戦鬼は無理なので

あさいゆめ

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 よく眠れていないからかな。本当に疲れた。
「そう言えば顔色が良くないな。」
 マティアス殿下はうつむいた私の顔に手を添えて覗きこむ。
 優しくしないでほしい。
 それは私に対しての優しさじゃないから。
 テリオス君も優しいけれど、世話を焼いてくれるお母さんみたいなところがある。たまにイライラしているのがわかるし。
 マティアス殿下の優しさは甘く私を絡めとって自分で立ち上がる事が嫌になるくらいにとろけさせようとする。
「やめて下さい。」
 目に涙がにじむのを見られたくないからその手を振り払った。
 マティアス殿下にとってはちょっとふざけて触ってくるだけなんだろうけど弱っている私はその手を握り返したくなるから。
「何か気にさわる事でも言っただろうか?謝るし、ちょっと座ろうか?本当に顔色が悪い。」
 肩を抱きソファーに座らせようとする。駄目だ…涙腺がもたない。ぼろぼろと涙が溢れて崩れるように座り込んだ。
 本当にどうかしている。なんでこんな事で泣く?
「優しくしないで下さい。」
「本当にどうしたというのだ?何が辛いのだ?」
 おろおろとしながらもしっかり肩を抱きハンカチを取り出し涙を拭き取る。
「優しくしないでって言ってるの!私のことなんて誰も大事じゃないくせに!早く元のアレクシオンに戻って欲しいくせに!」
 わあっと声を上げて泣いてしまった。
「私だって元の世界に戻りたいっ!ママに会いたい!さみしい…さみしいよぉ…。」
 マティアス殿下は子供のように泣きじゃくる私に寄り添い落ち着くまで待ってくれていた。
「っく…ひっく…ごめんなさい…ひっく…う。」
 しゃっくりが止まらない。ひとしきり泣きつくすとはずかしくなった。
「優しくするなと言われても私には優しくすることしか出来なくて…すまない。」
 抱きしめられる。
 胸を両手で押し、身体を引きはなそうとすると今度はきつめに抱かれた。
「確かに私も皆もアレクシオンの事をとても慕っていた。だが私は今のお前の事もちゃんと大切に思っている。お前のさみしさは埋めてやれないかもしれないが、側にいさせてくれないか?」
 無理しちゃって。私にだって皇太子がどれだけ忙しいかくらいわかってるよ。
 首を横に振った。
「ひっく…帰ります…ひっく…。」
「そんな顔でか?」
 確かに。
 パンパンの目でしゃっくりしながら部屋を出たらマティアス殿下と何があったか皆気になるよね。
 やらかしたな。どうしよう。

 
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