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 侯爵邸での生活は快適。
 生活に必要なものは支給されるし、何よりご飯の心配をしなくていいなんて。
 使用人の皆は食堂で食べるけど、あたし達はもらってきて小屋で食べる。
 毎食作らなくてよくってしかもおいしいなんて、それだけで幸せ。
 侯爵邸の使用人達も最初は敬遠ぎみだったけど、庭師のトーマスさんの怪我を治したのをきっかけにポツリポツリと治療小屋を訪れてくれるようになった。
 胡散臭く見ている人もいるけれど、だいたいはいい人ばかりだ。ここには歩いているだけで石を投げる人はいないもんね。
 坊っちゃまを治癒する時はあたしが手を引いてお部屋まで連れて行く。治癒するのはあたしなんだけど、カモフラージュの為に。
 坊っちゃまの名前はサミュエル。
 旦那様はリュドヴィックってんだって。
 初めて会った日は緊張しててよく見なかったけど、シルバーの髪に明るいブルーの瞳をしたステキな方だ。
 坊っちゃまだって同じ髪と目の色だから、今にきっと旦那様に似た男前になるはず。
 今はまだガリガリで顔色も悪いけど。
 身体を起こす事も出来るようになったし、ご飯も食べれるようになった。
 坊っちゃまはあたしの二歳年上。今は10歳だ。
 でも病気のせいであたしよりも身体は小さい。
 いつも治療が終わると「ありがとう。」と、笑ってくれる。
 キュンとする。
 かわいい!
 ああ、あたしにはエディって人がいるっていうのにキュンキュンする!
 そう、わかっている!あたしはダメな子が好きなんだ。
 ちょっとバカな子とか守ってあげたくなる子とか。
 治療の際にはサミュエル坊っちゃまの身体を触らなきゃならないんだけど、これがまたいいっ!
 恥ずかしそうに横たわり、お腹を触るとちょっとくすぐったいのか身体をよじる。
 ハァハァハァ…。
 ヤバい。
 お姉さんいけない事しちゃいそうだよ。
「コホンッ…終わりました。」
「ありがとう。」
 ううっ、邪なあたしには勿体無い笑顔。
「治療はもう、毎日じゃなくても大丈夫だと思います。」
 旦那様は、いつも治療に付き添ってくださる。
「そうか、ありがとう。
 君にはなんとお礼を言っていいか。」
「そんな、お礼を言わなきゃいけないのはあたし達母子ですよ。」
 奥様はお亡くなりになられたそうだ。
 旦那様も看病の疲れか、いつもあまり顔色がよくない。
「あの…旦那様、差し支えなければ手を握ってもよろしいですか?」
「ああ、かまわないが?」
 あたしは治癒の他にも回復もできる。
「あっ…ああっ、なんだ?温かくて気持ちいいのだが?」
 やだ、旦那ったらいい声。
「回復魔法です。母さんも出来るので疲れたら治療小屋に来ていただければいつでも、して差し上げられます。」
 こんなふうにあたし達母子は新しい環境でいい男を眺めながら幸せな日々を過ごす事ができるようになった。
 
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