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    バネッサ視点

 学園を休んでもう何日過ぎただろう。
 いけない事だとわかっている。
 優しい叔母様が心配してくださる。
 お兄様が帰ってきて、
「いったいどうしたって言うんだ?
 エドウィン殿下が心配して事情を聞いてくるよう仰せつかったぞ。
 殿下の事で誰かに嫌がらせされたか?」
 首を横に振った。
「…サラか?」
「違うわ、サラは何も言わないわ!」
「まあ、そうだろうな。
 でも気づいたんだろ?」
「お兄様は知っていたの?なぜ、言って下さらなかったの?」
「サラが言うなと言ったからな。」
「ひどいわ!
 私、サラになんて言って謝ったらいいの!」
 一生をかけても返しきれない恩を仇で返してしまうなんて。
「…いつから?
 いつからサラは殿下を見ていたの?」
「入学してすぐかな。
 だが、最初はサミュエルを見ていただけかもしれん。」
 そんなに前から…。
「バネッサ、殿下は王族だぞ。
 恋人や側妃は複数いても許される。
 サラだって殿下に気に入られたらその末席に加えていただけるじゃないか。
 何もお前が気に病む事は…。」
「馬鹿なのっ?
 お兄様は女心を何だと思ってるの!」
 私が側妃でもかまわないと思えるのは、殿下とヴァイオレットの間に恋愛感情がまったく感じられないからだわ。
 殿下は私にだけ好意を寄せてくれている。そう感じる事ができるから側妃でかまわないのよ。
 他の女性を好きになってしまったら、私だって嫉妬する。
 サラは私をどんな気持ちで治療したの?
 あの時、私はサラなんてまったく気にもとめずに殿下と大好きな鉱石について語りあっていた。
 サラも同行していたのに、私は殿下を独り占めしていた。
 その後、倒れてしまったのは本当の事?
 もしかしたら私達の事が辛かったからじゃないの?
 なのに私ったら親切面してお見舞いになんか行ったりして。
 そんな私の目をサラは治療してくれたのよ。
 しかも治癒能力は秘密にしているのに。
 私の事は憎くはなかったの?
 なんて娘なの。
「サラがどうであろうと、殿下のお気持ちを無下にしてはいけないよ。
 それに、サラには他にもっとふさわさい人がいるはずだ。
 侯爵家の養女ではあるが、平民の血を王族に入れる事は歓迎されないはずだ。」
「サラは身分など関係無く尊い力を持つ娘よ。そんな言い方しないで!」
「わかっている。
 サラはいい娘だ。
 だからこそ愛憎の渦巻く後宮など似合わないと思わないか?
 その…だな。
 殿下では無く、私では駄目だろうかと。」
「はあっ?」
 頬を染めて何を宣う?
 気持ち悪いったらないわ。
「サラはあのサミュエル様のご尊顔を拝して暮らしているのよ?
 毎日、天使に会ってる娘がどう間違ったらゴリラに恋するってのよっ!
 人類に進化してから出直して来いって話よっ!」
「…ひどい。」
 
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