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エドウィン視点
臨時議会が召集された。
僕も今年から王族として参加させてもらっているのだが、今回は昨今取り沙汰されている差別問題に関してだ。
これに関しては貴族間でも意見が分かれている。
我がガルシアン王国は他国に率先して奴隷制度の廃止に取り組んでいる。
事の発端は5年ほど前に、僕の婚約者でもあるアルテモーゼ侯爵令嬢ヴァイオレットが、奴隷などという野蛮な制度は廃止するべきだと主張したからだ。
確かに一部の貴族は奴隷を非人道的に扱っていたからその法案には賛成だ。けれど、長きにわたって浸透している奴隷制度はそう簡単には廃止出来なかった。その結果、各領地の自治法に任せているのが現状だ。
今回問題視されているのはガルシアン王国の多くを占めているブランシェール領が、いまだに奴隷を使役していることについてだ。
宰相であるアルテモーゼ侯爵がブランシェール侯爵を議会に呼び出し、詰め寄る。
アルテモーゼ侯爵は黒髪に紫の目をしたヴァイオレットによく似ていて、何が気に入らないのかいつも厳しい表情をしている。
「なぜあなたの領地では頑なに奴隷を使役し続けるのですか?奴隷制度は非人道的で野蛮な行為です。我が国が神の国から非難されるという恥ずかしい状況をどう思っておられるのでしょうか?」
「宰相殿は皇国の戒めを正しくは理解しておられぬようです。
いくら奴隷を解放しても、貴族の意識が変わらぬ限り、差別問題は解決いたしません。」
「ハッ、話のすり替えをなさろうとしていますね。」
「それはそちらの方でしょう。」
言い合いばかりで埒が明かない。
他の貴族はこの権力を持つアルテモーゼ侯爵と、伝統と信頼で国王と貴族達から絶大な支持を得ているブランシェール侯爵のどちらかにつく事は決めかねて何も言う事が出来ない。
僕は僕なりに思う事もあり、この機会に聞いてみる事にした。
「あの、少しよいだろうか?」
まさか僕が口を挟むとは思わない二人は驚いたようだったが、
「僕はまだ未熟でこのような質問は呆れてしまうだろうが、教えてほしい。
王都で解放された奴隷はその後望むように生きているのだろうか?」
アルテモーゼ侯爵はすかさず、
「もちろんです!彼らは自由になれたのですから!」
「自由になれたならば幸せなのだろうか?」
「当たり前ではないですか。」
アルテモーゼ侯爵は馬鹿にしたように僕を見下ろした。けれど、僕が本当に疑問なのは、
「仕事はしなくてもすむが、住む所も無く、食べる物も無い生活は本当に幸せなのか?」
「は?何の事でしょうか?」
他の貴族も意味がわからないふうだ。
「僕は貧民街を見てきた。
そこにいる人達のほとんどは元奴隷だといっていたのだ。
自由とは本当に幸せなのか?
自由になっても虐げられているのは変わらないではないか。」
貴族達がざわつきはじめた。
「殿下が貧民街に行くなどあってはならない事です!側近や護衛はいったい何をしていたのですか!厳罰に処するべきです!」
「宰相殿はまた話をすり替えようとなさるようですね。」
ブランシェール侯爵が静かに話し出したが、
「黙れ!確か側近はブランシェール侯爵のご子息でしたな。まったく困ったものです。殿下、このさい無能な側近は解雇なさって、」
「宰相、少し黙ってくれないかな?」
「えっ?」
話を遮った僕をアルテモーゼ侯爵だけではなく、他の貴族達も驚いたよう見る。
宰相に意見するのはそんなにいけない事だったのか?
臨時議会が召集された。
僕も今年から王族として参加させてもらっているのだが、今回は昨今取り沙汰されている差別問題に関してだ。
これに関しては貴族間でも意見が分かれている。
我がガルシアン王国は他国に率先して奴隷制度の廃止に取り組んでいる。
事の発端は5年ほど前に、僕の婚約者でもあるアルテモーゼ侯爵令嬢ヴァイオレットが、奴隷などという野蛮な制度は廃止するべきだと主張したからだ。
確かに一部の貴族は奴隷を非人道的に扱っていたからその法案には賛成だ。けれど、長きにわたって浸透している奴隷制度はそう簡単には廃止出来なかった。その結果、各領地の自治法に任せているのが現状だ。
今回問題視されているのはガルシアン王国の多くを占めているブランシェール領が、いまだに奴隷を使役していることについてだ。
宰相であるアルテモーゼ侯爵がブランシェール侯爵を議会に呼び出し、詰め寄る。
アルテモーゼ侯爵は黒髪に紫の目をしたヴァイオレットによく似ていて、何が気に入らないのかいつも厳しい表情をしている。
「なぜあなたの領地では頑なに奴隷を使役し続けるのですか?奴隷制度は非人道的で野蛮な行為です。我が国が神の国から非難されるという恥ずかしい状況をどう思っておられるのでしょうか?」
「宰相殿は皇国の戒めを正しくは理解しておられぬようです。
いくら奴隷を解放しても、貴族の意識が変わらぬ限り、差別問題は解決いたしません。」
「ハッ、話のすり替えをなさろうとしていますね。」
「それはそちらの方でしょう。」
言い合いばかりで埒が明かない。
他の貴族はこの権力を持つアルテモーゼ侯爵と、伝統と信頼で国王と貴族達から絶大な支持を得ているブランシェール侯爵のどちらかにつく事は決めかねて何も言う事が出来ない。
僕は僕なりに思う事もあり、この機会に聞いてみる事にした。
「あの、少しよいだろうか?」
まさか僕が口を挟むとは思わない二人は驚いたようだったが、
「僕はまだ未熟でこのような質問は呆れてしまうだろうが、教えてほしい。
王都で解放された奴隷はその後望むように生きているのだろうか?」
アルテモーゼ侯爵はすかさず、
「もちろんです!彼らは自由になれたのですから!」
「自由になれたならば幸せなのだろうか?」
「当たり前ではないですか。」
アルテモーゼ侯爵は馬鹿にしたように僕を見下ろした。けれど、僕が本当に疑問なのは、
「仕事はしなくてもすむが、住む所も無く、食べる物も無い生活は本当に幸せなのか?」
「は?何の事でしょうか?」
他の貴族も意味がわからないふうだ。
「僕は貧民街を見てきた。
そこにいる人達のほとんどは元奴隷だといっていたのだ。
自由とは本当に幸せなのか?
自由になっても虐げられているのは変わらないではないか。」
貴族達がざわつきはじめた。
「殿下が貧民街に行くなどあってはならない事です!側近や護衛はいったい何をしていたのですか!厳罰に処するべきです!」
「宰相殿はまた話をすり替えようとなさるようですね。」
ブランシェール侯爵が静かに話し出したが、
「黙れ!確か側近はブランシェール侯爵のご子息でしたな。まったく困ったものです。殿下、このさい無能な側近は解雇なさって、」
「宰相、少し黙ってくれないかな?」
「えっ?」
話を遮った僕をアルテモーゼ侯爵だけではなく、他の貴族達も驚いたよう見る。
宰相に意見するのはそんなにいけない事だったのか?
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