姫の血縁

姫宮瑠璃

文字の大きさ
105 / 150

虚栄心②

しおりを挟む
姫小路裕美は、テルニアの国境の砦の一室に寝かされていた。
中には、神官が1人見張りの為に残っていた。
神聖タニア教にとって、悪とされる黒を身に宿した少女に神官は見惚れていた。
艶やかに波打ち扇型に広がる豊かな黒髪。
白い肌に映える長い睫毛。
禁忌の黒であるはずなのに、何故に美しいのか。
教皇様は『バケモノ』と称していたが、神官は、とてもそうだとは思えなかった。
伝え聞いた、隣国で起こった奇跡。
それは正に、『聖女』と呼ばれるに値する行為だったし、今この場で眠る少女が穢れた存在には見えない。
『バケモノ』と言うならば、もっと相応しいと思える存在を、神官は知っていたからだ。
初めは、おとなしい子だと思ったが、自分が優遇される存在だと知ると、すぐに増長し始め、気に入らない事があると喚き、嗜められると相手を切り捨てる。
それがたとえ、自分の身体と同じ血が流れている存在でも。
教皇様が養父となった、『聖女』こと、ヒロミ=イノウエ=デヴォンの事だ。
彼女は、2日目で、タリアテリーヌの祖父を捨てた。
自身に痛い忠告や叱言を言うという事で、「殺して」と願ったのだ。
教皇秘書の1人であるシオンによって、その願いは命令に変わった。
そんな事があっても、『聖女』と呼ぶに相応しい清浄なる魔法が使えるかと思いきや、異世界人が乗り移ったというのに、結局、光属性の魔法はライトしか使えず、風と雷の攻撃魔法だけが特化していた。
風属性には物を運んだりする事も出来る筈なのだが、井上浩美が行使すると、切り刻むか薙ぎ払うようにしかならなかった。
もちろん、その魔力は凄まじいもので、『戦乙女』と呼べる程なのだが、人々の思い描く『聖女』とかけ離れているのは、その魔法の行使の仕方が、残虐性を楽しんでいる様にしか見えない事だった。
ニタリと笑う顔は、悪意に満ち、それを楽しんでいるとしか思えず、とても不細工だった。
なので、講師を付け、光属性をもっと使えるようになれば『聖女』らしくなると思ったのだが、タリアテリーヌの知識が残っている所為もあって、これから努力して学ぼうという気は、井上浩美にはさらさら無かった。
元々、勉強は大の苦手で、半分登校拒否のようなものだったから、学力が低かった。
タリアテリーヌに至っても、元々平々凡々な上に、精神衰弱気味だったから、あまり成績は良くなかった。
せっかく魔力量が多くても、タリアテリーヌが覚えている呪文で魔法を発動している井上浩美は、学ばなければ新たな魔法を追加出来ない。
それを、彼女は分かってはいなかった。
そして、姫小路裕美を見張っていた神官は、実際に目にした訳ではないが、うるさい程に兵士達が井上浩美の魔法で倒れていく敵兵の話を、部屋の中にまで聞こえてくるくらいに騒いでいるので、先程起こった戦闘を間近で見てきたかのように知っていた。
その所為でさらに、『バケモノ』としての認識が強くなっていた。
ノックもせずにガチャリと音がして、その『バケモノ』が入って来た。

「どう?もう起きた?」
「いえ、まだ。」

神官が答えると、井上浩美は途端に不機嫌になった。

「まあ、仕方ないかもしれませんね。
普通なら死んでる量を飲んでいるんですから。」

シオンが、やれやれというように、両手を上に上げた。

「じゃあ、何で死なないのよ?」
「さあ?一口で昏睡状態になる筈が、二口三口でも昏倒せずに、全部飲んでからようやく眠ったのですから、耐性があるのかもしれませんね。」

シオンの解答に、井上浩美は、プンッと、姫小路裕美を見ていた視線を外した。
下品にも、ガジガジと爪を噛む。
シオンはそれを手で嗜めながら、井上浩美を見つめた。
お得意の魅了だろう。

「死んでしまっては、困ります。
教皇様に生きて連れて来るように言われているのですから。」
「分かってるわよ!でも・・・!」
「私が、教皇様にお叱りを受けても、聖女様は平気なのですか?」

シオンは、握った井上浩美の手を包み込むようにして、見つめ続けた。

「わ、分かったわ。私だって、シオンがお父様に叱られるのは、見たくないし・・・。」
「ありがとうございます。」

神官は、死んだ魚の様な目で見ながら、「よくやるものだ」と自分の上司であるシオンを呆れながらも感心していた。

「でも、何でこの女が必要なの?『聖女』は私なんだから、偽物を生きて連れて行く必要ある?」

またも苛立ちが振り返したようで、井上浩美が声高に喚く。
神官は、毎度毎度、井上浩美がすぐにヒステリックになる事にため息が出そうになり、悟られないように唾と共に飲み込んだ。

「テルニアの陛下が、見てみたいとご所望なんですよ。」
「まさか、王妃に迎えるなんて話じゃないでしょうね⁈」
「まさか!
テルニアは『黒』を禁忌にしている国ですよ。あり得ませんよ。」
「そう。そうよね。
そんな事、許されないわ。」

井上浩美は、タリアテリーヌの知識からもあり得ないと思ったが、それでも納得出来ない心を言い聞かせていた。

ーーーまあ、側室になら、可能性高いと思いますけどね。

シオンは、密かに独りごちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...