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第1話・現実世界から異世界へ

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MMORPGで強くなる方法は、LV上げと強い装備を獲得するために、どれだけ時間を費やしたかが全てだ。
高校生だった俺は青春時代の使える時間を全て注いだ。そのおかげで名の知れた強者として有名になれた。
ただ、現実は残酷だ。

高校3年生の半ばにアップデートがあり、課金ガチャにどれだけお金をかけたかが強くなる方法になったことで、俺は弱者になった。
強者と呼ばれ、みんなから慕われる存在ではなくなってしまったのだ。

あれから10年、ゲームは見る専となりぼんやりとした人生を送っている。
仕事は当たり障りのない仕事内容と報酬、趣味もなく生きる意味も見いだせない状況。
これが灰色の人生と言うのだろうか。

そんなある日、友達がオススメだから一度やってみろと言われ、次世代ゲームであるVRMMORPG「TRUTH」を買ってみた。
友達いわく、VRMMORPGはお前が好きだったMMORPGの世界に入って冒険できる、最高のゲームだ!との事。
課金要素も強さに関係ないオシャレだけらしい。

今まで生きてきて、高校時代ほど最高だと思える時間は一度もない。
高校時代のような最高だった瞬間が戻ってくる可能性が少しでもあるなら、ハードに結構なお金を払っても安すぎるぐらいだろう。
買ってきたヘルメット状のハードを被り「TRUTH」を起動する。



ん?

なぜか辺り一面なにもない砂漠で一人立っている、もちろん人の姿など皆無。
俺が持っているものは・・・ポーチぐらい。中身はなにもなし。

ゲームスタート地点がいきなり砂漠って遭難ゲームかよ、普通は草原とか街だろ。

それも照り付ける日差しは強烈だ。顔から汗が滴りおちる。
とりあえず、街を探すとかだよな。
どっちにいけばいいか分からないけど、歩いていればなにか進展するだろ・・・

ひたすら歩き続けるがなにもない。尋常じゃなく暑い、ふらふらしてきた。
チュートリアルのチュの字もでてこない状況で叫ぶ。

「このゲームやべえ!クソゲーだろ!」

とりあえず一旦ログアウトして、攻略サイトを調べよう。このままでは死んでしまう。
今回、久しぶりにやるゲームという事もありノーデスプレイをテーマに掲げたいと思う。
そんなテーマを持ちながら、チュートリアルにも辿り着いていない状況で死んでたまるか!
ログアウトと頭の中で思ったら、システムが表示された。

「管理者権限がないためログアウトできません」

どういうことだよ!管理者権限なんてプレイヤーにないだろ!
ログアウト、ログアウト、ログアウト、ログアウト、ログアウト、ログアウトと念じ続けるが、

「管理者権限がないためログアウトできません」

だー!どうすりゃあいいんだ!
まずい、このバグから逃れる術がない。
運営がなにかしらやらかしたんだろうが、VRMMORPGは仮想現実に脳でアクセスしている。そのため現実へ戻るには、ログアウトしてゲームを終了する以外に方法はない。

どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・

砂漠のど真ん中で最悪なコンディションの中、なにもなくログアウトすることもできない。
八方ふさがりな状況で発狂しそうになりながら、頭を抱える。
どうやってこのゲームから現実に帰ればいいんだ、そればかり考えてしまう。

「そこの方」

見上げると、神々しい雰囲気で露出度の高いナイスバディな女神がいる。

「あなたは、TRUTH起動時のバグにより異世界へ転移してきました」

「・・・」

プロローグが進んだのかと、少しずつ冷静になってきて一息つく。
さっきのパニック姿を誰かに見られなくて本当によかったと思うことと、プロローグが進んだ事にホッとする。
よし!とりあえず気合をいれてログアウトできる状況までいこう。

「異世界で、ログアウトはできませんよ」

まあ、そういう設定なんだろうけどさ。
このなにもない砂漠から、どういう展開が訪れるのだろう?

「実は、砂漠へ来たのはイレギュラーなのです。
このままでは死んでしまいますので、駆け出し冒険者が集う街へ転移させていただきます」

突然、体が発光し魔法陣らしきものが地面に描かれた。
一瞬で景色が変わった、辺りを見渡すとヨーロッパのような街並みが広がる。遠くに大きな城もあり、とても綺麗な景色だ。

「あなたはこの世界で生きていくしかありません。不安かと思いますが、ご安心を。
あなたが大好きなファンタジーで、MMORPG風な世界観です。
今まで読んだ小説やアニメ、ゲーム知識を存分に駆使して第二の人生を楽しんでくださいね。
後、あなたがパニックや鬱にならないように思考制御とMP関連を加護として施しておきましたので。ではでは~」

しゃべる内容からしても、本当にクオリティが高いゲームだなぁと女神のほうを向くと誰もいなかった。なんか、鬱にならないようにとか、皮肉を言われた気がするけども。
とりあえず、ログアウトしてみるか。

「管理者権限でログアウトできません。」

はぁ、と溜息をつく。
これは、本当にゲームの世界じゃないのか?異世界とか言ってたけど。
うーん、まだ信じるには早い!
この展開は、いい年してファンタジーの世界があるなんて本当に思ってるのー?本当に痛いやつだね、プププとか言われるやつだ。恥ずかしすぎる!

気を取り直して先に進めてみよう。
ここは大通りらしき場所だからか、盾やら剣やら弓やら杖やら定番の武器を持った人たちがいっぱいいる。NPCじゃないプレイヤーがいるなら、あの砂漠と女神はプロローグなのかとか、皮肉を言える程AIは賢いのとか、ログアウトはいつになったらできるのとか、聞きたい事は山ほどある。
ただ、街行く人を観察しているが、NPCかプレイヤーかは判別できないらしい。
こうなったら声をかけるしかないと思うが、いきなりプレイヤーですか?と聞くのも怖い。そのうち意気投合するプレイヤーがあらわれると思うからいいか。

とりあえず行動だ!と言っても、チュートリアルもないんだよな。
うーん、MMOで最初にやることといえば・・・冒険者になることか。ということは冒険者ギルド?がどこにあるのかを聞くという展開だな。
初めて声をかけるのは緊張する。優しそうな冒険者っぽい女性に声をかけてみよう。

「すみません、冒険者ギルドはどこにありますか?」

「冒険者ギルド?冒険者協会の事かな、この通りを真っすぐいって、2つ目の通りを左に曲がって歩いて行くとつきますよ」

「助かりました、ありがとうございました」

初めての会話は成功だ、どうも冒険者協会というらしい。
あれがプレイヤーじゃなく、NPCが返答しているのだとしたら、本当にすごいゲームだと感心するな。
俺がやってたMMOの時代は、定形文しか返さないのがNPCだからな。

とりあえず教えてもらった通りに歩いていく、周りには上半身裸でムキムキの大剣を持ったおっさんとか、ローブを着て杖を持った女性とか冒険者らしき人がいっぱいいる。
それにしても、現実じゃないかと目を疑う人や建物の描写は最高だな。
このゲームをやれば、辛くてつまらない現実を忘れて全力で遊べそうだよ!最高だ!

「こういうのを待っていたんだよ!」

と声にだしてしまう。当然周りの人に変な目で見られる、恥ずかしい。
歩いて行くと、いかにもな外観の冒険者協会という看板が見える。
建物の中に入ってみると上半身裸で・・・のような人たちがいっぱいいる。
さてさて、まずは受付嬢に色々聞いてみよう。受付嬢は当然のように可愛いな。

「すみません、冒険者になりたいんですけど」

「はい、こちらで受付いたします。
まず、冒険者になるためには手数料として銀貨3枚が必要になります」

「ぐっ、お金が必要なのか・・・持ち合わせがないんですけど、手数料を稼げるような仕事を案内していただけたりはしますか?」

「手数料が支払えない方のために、ご用意しているシステムがございます。
一度、仮登録という形で冒険者協会に登録いただきます。仮登録状態ではFランクのクエストを受注できるようになりますのでクエストや素材の買取などで、毎日銅貨3枚以上をお支払いいただきます。銀貨1枚が銅貨10枚なので、銅貨30枚をお支払いいただければ、正式な冒険者として登録されます」

「了解しました」

「注意点としては、仮登録の状態では冒険者協会に属していないものとしてみなされます。くれぐれもご注意ください」

まだ冒険者協会に属していないから、なにがあっても自己責任ということだろうな。

「その点も、了解しました」

「それでは仮登録として、お名前を頂戴いたします」

名前か、俺がよくゲームで使ってた名前にしてみるか。
「ゼロです」

「ありがとうございます、ゼロさんですね。仮登録を致しました。
そちらの掲示板からFランククエストの張り紙を持ってきていただければ、クエストを受けることができます。ただ、初心者の方は十分クエスト内容を考慮してくださいますよう、よろしくお願い申し上げます」

左手を上げ受付嬢の方が案内してくれた掲示板の張り紙を見てみる。
モンスター退治はなにも分からない状況で受けるのは危ないし、ペット探しはこの街を知らない状況で不可能だろう。
お、薬草採取があるじゃないか、報酬は薬草1本につき銅貨3枚。
とりあえず受付嬢に詳細を聞いてみよう、張ってあった張り紙を持っていく。

「すみません。この依頼について伺いたいのですが、薬草がとれる場所はどの辺りにあるのでしょうか」

「冒険者協会には転移陣があります。
その転移陣から行ける、初心者の森が適しているでしょう。
ただ、初心者の森には低級ではございますが、モンスターがいますので十分注意してください」

頷きつつ、次の質問をする

「薬草というのは素人でも見分ける事が可能なのでしょうか」

「はい、ベテランの方たちは遠目から分かるそうですが、初心者の方でも薬草だと思われるものに近づいて目をこらすと、薬草かどうか見分けることができますよ」

おお、素晴らしいシステムがあるじゃないか。これなら採取できそうだし、弱そうなモンスターを倒せればLV上げも見込める!これだ!

「ではこのクエストを受けたいのですが」

「はい、受付いたします。あ、あと一点、初心者の森といえども奥に行けば行くほど強いモンスターが出現しますのでご注意ください」

「ありがとうございます、がんばります!」

受付の方が教えてくれた転移陣の場所の前には看板があり、初心者の森と書いてある。他にも転移陣はあるようだが、初心者はここからという事だろうな。
いってきます!と心の中で意気込みを入れて転移陣へ。
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