戦鬼は無理なので

あさいゆめ

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 今日で二週間たった。
 毎日寝てるだけだったので、この世界についていろいろ教えてもらった。
 多少の食い違いはあるけれど不思議なことに背景や歴史は以前から知っていたかのような感覚がある。まあ、小説で読んだからだろう。
 食い違いの多くは人間関係や人となり。
 世の男どもは皆聖女に恋い焦がれているのかと思いきや、そうでもない。聖女という地位を尊重し、敬ってはいるが恋愛感情は無い。
 アレクシオンにはアレクサンドリアという2歳年下の妹がいる。
 学生時代では聖女と同じクラスでいわゆる「悪役令嬢」だった。
 アレクシオンと同じ青みを帯びた黒髪に銀の瞳のクールビューティーだ。
 彼女はマティアス皇太子の婚約者で、皇太子が想いを寄せる聖女に嫉妬し、様々な嫌がらせをした結果、婚約破棄された事になっていたが、事実は違う。
 好きな男が出来たから婚約解消を願い出たのはアレクサンドラのほう。
 アレクシオンと同様に幼馴染みだったアレクサンドリアにとって皇太子は兄のような気楽な関係でお互いに好きな相手が出来たら解消しようと、最初から約束されていた。
 今日はそのアレクサンドリアが見舞いに来る。
 今は事情があって彼女とその子供達は同じこの屋敷に住まいしている。本来ならもっと早く会いたかっただろうが、私の現状を考慮して待ってもらっていた。
 今のアレクシオンには家族と呼べる者は彼女とその子供達だけだ。
 きっと彼女には中身が入れ替わっていることを隠すのは無理だろう。
 事実を知ったらショックだろうけど協力してもらわないと。
「シオンちゃん?」
 え?
 聞き覚えのあるあの発音。「セ」とも「ツ」とも聞こえる変わった「シ」の発音。あれは元の世界で母が私を呼ぶ時の癖だ。故郷の訛りだって言ってた。懐かしい。
 ドアからひょこっと顔を覗かせた黒髪美女。アレクサンドリアに違いない。
「あの…入ってもいい?」
「あっ、はい。どうぞ。」
 テリオス君に予め事情を話してもらっていた。いきなりだとショックだろうから。
「あの…シオンちゃんって?」
「家族だけの時はずっとそう呼んでいたから。ほら、アレクシオンとアレクサンドリアって長いしどっちもアレクだからお兄様は「シオン」で私は「サンディ」って呼びあっていたのよ?」
 そうか。たまたま同じような名前なんだ。
 
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