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49『覚醒×覚醒』の書
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はにかむ転生者が成長を遂げた。この場合の『遂げた』は、身体の成長と前世の記憶を取り戻したことを表す。
大体はこの段階で、正真正銘の"勇者"もしくは"魔王"なのかは本人には理解とも言われているが…
黙秘する転生者はとても多い。
この世界に置いて、転生者の身分は不安定で儚いものだからだ。
「ボクが何者…?答えは簡単なんだと思う。大切で幸せになって欲しい人が優しい世界に存在しているのか、それだけを確かめに来た"転生者"。
だけど"半分だけ魔王"だったのは神様の采配かちょっとした意地悪か…主人に似たから?」
加護なら何と答えるだろう。
答えは重なる気がした。
「随分と"可愛い魔王"だ。"勇者候補"だろうと"魔王"だろうと構わんな」
禍々しい魔力や脅威的な敵対心、全てを統率し巻き込もうとする圧倒的な絶望感すらも目の前の小さな魔王にはなかった。
"もう半分の魔王"がそれを持っているとすれば、尚のこと、護りたいそう思う気持ちに傾くだろう。
「苺のケーキ、半分だけ魔王になってしまったけれど作ってくれるのかな?…主人と離れたくない。一緒にいたい。会いたい」
「…そうだな。俺は、作ってくれる方に賭けるぞ!
ではこうしよう!未来が"魔王"と言うならば世界機関の戦闘院の者としては放っておけない。可愛い我が儘に同行すると決めた!
あとな、"女の子"なんだから一人称は"わたし"にしたらどうだ?」
未来は口を尖らせた。
「"わたし"て言えるくらいの"女の子"になりたいとは思っていたよ…ずっと。"半分だけ魔王"だから今世でも無理かもしれないけれど。
今世でも前世でも、ボクは**…基本はたぶん同じ。いつも誰かの意見に流されて言い也、素直にもなれない"愚者"なんだ」
コツンッ
先の仕返し。不知火は"半分だけ魔王"の額を軽快に一度小突いた。
未来はふわりと地面に立ち、大柄で逞しい不知火を見上げる。
「未来が"女の子らしく"いられる世界にすればいいだけだ。其方の主人なら必ず手を貸してくれる。召喚士の責任だぞ」
大切な人が転生した世界の、優しさの一部が、目の前に立っていた。
"勇者"を担うこともなく"半分だけ魔王"を背負いながらでも"女の子"が大切な人と一緒にいられる、そんな『世界』に…?
想像はケーキみたいな甘さ。尖らせた口元は綻んだ。
* * *
力任せに乗せられた馬車の揺れに、黒曜石を失い血に塗れた耳朶が鈍い痛みを発していた。
首筋を通り、ローブの肩口にも広がった血の色は時間の経過を感じる。
傷ついたのは皮膚なのか心なのか。
「君と離れると、こんなにも寂しいのか」
いつも一緒が当たり前だった。
改めて、隣に小さな未来が居ないことに私は思いっきり動揺する。両手の軽さが虚しい。
寂しいと思う気持ちが、止まる事なく切なかった。
鈍臭い性分はそれに便乗していた。
だから、そう…。
自身の中にも既に起こっていた覚醒が、この時、未来と繋がり同調していたことにも全く気付かなかった。仕方がないとも言えた。
大体はこの段階で、正真正銘の"勇者"もしくは"魔王"なのかは本人には理解とも言われているが…
黙秘する転生者はとても多い。
この世界に置いて、転生者の身分は不安定で儚いものだからだ。
「ボクが何者…?答えは簡単なんだと思う。大切で幸せになって欲しい人が優しい世界に存在しているのか、それだけを確かめに来た"転生者"。
だけど"半分だけ魔王"だったのは神様の采配かちょっとした意地悪か…主人に似たから?」
加護なら何と答えるだろう。
答えは重なる気がした。
「随分と"可愛い魔王"だ。"勇者候補"だろうと"魔王"だろうと構わんな」
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"もう半分の魔王"がそれを持っているとすれば、尚のこと、護りたいそう思う気持ちに傾くだろう。
「苺のケーキ、半分だけ魔王になってしまったけれど作ってくれるのかな?…主人と離れたくない。一緒にいたい。会いたい」
「…そうだな。俺は、作ってくれる方に賭けるぞ!
ではこうしよう!未来が"魔王"と言うならば世界機関の戦闘院の者としては放っておけない。可愛い我が儘に同行すると決めた!
あとな、"女の子"なんだから一人称は"わたし"にしたらどうだ?」
未来は口を尖らせた。
「"わたし"て言えるくらいの"女の子"になりたいとは思っていたよ…ずっと。"半分だけ魔王"だから今世でも無理かもしれないけれど。
今世でも前世でも、ボクは**…基本はたぶん同じ。いつも誰かの意見に流されて言い也、素直にもなれない"愚者"なんだ」
コツンッ
先の仕返し。不知火は"半分だけ魔王"の額を軽快に一度小突いた。
未来はふわりと地面に立ち、大柄で逞しい不知火を見上げる。
「未来が"女の子らしく"いられる世界にすればいいだけだ。其方の主人なら必ず手を貸してくれる。召喚士の責任だぞ」
大切な人が転生した世界の、優しさの一部が、目の前に立っていた。
"勇者"を担うこともなく"半分だけ魔王"を背負いながらでも"女の子"が大切な人と一緒にいられる、そんな『世界』に…?
想像はケーキみたいな甘さ。尖らせた口元は綻んだ。
* * *
力任せに乗せられた馬車の揺れに、黒曜石を失い血に塗れた耳朶が鈍い痛みを発していた。
首筋を通り、ローブの肩口にも広がった血の色は時間の経過を感じる。
傷ついたのは皮膚なのか心なのか。
「君と離れると、こんなにも寂しいのか」
いつも一緒が当たり前だった。
改めて、隣に小さな未来が居ないことに私は思いっきり動揺する。両手の軽さが虚しい。
寂しいと思う気持ちが、止まる事なく切なかった。
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だから、そう…。
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