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10 過ぎた日々

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「色々大変なんだね。知らない間に大人になっちゃって。ばーちゃん、ちょっとさみしいよ。」
「ばーちゃんはすっかり可愛くなっちゃって。レティちゃんって呼んでいい?」
「たしかに、こんななりでばーちゃんはおかしいからね。」
「抱っこしていい?」
「…いいけど。」
「やった!かーわーいーいーっ!」
抱き上げてくるくる回りだす。
「ちょっ、こんなことするために人払いしたのかい?」
「だってこんな可愛い子見たことないよ?それに、知らない子にこんなことしたら犯罪じゃん!」
ほっぺにチュウだと?
「でも、まんざらでもないんだろ?俺イケメンだし!」
「ほんとにね、あたしにもこんな綺麗な人見たことないよ。」
「でね、レティちゃんにちょっとお願いがあるんだ。」
真面目な顔になる。抱っこしたままだけど。
「近い内に王都まで来てもらえないかな?」
「ずっとは無理だよ。あたしだってここでやらなきゃならない事あるからね。」
「そうだね、実は王様のこと見て欲しいんだ。」
王様とは8歳になるハルトの甥のことだ。
「生まれつき体が弱く、長くは生きられないだろうと言われてるんだ。」
「生まれつきなら難しいね。」
治癒は元に戻すというものだから、生まれつきならばどうしようもない。
「わかってるよ。でも、兄上から預かった大切な甥なんだ。」
この子はこっちの世界でも家族との縁が薄いんだね。ハルトにとって血縁者と言えるのはもう甥である王様だけになるのだろう。
何か助けになるなら行ってみようか。
「王都に帰って少し落ち着いたら迎えをよこすから、そのつもりで準備しといてね。それまで、護衛を付けるよ。」
「いいよ、そんなの。」
「いや、俺を治癒したことによってこれまでのようにはいかないと思う。」
 そうか。これまでもお祖父様達には誘拐などに気をつけるよう言われてきたが、あたしの事を利用しようとする輩がいるかもという事ね。
「メィリィ!」
「はっ、御前に。」
 !?どこから現れた?忍者?何?怖いんだけど!
メイド服着てるけどメイドじゃないよね?まず立ち姿がおかしい、猫背で中腰。無表情な顔色は悪く目の下には隈。ダークグレイの髪は艶がなく灰をかぶったよう。
「だ…誰?」
「紹介するね、メィリィだよ。あ、怖くないから。冒険者時代からの配下で特技は策敵と暗殺だよ。こう見えてけっこういい奴だよ。」
 暗殺を必要とする案件はないから!
「俺が前世の記憶持ちって知ってるし、ずっと一緒だったから冒険話でも聞いてよ。俺、もう行かないといけないから。」
「今から帰るの?馬車でも隣町までしか行けないよ?」
「大丈夫、ちょっと外出ようか。」
 屋敷の外は庭というほど手入れはされてない原っぱだ。
「リザードン‼️」
 は?あれは…。
 遠くの空から物凄い勢いで何か飛んでくる。大きい!
 リザードン?…うん、リザードンだね。
 庭に降り立ったのはドラゴン。
「何事だ!これは?」
 屋敷の中からお祖父様を初めわらわらと人が集まってきて大騒ぎだよ。
「お騒がせして申し訳ない、こいつでひとまず先に帰るよ。リノス殿、礼もそこそこで失礼する事許していただきたい。」
「そのような事…お気になさらず…。」
 みんなぽかんとドラゴンを見上げる。
「すごい!これ、ハルトの?」
「うん、大事な仲間だよ。しばらくかまってあげれなかったから乗ってあげないとね。」
 じゃあねと、ドラゴンの背に乗って飛び立った。
 こうして心待ちにしていた再会はあっという間に終わった。まあ、三日間寝てたから。
 もうハルトはハルトの新しい人生を生きているんだと、ちょっと寂しく感じた。
 従者の方々は次の日、王都へ旅立たれた。

 うーん…見かけないな。あの人どうしたかな?
 もう夕方だけど、護衛として付けてくれた…たしかメィリィって人。メイド(?)とはいっても王都から来た公爵家のお客様だからマーサには客間を用意してもらうようお願いしたんだけど。
「ねえマーサ、お願いしてたお客様はお食事召し上がられた?」
「それが…どのようなお客様です?誰も見てないって言うんですよ。皆さんとご一緒に帰られたんじゃないです?」
ハルトが付けてくれた人だからそんな無責任なことはないと思うけど。呼んでみようかな
「…メィリィ。」
「はっ、御前に。」
 っっ!!びっくりした、思わずマーサと抱き合った。
「どこにいたの?」
「常にお側に控えております。」
 怖いんだけど?
「お食事は客間で召し上がられますか?それとも私達とご一緒しますか?」
 リノス家は仕事の関係で生活リズムがバラバラになりがちなので手の空いた者から食堂で食べる。貴族では考えれないだろうけど使用人も同じように。
「私のことはお気になさらずに。それに、敬語は不要でございます。私はここにいる間はレティシアお嬢様の配下でございますから。」
「えと…じゃあ食堂に用意しておくので手の空いた時に食べてね。ベッドは客間を使ってね。」
「お気遣いありがとうございます。」
 終始無表情。あたしなんかの護衛をさせられて納得いかないのかもしれない。
 そうだよね、魔王討伐にも参加したすごい人なんだろうし。
 それからまた数日、姿は見えなかった。
 あたしはハルトからの迎えが来る前に準備しなきゃならない事に追われてた。
 事業のほうはもう各責任者に任せても大丈夫になってきていた。
 魔物コナーズは有効期限にムラがあったがあえてそのままで良しとした。
 効き目が弱くなると色が薄くなるので少し手間だけどその都度交換してもらう。
 外に設置するものだから精度がよすぎると盗まれて転売されるだろうから。
 救済院はカシム先生にポーションを大量に作って預かってもらおう。
 それにしても、子供って敏感なんだな。
 孤児院では子供達が何かいると怯えた。霊なの?
「メィリィ、子供達が怖がるから姿見せて。」
 …見えたらもっと怖かったみたい。
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