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魂と記憶⑤
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「あー・・・、まあ、ご苦労だった。」
クロッシェントは、鏡の向こうに映る者達に、労いの言葉をかけながらも、茫然とした顔を隠せずにいた。
まあ、何にせよ、主立った実行犯が捕まった事は良い事だ。
【「それで、襲撃を受けた客室なんだけど、客室に居た筈の客人が1人しか見当たらないみたいなんだけど。他は、そっちにいる?」】
「ああ。1人以外いる筈だ。
その1人はどうした?無事なのか?」
【「ガラス突き破って外に落ちたので、重傷だけど、命に別状はないよ。」】
「そうか。」
【「ま、今、牢獄の中なんだけど。」】
「・・・何か怪しい事でもあったのか?」
【「んー・・・、とりあえず捕まえておこうって感じだったみたい。
部屋を爆破させたのが、誰か分からなかった事もあって、外に飛び出したのを逃げようとしたと捉えられたようだね。
医師と治癒士は手配してあるそうだから、居心地悪いだろうけど、とりあえず今晩は牢獄で我慢してもらう事になるだろうね。」】
「まあ、これだけ色々あると、優先順位は後になるだろうな。」
王妃の間以外で起こった事に関しては、リストルードに一任する事にして、気絶しているライファット子爵令息を牢獄に入れておくように指示を出して、騎士達を部屋から退室させた。
居間から、いつの間にか康人の姿が消えていた。
クロッシェントは、康人はきっと薔薇姫の様子でも見に行ったのだろうと思い、気にしなかった。
隣の部屋から話し声が聞こえてくるまでは。
「何だ?」
薔薇姫は寝ているのだから、話し声はシオンか神官だったメイドか、ヴィンセント、アラン、康人だろう。
アリアドネは、余程の事が無い限り、任務を遂行する為に気配を隠している筈だ。
危険があったような緊迫感がある感じでも無いし、悲しい事があったような悲壮感が漂っている訳でも無い。
ーーー寧ろ、喜んでいるような・・・?
クロッシェントが、足を隣の部屋の方へ向け、踏み出そうとした時、目の前の景色が微かに揺らいだ。
「陛下・・・。」
隣の部屋の出入り口近くに、アリアドネが姿を現して立っていた。
「どうした。何かあったか?」
「はい、陛下。薔薇姫様が・・・いえ、聖女様が、もうしばらくしたらこちらにいらっしゃいます。」
「ん?・・・目が覚めたということか。」
「あ、いえ・・・まあ。」
ハッキリした物言いをするアリアドネにしては、やけに戸惑った口調だ。
「繭は解けたのか?」
「はい。繭は、聖女様が御自ら解かれました。」
「そうか。自分で解除出来たならば、良かった。今度は、自由に張ったり解いたり出来るようになると良いな。」
「それは、問題無いかと・・・。」
アリアドネは、微妙な顔をして、クロッシェントから目を逸らした。
「・・・何だ?先程から其方は。
いつもと違うが、如何した?」
「はい・・・ちょっと、予想外の事態でして・・・。」
アリアドネは、泣き笑いの様な顔で、言葉を濁した。
「アリア、本当に如何した。」
クロッシェントは、アリアドネに近づき、肩を掴んだ。
伏せられたアリアドネの目元は、潤んでいるように見える。
ーーーまさか、私がここに居るというのに、薔薇姫への直接の襲撃を許したのか⁈
目を覚まし、繭を解く原因になった何か危険な事がすぐ近くであったのに、気付かずにいたのではないか?
クロッシェントは、埒が開かないアリアドネから手を離し、寝室へと足を向けた。
開いたドアから隣の支度部屋とも言える私室への短い通路を抜けると、寝室で警備をしていたヴィンセントが、こちら側を睨む様に立っていた。
その後ろに、目から滝の様に涙を流しているシオンを困った顔で見ている康人がいた。
「ヴィンセント。いったい、何が・・・。」
「陛下。お戻り下さい。」
ヴィンセントは、クロッシェントの言葉に被せるように、ピシリと言い放った。
「いや、しかし、状況を把握しなければ・・・。」
「お戻り下さい。」
「・・・。」
護衛としては正しいのだろうが、一国の王に向かっての態度としては如何なのだろうか。
ヴィンセントとクロッシェントが睨み合っていると、アランが近づいて来た。
「今支度中なので、男は向こうで待ってましょう。」
「・・・コイツもだよな?」
「もちろん、ヴィンセントもです。アリアドネ殿と交代しますよ。」
クロッシェントは、自身の後ろにアランが視線を向けるので顔を動かすと、アリアドネが出入り口に立っているのが見えた。
居間に戻ると、捕らえていた冒険者は騎士に引っ立てられて、牢に連れて行かれる処だった。
「アラン殿、ヤスヒト、何があったのだ?ヒロミ嬢が目覚めたそうだが。」
居間に入って来たアランと康人に、マークライドは問い掛けた。
「あー、確かに身体は起きたんだけど・・・。」
康人は、どう言ったものかと、頭を捻った。
「何だ?ハッキリせい!」
「まぁ、何でああなったのかよく分からないんだけど、結論から言うと、アレは・・・あの人は、裕美じゃない。」
「「ヒロミ嬢(薔薇姫)じゃない?」」
マークライドとクロッシェントが、声を合わせて驚いた。
「ああ。」
「じゃあ、誰だと言うんだ?」
「・・・貴子様です。」
アランと康人とヴィンセント、それに未だに涙で顔をぐちゃぐちゃにしているシオン以外は、言葉を失くして固まった。
聖女であった先代大皇妃『姫小路貴子』は、52年前に亡くなっている。
亡くなった者の魂や精神が、生きている者に宿るものだろうか?
「ありえない・・・。・・・いや。」
ーーーあの『偽聖女』も似たようなものだ。
クロッシェントは呟いた自分の言葉に、頭の中で反論した。
あちらの世界でまだ死んでいなかったとしても、こちらに精神を移した時点で、あちらの身体はどうなってしまったのか。
井上は、精神の召喚時に自殺したが、それはクロッシェント達には知らない事実だ。
精神を抜き取られ、代わりの精神が入る訳ではない空っぽの肉体は、ゆっくりと朽ちていくだけだろう。
肉体から精神を抜き取って他の者に移すよりも、探すのはかなり難しいだろうが、既に魂・精神体になっている者が身体に宿る方が簡単なのかもしれない。
「・・・本当に、タカコ=ヒメノコージ=エンダール様なのか?
『タカコ』という別人が乗り移っているとか、ヒロミ嬢が人格障害を侵しているということはないか?」
トラウマになるようなショッキングな出来事に、心を守る為に二重人格になってしまう事はある。
自分自身を大伯母と思い込もうとしているのではないかと、マークライドは思った。
「分かりません。
本人が『タカコ=ヒメノコージ=エンダール』と名乗っていますが、ヒロミの時の記憶もちゃんと覚えているんです。
でも、ヒロミが持って無い記憶を持っていて・・・、私が生まれる前の話なので、事実かどうか。」
アランは首を振った。
「ふむ。私とて、あまりお会いした事は無かったしなぁ。お話した事などあったかどうか・・・。」
「そうなのですか・・・。」
「ああ。先代大皇妃殿下が御隠れあそばしたのは、私が17の時だったからな。
その翌月、5歳上の兄上が亡くなったので、よく覚えている。」
マークライドは、遠い目をして思い出の中のまだ年若い兄に思いを馳せた。
ーーー兄上は何故死ななければならなかったのか・・・。
「ほう?『太陽の若獅子』が元当主と言うから、『閃光の騎士』はどうしたのかと思っておったが、やはり亡くなっていたか。」
隣の部屋から衣摺れの音が軽やかに、威風堂々とした黒髪の女性が、アリアドネと元神官のメイドを従えて、入って来ていた。
以前の・・・眠っていた時の愛らしい少女の姿とは別人のように毅然とした風格だ。
醸し出す雰囲気が、少女などと表現してはいけないと、頭を上げていてはいけないと思わず膝を付いてしまうような威圧感があった。
姫小路裕美の包み込むような穏やさを持つ風格とは反対で、彼女からは冬の早朝を思わせる凛とした静けさを感じさせられた。
その彼女が、尖らせた雹滴を幾重にも降らせんばかりに凍った気を纏っている。
「首吊りか?剣で胸を突いたか?それとも毒を呷ったか?」
冷たい怒気を孕んだ言葉に、息を飲んで彼女を見ていたマークライドは憤った。
「兄は自害などしていない!!」
「もちろんだ。『閃光の騎士』は自ら死を選んだりしない。
セントルードは殺されたのだ。」
クロッシェントは、鏡の向こうに映る者達に、労いの言葉をかけながらも、茫然とした顔を隠せずにいた。
まあ、何にせよ、主立った実行犯が捕まった事は良い事だ。
【「それで、襲撃を受けた客室なんだけど、客室に居た筈の客人が1人しか見当たらないみたいなんだけど。他は、そっちにいる?」】
「ああ。1人以外いる筈だ。
その1人はどうした?無事なのか?」
【「ガラス突き破って外に落ちたので、重傷だけど、命に別状はないよ。」】
「そうか。」
【「ま、今、牢獄の中なんだけど。」】
「・・・何か怪しい事でもあったのか?」
【「んー・・・、とりあえず捕まえておこうって感じだったみたい。
部屋を爆破させたのが、誰か分からなかった事もあって、外に飛び出したのを逃げようとしたと捉えられたようだね。
医師と治癒士は手配してあるそうだから、居心地悪いだろうけど、とりあえず今晩は牢獄で我慢してもらう事になるだろうね。」】
「まあ、これだけ色々あると、優先順位は後になるだろうな。」
王妃の間以外で起こった事に関しては、リストルードに一任する事にして、気絶しているライファット子爵令息を牢獄に入れておくように指示を出して、騎士達を部屋から退室させた。
居間から、いつの間にか康人の姿が消えていた。
クロッシェントは、康人はきっと薔薇姫の様子でも見に行ったのだろうと思い、気にしなかった。
隣の部屋から話し声が聞こえてくるまでは。
「何だ?」
薔薇姫は寝ているのだから、話し声はシオンか神官だったメイドか、ヴィンセント、アラン、康人だろう。
アリアドネは、余程の事が無い限り、任務を遂行する為に気配を隠している筈だ。
危険があったような緊迫感がある感じでも無いし、悲しい事があったような悲壮感が漂っている訳でも無い。
ーーー寧ろ、喜んでいるような・・・?
クロッシェントが、足を隣の部屋の方へ向け、踏み出そうとした時、目の前の景色が微かに揺らいだ。
「陛下・・・。」
隣の部屋の出入り口近くに、アリアドネが姿を現して立っていた。
「どうした。何かあったか?」
「はい、陛下。薔薇姫様が・・・いえ、聖女様が、もうしばらくしたらこちらにいらっしゃいます。」
「ん?・・・目が覚めたということか。」
「あ、いえ・・・まあ。」
ハッキリした物言いをするアリアドネにしては、やけに戸惑った口調だ。
「繭は解けたのか?」
「はい。繭は、聖女様が御自ら解かれました。」
「そうか。自分で解除出来たならば、良かった。今度は、自由に張ったり解いたり出来るようになると良いな。」
「それは、問題無いかと・・・。」
アリアドネは、微妙な顔をして、クロッシェントから目を逸らした。
「・・・何だ?先程から其方は。
いつもと違うが、如何した?」
「はい・・・ちょっと、予想外の事態でして・・・。」
アリアドネは、泣き笑いの様な顔で、言葉を濁した。
「アリア、本当に如何した。」
クロッシェントは、アリアドネに近づき、肩を掴んだ。
伏せられたアリアドネの目元は、潤んでいるように見える。
ーーーまさか、私がここに居るというのに、薔薇姫への直接の襲撃を許したのか⁈
目を覚まし、繭を解く原因になった何か危険な事がすぐ近くであったのに、気付かずにいたのではないか?
クロッシェントは、埒が開かないアリアドネから手を離し、寝室へと足を向けた。
開いたドアから隣の支度部屋とも言える私室への短い通路を抜けると、寝室で警備をしていたヴィンセントが、こちら側を睨む様に立っていた。
その後ろに、目から滝の様に涙を流しているシオンを困った顔で見ている康人がいた。
「ヴィンセント。いったい、何が・・・。」
「陛下。お戻り下さい。」
ヴィンセントは、クロッシェントの言葉に被せるように、ピシリと言い放った。
「いや、しかし、状況を把握しなければ・・・。」
「お戻り下さい。」
「・・・。」
護衛としては正しいのだろうが、一国の王に向かっての態度としては如何なのだろうか。
ヴィンセントとクロッシェントが睨み合っていると、アランが近づいて来た。
「今支度中なので、男は向こうで待ってましょう。」
「・・・コイツもだよな?」
「もちろん、ヴィンセントもです。アリアドネ殿と交代しますよ。」
クロッシェントは、自身の後ろにアランが視線を向けるので顔を動かすと、アリアドネが出入り口に立っているのが見えた。
居間に戻ると、捕らえていた冒険者は騎士に引っ立てられて、牢に連れて行かれる処だった。
「アラン殿、ヤスヒト、何があったのだ?ヒロミ嬢が目覚めたそうだが。」
居間に入って来たアランと康人に、マークライドは問い掛けた。
「あー、確かに身体は起きたんだけど・・・。」
康人は、どう言ったものかと、頭を捻った。
「何だ?ハッキリせい!」
「まぁ、何でああなったのかよく分からないんだけど、結論から言うと、アレは・・・あの人は、裕美じゃない。」
「「ヒロミ嬢(薔薇姫)じゃない?」」
マークライドとクロッシェントが、声を合わせて驚いた。
「ああ。」
「じゃあ、誰だと言うんだ?」
「・・・貴子様です。」
アランと康人とヴィンセント、それに未だに涙で顔をぐちゃぐちゃにしているシオン以外は、言葉を失くして固まった。
聖女であった先代大皇妃『姫小路貴子』は、52年前に亡くなっている。
亡くなった者の魂や精神が、生きている者に宿るものだろうか?
「ありえない・・・。・・・いや。」
ーーーあの『偽聖女』も似たようなものだ。
クロッシェントは呟いた自分の言葉に、頭の中で反論した。
あちらの世界でまだ死んでいなかったとしても、こちらに精神を移した時点で、あちらの身体はどうなってしまったのか。
井上は、精神の召喚時に自殺したが、それはクロッシェント達には知らない事実だ。
精神を抜き取られ、代わりの精神が入る訳ではない空っぽの肉体は、ゆっくりと朽ちていくだけだろう。
肉体から精神を抜き取って他の者に移すよりも、探すのはかなり難しいだろうが、既に魂・精神体になっている者が身体に宿る方が簡単なのかもしれない。
「・・・本当に、タカコ=ヒメノコージ=エンダール様なのか?
『タカコ』という別人が乗り移っているとか、ヒロミ嬢が人格障害を侵しているということはないか?」
トラウマになるようなショッキングな出来事に、心を守る為に二重人格になってしまう事はある。
自分自身を大伯母と思い込もうとしているのではないかと、マークライドは思った。
「分かりません。
本人が『タカコ=ヒメノコージ=エンダール』と名乗っていますが、ヒロミの時の記憶もちゃんと覚えているんです。
でも、ヒロミが持って無い記憶を持っていて・・・、私が生まれる前の話なので、事実かどうか。」
アランは首を振った。
「ふむ。私とて、あまりお会いした事は無かったしなぁ。お話した事などあったかどうか・・・。」
「そうなのですか・・・。」
「ああ。先代大皇妃殿下が御隠れあそばしたのは、私が17の時だったからな。
その翌月、5歳上の兄上が亡くなったので、よく覚えている。」
マークライドは、遠い目をして思い出の中のまだ年若い兄に思いを馳せた。
ーーー兄上は何故死ななければならなかったのか・・・。
「ほう?『太陽の若獅子』が元当主と言うから、『閃光の騎士』はどうしたのかと思っておったが、やはり亡くなっていたか。」
隣の部屋から衣摺れの音が軽やかに、威風堂々とした黒髪の女性が、アリアドネと元神官のメイドを従えて、入って来ていた。
以前の・・・眠っていた時の愛らしい少女の姿とは別人のように毅然とした風格だ。
醸し出す雰囲気が、少女などと表現してはいけないと、頭を上げていてはいけないと思わず膝を付いてしまうような威圧感があった。
姫小路裕美の包み込むような穏やさを持つ風格とは反対で、彼女からは冬の早朝を思わせる凛とした静けさを感じさせられた。
その彼女が、尖らせた雹滴を幾重にも降らせんばかりに凍った気を纏っている。
「首吊りか?剣で胸を突いたか?それとも毒を呷ったか?」
冷たい怒気を孕んだ言葉に、息を飲んで彼女を見ていたマークライドは憤った。
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