イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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51『世界を壊す道具』の書

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紫苑が握る剣はユラッと流れるように弧を描く。瞬間、疾る。
尖った切先は直視できない。視線をずらし、口早に詠唱と印を組んだ。
紫苑の剣は神速だが、難なく防護魔法で弾いていく。

「"世界を壊す道具"とは何だ?」
「あの女は"中身が魔王"だ。世界を壊すための"外面の魔王"を望んでいる。魔王を操り、膨大な魔力で全生命と世界そのものを消滅させるつもりだ」
「消滅?…何故」
「貴様が知ってどうする」

遠慮のない会話は至近距離、剣と魔法の中で繰り返す。

「思考材料だよ。如月様が望む世界を私が壊していいのか考えたい」

何度目かの剣戟を交わし"破壊"の付与魔法を紫苑の剣に施した。

パキィィィン…!

ユグドラシルの剣と同様に床に散る。同じで無いのは意志か魔法かの違い。

「如月様の望む世界は、理由は後付けにしても痛ましいものだ…。人の居ない世界は『空虚』。人は愛しい、何者も滅してはいけないよ」
「まるでユグドラシルの魔王みたいな話をほざくッ」

剣を失った…。信じられない思いで紫苑は距離を置いた。

「貴様がただの召喚士だと?ふざけるな。ひと時も魔力の衰えもなく、攻守組み合わせの魔法を自在に重ねられる芸当ができるものか」

圧倒的な力の差があった。
宮廷騎士の男に勝てる見込みはゼロに等しい。
戦意の消失を見て組んだ印を解いた。

「私はふざけてなどいない。扱う魔力は…そうだな、ユグドラシルの魔王だった頃の名残のようなものだ。しかし、それでも一介の召喚士」
「何…だと!?」

紫苑は驚愕に震えた。

「私は手を差し伸べてくれた人と約束を交わし、今世に来た"転生者"。
やり直しの人生で私は試されているのだと思う。護るべき先は何か、辿り着く安息は何処か。その為に存在している」

人が抱く喜怒哀楽は尊い…。
ローブの乱れを整えて"世界皇帝如月"に改めて視線を向けた。

「私を見定めたのか?"世界を壊す道具"と見做すなら、私は、如月様が導く世界の終着を壊そうと思う」

白くスラッとした指が私の頬に、そして紅水晶が刺された耳朶に触れる。

「どのように壊すのです?人は暴力と悲哀を好む醜く愚かな生き物、世界に不要だと貴方は思わないのですか?
…勘違いしてはいけません。わたくしは奴隷である貴方を躾けなくては」

歓喜でも落胆でもない無表情。人形の風体で如月が言葉を紡いだ時、

ドォォォォン!

激しい音と振動が世界の中枢を激しく揺さぶった。






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