戦鬼は無理なので

あさいゆめ

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   マティアス視点

 毒矢に射たれた時のことを思い出しただと?
「記憶が戻ったのか?」
 テリオス卿も気づいたようだ。
「そういえば襲われた時は剣を握って戦っておられましたよね?」
 二人に詰め寄られて困ったように、
「ごめん、自分でもよくわからない。
 必要な記憶を切り取って思いだしているような…そんな感じ。」
 サンディの言葉を思い出した。
 過去を忘れたいのかもしれないシオンをまた苦しめてしまうことになる。
「いいんだ、無理に思い出すな。」
 シオンの手に自分の手を重ねる。
 テリオス卿がまた過剰に反応しているようだ。
 おもしろい。
 だが困った。
 これまでどれだけ距離を詰めようとしてもシオンにはさらりとかわされていた。
 それがわかっていたから面白がってふざけていたのだが。
 それが今はどうだ?されるがままだ。
 これでは…歯止めがきかないではないか。
 初めて会ったのは私達が8歳、サンディが6歳。
 婚約者候補とは知らずただ遊び相手として連れてこられた。
 一目惚れだった。サンディではなくシオンに。
 こんな綺麗な子がいるなんて。
 他にも数人の男女の子供達が一緒に紹介されたが、もうシオンの事しか目に入らなかった。
 綺麗なだけでなく、優しく、根気強く、頭も良かった。なにせあの暴れん坊のサンディを手懐けているのだから。
 自分で言うのもなんだが、学業も剣術もちょっと残念な出来の私はシオンに誉められたくてがんばった。
 いつしか公爵家の兄妹ばかりを側に置くようになった為サンディが婚約者となった。兄が大好きなサンディが離れなかっただけなのに。
 まだ男女の区別も役割もよくわかってなかった私は堂々と母上に「僕の好きなのはサンディじゃなくてシオンです。間違わないで下さい。婚約者はシオンにしてください。」と言ってのけた。
 あの時の母上の顔…。
 だがその後12歳で前公爵が亡くなられてから徐々にシオンは変わった。
 寡黙で大人びて、暇さえあれば自分を鍛えていた。回りの大人達は称賛したが、私は寂しかった。避けられればさらにまとわりついた。
 学園に通う頃には私の護衛として、部下として立派な側近となった。
 そして誰もがアンカレラ公爵として彼を敬うようになった。
 私もそんな彼を友として部下として尊敬し、頼りにしていた。
 今のシオンは…。
 どう接すればいいのか。
 戦争に行くことになった時も心配だったがどこかでシオンなら大丈夫だと思っていた。
 昏睡状態になって失いたくないと痛感した。
 目覚めた時は初めて神に感謝した。
 そして今は…ただただ愛おしい。
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