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虚栄心②
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姫小路裕美は、テルニアの国境の砦の一室に寝かされていた。
中には、神官が1人見張りの為に残っていた。
神聖タニア教にとって、悪とされる黒を身に宿した少女に神官は見惚れていた。
艶やかに波打ち扇型に広がる豊かな黒髪。
白い肌に映える長い睫毛。
禁忌の黒であるはずなのに、何故に美しいのか。
教皇様は『バケモノ』と称していたが、神官は、とてもそうだとは思えなかった。
伝え聞いた、隣国で起こった奇跡。
それは正に、『聖女』と呼ばれるに値する行為だったし、今この場で眠る少女が穢れた存在には見えない。
『バケモノ』と言うならば、もっと相応しいと思える存在を、神官は知っていたからだ。
初めは、おとなしい子だと思ったが、自分が優遇される存在だと知ると、すぐに増長し始め、気に入らない事があると喚き、嗜められると相手を切り捨てる。
それがたとえ、自分の身体と同じ血が流れている存在でも。
教皇様が養父となった、『聖女』こと、ヒロミ=イノウエ=デヴォンの事だ。
彼女は、2日目で、タリアテリーヌの祖父を捨てた。
自身に痛い忠告や叱言を言うという事で、「殺して」と願ったのだ。
教皇秘書の1人であるシオンによって、その願いは命令に変わった。
そんな事があっても、『聖女』と呼ぶに相応しい清浄なる魔法が使えるかと思いきや、異世界人が乗り移ったというのに、結局、光属性の魔法はライトしか使えず、風と雷の攻撃魔法だけが特化していた。
風属性には物を運んだりする事も出来る筈なのだが、井上浩美が行使すると、切り刻むか薙ぎ払うようにしかならなかった。
もちろん、その魔力は凄まじいもので、『戦乙女』と呼べる程なのだが、人々の思い描く『聖女』とかけ離れているのは、その魔法の行使の仕方が、残虐性を楽しんでいる様にしか見えない事だった。
ニタリと笑う顔は、悪意に満ち、それを楽しんでいるとしか思えず、とても不細工だった。
なので、講師を付け、光属性をもっと使えるようになれば『聖女』らしくなると思ったのだが、タリアテリーヌの知識が残っている所為もあって、これから努力して学ぼうという気は、井上浩美にはさらさら無かった。
元々、勉強は大の苦手で、半分登校拒否のようなものだったから、学力が低かった。
タリアテリーヌに至っても、元々平々凡々な上に、精神衰弱気味だったから、あまり成績は良くなかった。
せっかく魔力量が多くても、タリアテリーヌが覚えている呪文で魔法を発動している井上浩美は、学ばなければ新たな魔法を追加出来ない。
それを、彼女は分かってはいなかった。
そして、姫小路裕美を見張っていた神官は、実際に目にした訳ではないが、うるさい程に兵士達が井上浩美の魔法で倒れていく敵兵の話を、部屋の中にまで聞こえてくるくらいに騒いでいるので、先程起こった戦闘を間近で見てきたかのように知っていた。
その所為でさらに、『バケモノ』としての認識が強くなっていた。
ノックもせずにガチャリと音がして、その『バケモノ』が入って来た。
「どう?もう起きた?」
「いえ、まだ。」
神官が答えると、井上浩美は途端に不機嫌になった。
「まあ、仕方ないかもしれませんね。
普通なら死んでる量を飲んでいるんですから。」
シオンが、やれやれというように、両手を上に上げた。
「じゃあ、何で死なないのよ?」
「さあ?一口で昏睡状態になる筈が、二口三口でも昏倒せずに、全部飲んでからようやく眠ったのですから、耐性があるのかもしれませんね。」
シオンの解答に、井上浩美は、プンッと、姫小路裕美を見ていた視線を外した。
下品にも、ガジガジと爪を噛む。
シオンはそれを手で嗜めながら、井上浩美を見つめた。
お得意の魅了だろう。
「死んでしまっては、困ります。
教皇様に生きて連れて来るように言われているのですから。」
「分かってるわよ!でも・・・!」
「私が、教皇様にお叱りを受けても、聖女様は平気なのですか?」
シオンは、握った井上浩美の手を包み込むようにして、見つめ続けた。
「わ、分かったわ。私だって、シオンがお父様に叱られるのは、見たくないし・・・。」
「ありがとうございます。」
神官は、死んだ魚の様な目で見ながら、「よくやるものだ」と自分の上司であるシオンを呆れながらも感心していた。
「でも、何でこの女が必要なの?『聖女』は私なんだから、偽物を生きて連れて行く必要ある?」
またも苛立ちが振り返したようで、井上浩美が声高に喚く。
神官は、毎度毎度、井上浩美がすぐにヒステリックになる事にため息が出そうになり、悟られないように唾と共に飲み込んだ。
「テルニアの陛下が、見てみたいとご所望なんですよ。」
「まさか、王妃に迎えるなんて話じゃないでしょうね⁈」
「まさか!
テルニアは『黒』を禁忌にしている国ですよ。あり得ませんよ。」
「そう。そうよね。
そんな事、許されないわ。」
井上浩美は、タリアテリーヌの知識からもあり得ないと思ったが、それでも納得出来ない心を言い聞かせていた。
ーーーまあ、側室になら、可能性高いと思いますけどね。
シオンは、密かに独りごちた。
中には、神官が1人見張りの為に残っていた。
神聖タニア教にとって、悪とされる黒を身に宿した少女に神官は見惚れていた。
艶やかに波打ち扇型に広がる豊かな黒髪。
白い肌に映える長い睫毛。
禁忌の黒であるはずなのに、何故に美しいのか。
教皇様は『バケモノ』と称していたが、神官は、とてもそうだとは思えなかった。
伝え聞いた、隣国で起こった奇跡。
それは正に、『聖女』と呼ばれるに値する行為だったし、今この場で眠る少女が穢れた存在には見えない。
『バケモノ』と言うならば、もっと相応しいと思える存在を、神官は知っていたからだ。
初めは、おとなしい子だと思ったが、自分が優遇される存在だと知ると、すぐに増長し始め、気に入らない事があると喚き、嗜められると相手を切り捨てる。
それがたとえ、自分の身体と同じ血が流れている存在でも。
教皇様が養父となった、『聖女』こと、ヒロミ=イノウエ=デヴォンの事だ。
彼女は、2日目で、タリアテリーヌの祖父を捨てた。
自身に痛い忠告や叱言を言うという事で、「殺して」と願ったのだ。
教皇秘書の1人であるシオンによって、その願いは命令に変わった。
そんな事があっても、『聖女』と呼ぶに相応しい清浄なる魔法が使えるかと思いきや、異世界人が乗り移ったというのに、結局、光属性の魔法はライトしか使えず、風と雷の攻撃魔法だけが特化していた。
風属性には物を運んだりする事も出来る筈なのだが、井上浩美が行使すると、切り刻むか薙ぎ払うようにしかならなかった。
もちろん、その魔力は凄まじいもので、『戦乙女』と呼べる程なのだが、人々の思い描く『聖女』とかけ離れているのは、その魔法の行使の仕方が、残虐性を楽しんでいる様にしか見えない事だった。
ニタリと笑う顔は、悪意に満ち、それを楽しんでいるとしか思えず、とても不細工だった。
なので、講師を付け、光属性をもっと使えるようになれば『聖女』らしくなると思ったのだが、タリアテリーヌの知識が残っている所為もあって、これから努力して学ぼうという気は、井上浩美にはさらさら無かった。
元々、勉強は大の苦手で、半分登校拒否のようなものだったから、学力が低かった。
タリアテリーヌに至っても、元々平々凡々な上に、精神衰弱気味だったから、あまり成績は良くなかった。
せっかく魔力量が多くても、タリアテリーヌが覚えている呪文で魔法を発動している井上浩美は、学ばなければ新たな魔法を追加出来ない。
それを、彼女は分かってはいなかった。
そして、姫小路裕美を見張っていた神官は、実際に目にした訳ではないが、うるさい程に兵士達が井上浩美の魔法で倒れていく敵兵の話を、部屋の中にまで聞こえてくるくらいに騒いでいるので、先程起こった戦闘を間近で見てきたかのように知っていた。
その所為でさらに、『バケモノ』としての認識が強くなっていた。
ノックもせずにガチャリと音がして、その『バケモノ』が入って来た。
「どう?もう起きた?」
「いえ、まだ。」
神官が答えると、井上浩美は途端に不機嫌になった。
「まあ、仕方ないかもしれませんね。
普通なら死んでる量を飲んでいるんですから。」
シオンが、やれやれというように、両手を上に上げた。
「じゃあ、何で死なないのよ?」
「さあ?一口で昏睡状態になる筈が、二口三口でも昏倒せずに、全部飲んでからようやく眠ったのですから、耐性があるのかもしれませんね。」
シオンの解答に、井上浩美は、プンッと、姫小路裕美を見ていた視線を外した。
下品にも、ガジガジと爪を噛む。
シオンはそれを手で嗜めながら、井上浩美を見つめた。
お得意の魅了だろう。
「死んでしまっては、困ります。
教皇様に生きて連れて来るように言われているのですから。」
「分かってるわよ!でも・・・!」
「私が、教皇様にお叱りを受けても、聖女様は平気なのですか?」
シオンは、握った井上浩美の手を包み込むようにして、見つめ続けた。
「わ、分かったわ。私だって、シオンがお父様に叱られるのは、見たくないし・・・。」
「ありがとうございます。」
神官は、死んだ魚の様な目で見ながら、「よくやるものだ」と自分の上司であるシオンを呆れながらも感心していた。
「でも、何でこの女が必要なの?『聖女』は私なんだから、偽物を生きて連れて行く必要ある?」
またも苛立ちが振り返したようで、井上浩美が声高に喚く。
神官は、毎度毎度、井上浩美がすぐにヒステリックになる事にため息が出そうになり、悟られないように唾と共に飲み込んだ。
「テルニアの陛下が、見てみたいとご所望なんですよ。」
「まさか、王妃に迎えるなんて話じゃないでしょうね⁈」
「まさか!
テルニアは『黒』を禁忌にしている国ですよ。あり得ませんよ。」
「そう。そうよね。
そんな事、許されないわ。」
井上浩美は、タリアテリーヌの知識からもあり得ないと思ったが、それでも納得出来ない心を言い聞かせていた。
ーーーまあ、側室になら、可能性高いと思いますけどね。
シオンは、密かに独りごちた。
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