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「ローズマリー、サラをちょっと借りていってもいいかな?」 
 ローズマリーは母さんの事。
 サラはあたしだ。
 母さんもあたしも髪は薄いクリーム色であたしの目は金茶だ。
 母さんの目は紫を白く濁した色をしている。
 気持ち悪いと言う人もいるけれど、あたしは綺麗だと思う。
 あたしを呼びに来たのは旦那様だ。
「なんでしょうか?」
「今ね、サミュエルの婚約者の娘が来ているんだ。君と同じ年だから仲良くなれるといいと思ってね。」
「それでわざわざ旦那様がお迎えにきて下さったのですか?」
「サミュエルもちょっと元気になっただろ?しばらく二人きりで話しでもさせてあげようかと、席を外したんだよ。」
 気を使ってあげたわけだ。
 坊っちゃまが元気になられて旦那様は本当に嬉しそうだ。元気ってもまだ部屋からは出られないんだけどね。長い間寝たきりだったから身体中の筋肉が衰えてるから。こればっかりは魔法じゃどうしようもないからね。
 でももしかして部屋の中でイチャイチャタイムを満喫中だとあれだから、静かに様子を伺うと、
「私、お別れを言いにまいりましたの。
 近々、父から正式に申し渡しがあると思いますけど、仮にも婚約者でしたからね、挨拶くらいはと。
 もう長くはないのでしょう?
 かわいそうだけど、私の人生にあなたの出番はないの。
 さようなら。」
 なんてひどい!
 怒鳴りこんでやろうかと思ったあたしの口を旦那様がふさいで止めた。
「僕は死ぬって事?」
「ええ、残念だけど。
 今のうちにやり残した事をなさったほうがいいわ。
 もっとも、そんな身体じゃ出来る事もたかがしれているでしょうけど。
 誤解しないで。意地悪で言っているんじゃないのよ。
 せめて悔いのないようにって思ったのよ。」
「…そう。」
「では帰るわ。ごきげんよう。」
 令嬢がドアに向かって歩いてきたからあたし達は慌ててカーテンの影に隠れた。隙間から覗き見ると、黒髪にアメジストの瞳。
 ヴァイオレット?
 サミュエル坊っちゃまの婚約者ってヴァイオレットだったの?
 予定ではこの先坊っちゃまは死んでしまうから、その後にエディと婚約したって事?
 今はエディと婚約するために坊っちゃまにあんなひどい事言ったの?
 どうせエディと婚約したってエディの事バカにして蔑ろにしてたくせに!なんで?なんのためにあたしの大事な人を二人も傷つけるの?
「サラ、泣かないで。」
 口をふさいだ旦那様の手が涙と鼻水でとんでもない惨状に。
 旦那様は優しくハンカチで拭いてくれた。
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