イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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52『ローブに腕を』の書

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「キュ♪」
小さなひと鳴き。魔法生物のフェレットの頭を撫でると外に放った。役目を終えたフェレットは、これで術者の元に還る。

「ん~。弥勒ミロクちゃんの判断は外れないというか直感が冴えてるっつーか?流石っすねぇ。
加護様の身辺を根掘り葉掘り探っていた者と"魔力飽和"の防護が薄まっていたこと。こちらも十分に注視してましたが、や~っぱり宮廷が動いて加護様に手を出したそうですよ?」

世界調査士の千手センジュが目線で訊ねてみる先には、元召喚士で現在宮廷魔術士の木蓮モクレンが盛大にむくれていた。

「それにしても、木蓮様のローブ1着で簡単に罠に引っ掛かりましたねぇ」
「不愉快極まり無いよ。僕は、あの子には関わらせないで済ますつもりだったのに」
「こっそり独りで格好付けてばかりは損しますって。護りたい相手はご褒美のチュウ♡もくれなくなりますよぉ?程々がいいんです、程々がっ」

唇を嬉しそうにポンポン指で叩く千手に、木蓮は眉を顰める。

「そこの調査士、勘違いなら不問に処すけれど僕の加護にしたかい?」
「あ、そこは気にしない気にしない~」
「聴こえなかった?したかい?」
「んふふ。…て、死ぬ寸前だった人がえげつねぇ魔法使おうとしないで!やめて!」

印を組もうとした腕にしがみ付かれ、木蓮は口をへの字にした。

* * *

数刻前、水牢にたっぷりと水が溜まる寸前で水が抜けた。
世界調査士の千手がで宮廷に乗り込み、牢番まで手玉に取った挙句に水牢の栓と鍵を外した結果だったが、

酸欠になり意識が遠退く寸前で担ぎ上げられたことも
使える人材だと解ったことも
いつの間にか加護と仲良くなっていたことも

…どうにも面白くなかった。

薄手のシャツは、まだ少し湿る。
上着にしていた愛用のローブは『死亡』の証拠として主要箇所に届けられていた。
「加護様を手っ取り早く助ける方法ですがぁ…相手の出方を待った方が楽っす!」
それも千手の作戦だった。

案の定というか作戦は上手く回った。一言文句を言えるだけの準備が、あっという間に整ったのだ。

ヘラヘラ笑う余裕と有能さにヤキモチを焼いてしまっていた。木蓮は不愉快の理由を並べて吐息を漏らした。

* * *

「木蓮様~。はい、コレどうぞぉ♪」

ふと思い立って、千手は着ていたクロップド丈のローブを木蓮に羽織らせた。

「何なの?僕には必要ないけれど」
「必要ですって~。仲良くなるチャンスを無駄にはしたくないっつーか?ほら、加護様の"嫁"ですから…って、痛ぇ!!」

余裕のヘラヘラ顔をギュッと摘んでみた。
"嫁"という単語を連呼するのは有能なのか無能なのか計り知れない。だが、一瞬消えた『余裕』に木蓮の不愉快は消える。

「僕は全然聞いてないよ。…は、いつから加護の"嫁"なんだい?"姑"を僕に求めているようなら認めない。後でゆっくり攻略しにおいで」

渡したローブに腕を通す様子に、千手は目元を綻ばせた。

と、その時…。

ドォォォォン!と何かが破裂するような音と振動が、水牢が強固に置かれる塔を軽々と揺るがせた。

「まさか亀裂の崩壊?…おかしいね、まだ早い筈だけど」
「加護様の動向が気になるっす~!たまーに無理無茶がお好きだから」
「…あぁそうだね。よく見ているね、僕も心配だ。そろそろ参観とお迎えの時間にしよう」

木蓮はローブの内側に『奴隷所有者許可証』が丁寧に包まれているのを見て"有能な子は嫌いじゃないよ"と優しく受け取った。


二人は揃って動き出した。
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