海辺で拾った宇宙人

あさいゆめ

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「オウ、走るぞ。」
「えぇー。」
 オウは早く動くのが苦手だ。
 早く動けない訳では無い。
 人間らしく動かすのが苦手なのだ。
 突然の雨に降られた買い物帰り。
 シャッターが降り、空き家になった商店の軒先を借りて雨宿りをする。
 こんな感じの豪雨はすぐにまた小雨に落ち着くからしばらく待つことにしよう。
 ここ数年、温暖化の影響だろうか、猛暑や豪雨災害のニュースばかりだ。
 地球もいよいよやばいのかも。
 激しく打ち付ける雨は軒下にいても足元に飛沫をあげてサンダルはびしょ濡れだ。スニーカーを履いてこなくてよかった。
 憂鬱な俺の隣のオウは、軒先から落ちる滝のような雨水に両手を差し出しニヤニヤしている。
「嬉しいのか?」
「うん。」
 オウの母星は水が少ないんだったな。
「地球はすばらしい。加工しなくても水が空から降ってくる。」
「でも不純物とか含まれているんじゃないか?」
「水道水の塩素より少ない。」
 そうなんだ。
「初めて地球に来た夜、雨を浴びて歓喜した。こんなにキレイな水が無限に空から降ってくるなんて信じられなかった。思わず走り回ったくらいだ。」
 へぇ、あの夜一人で走り回ってたのか。
 初めてオウに会った日。
 何者かもわからない得体の知れない生き物を実家に連れ帰った夜だ。
 しばらくすると予想通り小雨になった。
 どうせもう足元はぐちょぐちょだ。少しくらい濡れてやもいいから歩こう。
 天を仰いで雨を受けるオウは、まるで物語のワンシーンのように様になる。
「オウ。」
 日が差す反対を指差す。
「虹だね。」
「ああ。」
「地球は素晴らしい。」
 ああ、まだまだ捨てたもんじゃない。
 正直環境問題など興味は無かった。ただ回りに合わせて非難されない程度に理解を示す程度だった。
 けれどオウの星を聞かされると自分達がどれほど恵まれた環境にいたかを知る。
 まあ俺なんかが一人で出来る環境保護なんてたかが知れているけど、こういうのも一人一人が意識すればなんか変わるんだろう。
 アパートにつく。
 ずぶ濡れの俺に対して、髪までサラサラなオウ。
「どうなってんだ?」
「余分な水は足裏から排出する。」
 便利だな。
「トーマ、抱かせて。」
「アホか。」
 ここはまだアパートの廊下だ。
「もーう。」
 後ろから抱きつき体じゅうまさぐる。
「やめれ、バカ!」
 髪をくしゃくしゃするとすぐにサラサラに。
「…吸水性抜群だな。」
 どうやら俺の体に着いた水分を吸いとってくれたようだが、
「キャッ、すいません!」
「いえ…こちらこそ。」
 また隣の住人に見られた。
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