姫の血縁

姫宮瑠璃

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虚栄心③

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姫小路裕美は、3日経っても目覚めなかった。
井上浩美は、始めのうちは、周りの人間が『聖女様』と自身の事を讃えるので、機嫌が良かった。
しかし、1日経っても起きない姫小路裕美に怒りが湧いてきて、ヒステリックになる回数が増え、シオンは宥めるのに大忙しだった。
2日目には、怒りがマックスになる。
姫小路裕美の事は、井上浩美とシオンがこの砦に連れて来た時に何人もの兵士に見られていた。
その時は、黒髪に着目して『黒だ』『魔人だ』などと卑下するように見ていた兵士達だったが、国境を偵察していた兵士から情報がもたらされた事で少し変わってくる。
連れて来られた『黒』がエンダールでは『聖女承認』を受ける少女であり、テルニアでは賛否両論がある、以前の聖女のであると知らされたのだ。
『聖女』と同じ名前の偽物がいるという事も、連れて来られた『黒』がその偽物だという事も伝えられていたが、それがであるという事が問題だった。
何しろ、以前の聖女のがタリアテリーヌに宿り、『聖女』としてこの地に舞い降りたと、神官から伝えられていたからだ。
「連れて来られた『黒』が本当は『聖女』なのではないか」と囁かれるようになるのに、そう時間はかからなかった。
それを漏れ聞いた井上浩美は、烈火の如く怒りまくった。
その怒鳴り声が、さらに「聖女ではないのでは」と疑いの目を向けられる原因になるなど考えもせず、感情のままに口を開き、振る舞った。
シオンがどんなに頑張ろうとも、走り出した噂や評判は、止める事が出来なかった。

敵兵を殲滅してあげたのよ!
あの女がテルニアの兵士に、何か施しをした?何もしていないじゃない!」

井上浩美は、金切り声を上げながら、部屋にある物を片っ端から投げ、地団駄を踏みまくった。

「なのにっ!なのに何で、私よりあの女が『聖女らしい』なんて言われているのよ!」
「落ち着いて下さい!」

投げられる置き時計やインク瓶を避けながら、シオンは井上浩美と目を合わせようと、果敢に近づいて行くが、一時近づけても、暴れる井上浩美の目を捉えることが出来ずにいた。

「私は皆の前で、凄い魔法で敵をやっつけたのに!
私は、ちゃんとやったのに!」

今度は、ガラスのペーパーウェイトが飛んできた。

「ええ、ええ!素晴らしい魔法でした!
とても偉かったですよ!
ですから・・・!」
「じゃあ、何であの女が皆の話題になったりするのよ!」

シオンは、ペーパーウェイトを避けたが、井上浩美がペン立てから鷲掴みにした木製のペンやガラスペンを次々に投げて来たので、いくつかは手で払ったものの、避けられない物もあり、そのうちの1本がシオンの目尻を擦り、傷を作った。
手の甲にも、引っ掻き傷が出来ていた。

「その態度が『聖女らしくない』と言われる所以なのですよ!」

言った瞬間にシオンはハッとしたが、口から出てしまったものは戻しようが無い。

「出てけっ!」

シオンは、胸や腹を圧される感覚がして、部屋のドアごと吹き飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられた。
ゴホゴホと咳をすると、喉の奥で血の味がした。
駆けつけてきた兵士に部屋まで連れて行ってもらうと、シオンは自ら光魔法で自身の傷を治癒した。
治癒魔法を使えない井上浩美の手間、シオンは彼女の近くで治癒魔法を使う事を避けていた。

ーーーいったい何処まで馬鹿かのか!
ーーーもう、聖女の評判の低下は否めない。
ーーー全く、タリアテリーヌの方がまだ、あそこまで馬鹿じゃないだけマシだった。
ーーー今日は、触らぬ何とかに祟りなしだ。

しかし、その日に井上浩美を御さなかった事を、シオンは次の日の朝、後悔する事になる。





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