上 下
4 / 71

4

しおりを挟む
 目を瞑り、手でお腹を触る。
 あった、黒いもやのような物。
 だけど一つじゃない。
 小さいけれど何ヵ所もある。
 大変だけど、一つ一つ神聖力をぶつけて消していく。
 粗方消し終わるとご子息の呼吸は楽になったようで、ぜいぜい言ってたのがすーすーに変わった。
 様子でわかったのか侯爵が、
「お…お、何という事だ。
 君は天使か?」
 いや誉めすぎ。
「まだ完全ではございません。
 それに、この病は治ったように見えて、放っておくとまたひどくなります。」
 母さんが治している人がそうだった。
 定期的に治療しないとまた黒いもやが増える。
「それでは、しばらく治療に通って…いや、滞在してもらえないだろうか?
 もちろん謝礼も満足できるだけ支払おう。」
 母さんを見ると頷いた。
 実はもうお願いする事は決まっていた。
「謝礼はいりません。
 そのかわりお願いがあるのです。
 人払いをしていただけますか?」
 侯爵とベッドで寝ているご子息を残して使用人達は下がった。
 あたしは侯爵に背中をむけて、シャツのボタンをはずし始めた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。」
「ご心配なく、侯爵様を誘惑出来るとは思ってませんから。」
 背中の証を見せた。
「これはっ!」
「そうなのです。
 聖女の証です。」
「しかも三重紋?」
 聖女の証はユリの花を象って、まわりに円を描く。
 通常は一重。
 二重は神聖女。
 三重はおそらく確認はとれていない。
 前回は普通に一重だったのに、なぜか今回は聞いた事もない三重に変わっていた。
 母さんが説明をする。
「私達母子はノーラン子爵家から追い出された、先代子爵の愛人と庶子でございます。
 娘に証があるとわかれば子爵は娘を神殿に売るでしょう。
 恥ずかしながら私はこのような不自由な身体でございます。
 娘と引きはなされれば、生きてはいけません。
 侯爵様に、形だけでかまいません。どうか後見人になっていただけませんか?」
 後見人とはあらゆる分野で才能のある人の経済的援助や、保護をする人の事。
 まあ、ていよく愛人を囲う言い訳にも使われるけど。
 そういうことならと、侯爵は快く引き受けてくれた。
 母さんをだしに使ったけれど、今回は母さんは死なない予定だから、一人残して神殿なんかには行けない。
 母さんはあたしがちょっと忘れ物を取りに戻った間に馬車にひかれて死んじゃったから、それさえ回避すれば大丈夫なはず。
 使用人達が使っている屋根裏部屋では目の不自由な母さんには都合が悪いだろうと、庭の片隅にある、元は庭師の方が住んでいた小屋を与えてくれた。
 そこで母さんは侯爵家お抱えの治癒師として働かせてもらえる事になった。
 あたしがご子息を治癒している事はごくわずかの使用人しか知らない。
 子供に強い治癒力があるなんて、噂になったってろくなことにはならないから。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

選んでください、聖女様!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:52

【長編版】婚約破棄と言いますが、あなたとの婚約は解消済みです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,032pt お気に入り:2,189

私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:71,569pt お気に入り:3,497

推しに婚約破棄されたので神への復讐に目覚めようと思います

恋愛 / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:540

俺に7人の伴侶が出来るまで

BL / 連載中 24h.ポイント:1,881pt お気に入り:1,010

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,790pt お気に入り:466

婚約破棄に巻き込まれた騎士はヒロインにドン引きする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,726pt お気に入り:995

双月の恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:447pt お気に入り:27

処理中です...