、未来だけに。

未来の中で動き出す。
前世の"ボク"が、外れた歯車を元通りにした。


痛くも痒くもないゲンコツが止まる。
むくれていた頬も静まる。

イヤイヤも反抗も成長を急がせた…結果、
『覚醒』を呼び起こした。

「未来はせっかちだな。成長を追えなかったと加護殿が泣くぞ?」

"転生者"の過程に知識もあり思慮深くもある不知火は、即座に異変に気付いた。

* * *

"半分だけ魔王"

魔物は『人とは異なる形状』が身体の特徴として顕著に出る。
恐らくは魔王の血脈が成せた奇跡。

"お前を助けたいな。でもボクは**だから…それは絶対に許されない。ここでお前を殺すのは殺すためじゃない。生かすために…殺すんだ"

"どうか転生者になって異世界に行ってよ!見知らぬ場所で会おう。ボクもその先で待っている…ううん、きっとお前に会いに行くから"

転生して一年で一才。身体の成長や前世の記憶との邂逅は早い段階。
でもそれは、想いが成せた奇跡。

* * *

未来の背に黒々とした羽根がバサッと生えた。銀にも金にもなる髪は長く伸びて煌びやかに舞う。
幼い形ではあるが、紋様を映す瞳は運命を受け入れた"転生者"の成長を伴っていた。

「一体…。加護殿は"勇者候補"じゃなく何者を育てたんだ?」

不知火は半ば呆れたように肩に腰掛ける未来と立ち去ったばかりの加護に問うた。
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