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男二人でパンケーキ?
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土曜日は、空がやけに青かった。
雲ひとつない晴天。
気温もちょうどよく、風は少し甘い匂いがした。
こういう日に出かけるのは、なんだか久しぶりだった。
駅前の時計台の下に着くと、すぐにそれが目に入った。
朝比奈さん。
白いシャツに、黒のスキニー。
ジャケットを片手に持ち、少し伸びた前髪を風が揺らしている。
長身で、今どきの雑誌モデルみたいに見えて、
思わず足が止まった。
「野々宮さん」
呼ばれてハッとして手を振る。
「……早いですね」
「楽しみにしてたんで」
そう言って笑う顔が、陽射しを受けてまぶしい。
パンケーキ屋は駅から少し歩いた先にあった。
カフェの前には若い女性たちが列を作り、
ふたりだけ場違いな気がして、思わず立ち止まる。
「大丈夫です、予約してますから」
さらっと言うその優しさに、
なんだか胸の奥がくすぐったかった。
案内された席は窓際で、
明るい陽射しにパンケーキが映える。
皿の上は、もはや芸術だった。
黄金色に焼き上げられた三段のパンケーキは、ひとつひとつが厚みを誇り、縁にはとろけるようなバターが溶けてゆく。
その上から滝のように流れ落ちる琥珀色のメープルシロップ。光を受けてきらめき、まるで宝石の露のようだ。
頂には雪のようなホイップクリームがこんもりと盛られ、周囲を彩るのは、艶やかな苺、熟れたキウイ、そして深紅のベリー。
さらに粉砂糖がふわりと舞い降り、まるで初雪の舞踏会。
フォークを入れると、パンケーキは思っていた以上に柔らかかった。
口に入れると溶けるようで、
思わず「うま……」と声が漏れた。
「でしょ? このバターも手作りらしいですよ」
朝比奈さんはスマホを構えて、写真を一枚。
「ほら、せっかくだから野々宮さんも入ってください」
「え、俺はいいですよ」
「じゃ、パンケーキだけで」
軽く笑ってシャッターを切ると、
「はい、これ送りますね」とすぐに共有してくれた。
通知が光って、画面にふたり分のパンケーキ。
なぜかそれだけで、少し照れくさい。
「そういえば、野々宮さんって普段なにしてるんですか?」
「え?」
「仕事以外で。休日とか」
「うーん……たいしたことしてないですよ。
MMOやって、ストゼロ飲んで、寝る。そんな感じ」
「……かわいいですね」
「かわいくないでしょ。おっさんですよ、ただの」
笑いながら言うと、朝比奈さんも同じように笑った。
けれどその目の奥が、ほんの少し優しく見えた。
「そういう時間、いいと思いますよ。
ちゃんと息抜きできてるってことですから」
「いや、逃げてるだけですよ」
「逃げるのも、生き方のひとつです」
「……朝比奈さんは? 普段は」
「楽器の練習とか、体のケアとかですね」
「ケア?」
「αって、ちょっと体調の波があるんですよ。
匂いとか、反応とか、放っとくときつくなる」
「へぇ……大変なんだな……」
「まあ、慣れました。そういう体だからって言われて育ったんで」
軽く笑って言うその口調が、
思っていたよりずっと穏やかで、落ち着いていた。
――はじめてαとちゃんと話したけど、案外、普通なんだな。
派手さとか、威圧感とか、そういうものを想像していた。
けれど、目の前の朝比奈さんは、
言葉も柔らかくて、どこまでも穏やかで。
パンケーキを美味しそうに食べる姿なんて、
むしろ少し抜けて見えるくらいだ。
……けど、ふとした瞬間、
その目の奥がまるで別人みたいに冷たく見えるときがある。
笑っているのに、
どこか“見透かされている”ような気がして、
視線をそらした。
「野々宮さん、どうかしました?」
「い、いえ。なんでも」
曖昧に笑い返したけれど、
胸の奥に小さなざわめきが残ったままだった。
店を出ると、午後の日差しが少し傾きかけていた。
駅へ戻る道の途中、ふと甘い香りの混じった風が吹いて、
朝比奈さんの髪が軽く揺れた。
「……あれ、猫カフェですよ」
指差した先には、小さな木の看板。
“保護猫と過ごす癒しの時間”と書かれている。
「入ってみません?」
「いや、ああいうの、ちょっと苦手で。
なんか、見せものにしてるみたいで」
「じゃあ、触らなければいいんですよ」
そう言って、柔らかく笑う。
「見るだけでも癒されます。……行きましょう?」
いつもより半歩近い声に、断れなくなっていた。
店内は静かで、午後の光が柔らかく差し込んでいた。
白や茶の猫たちがのんびりと歩き回り、
床や棚の上でそれぞれの居場所を見つけている。
木の香りとコーヒーの匂いが混ざって、
不思議と心が落ち着く空気だった。
「わぁ……」
朝比奈さんの声が、少し弾んで聞こえた。
その表情は、いつもの穏やかさとは違ってどこか無邪気で、
猫たちはまるで呼び寄せられるように彼の足元へ集まっていく。
一匹、また一匹。
気づけば彼の膝の上にも肩にも猫が乗って、
まるで群れの中心に座る“王”みたいになっていた。
「……猫の帝王、ですね」
「え?」
「なんか……そう見えました」
「ふふ、面白いな」
その笑顔が、午後の光を受けて眩しかった。
猫が擦り寄るたびに、彼の肩が小さく揺れる。
その光景がやけに綺麗で、
目を離せなかった。
「野々宮さん」
名前を呼ばれて、反射的に視線を上げる。
猫に囲まれた朝比奈さんが、少しだけ首を傾げていた。
「……こっち、来ません?」
「え?」
「大丈夫。猫、噛まないですから」
冗談めかして笑いながら、
彼はそっと手を伸ばしてきた。
指先が触れる。
その瞬間、心臓が跳ねた。
ほんの一瞬の接触なのに、
体の奥が熱を帯びていく。
猫の喉の音だけが、静かに響いていた。
そして――
朝比奈さんの手が、ゆっくりと俺の手を包んだ。
雲ひとつない晴天。
気温もちょうどよく、風は少し甘い匂いがした。
こういう日に出かけるのは、なんだか久しぶりだった。
駅前の時計台の下に着くと、すぐにそれが目に入った。
朝比奈さん。
白いシャツに、黒のスキニー。
ジャケットを片手に持ち、少し伸びた前髪を風が揺らしている。
長身で、今どきの雑誌モデルみたいに見えて、
思わず足が止まった。
「野々宮さん」
呼ばれてハッとして手を振る。
「……早いですね」
「楽しみにしてたんで」
そう言って笑う顔が、陽射しを受けてまぶしい。
パンケーキ屋は駅から少し歩いた先にあった。
カフェの前には若い女性たちが列を作り、
ふたりだけ場違いな気がして、思わず立ち止まる。
「大丈夫です、予約してますから」
さらっと言うその優しさに、
なんだか胸の奥がくすぐったかった。
案内された席は窓際で、
明るい陽射しにパンケーキが映える。
皿の上は、もはや芸術だった。
黄金色に焼き上げられた三段のパンケーキは、ひとつひとつが厚みを誇り、縁にはとろけるようなバターが溶けてゆく。
その上から滝のように流れ落ちる琥珀色のメープルシロップ。光を受けてきらめき、まるで宝石の露のようだ。
頂には雪のようなホイップクリームがこんもりと盛られ、周囲を彩るのは、艶やかな苺、熟れたキウイ、そして深紅のベリー。
さらに粉砂糖がふわりと舞い降り、まるで初雪の舞踏会。
フォークを入れると、パンケーキは思っていた以上に柔らかかった。
口に入れると溶けるようで、
思わず「うま……」と声が漏れた。
「でしょ? このバターも手作りらしいですよ」
朝比奈さんはスマホを構えて、写真を一枚。
「ほら、せっかくだから野々宮さんも入ってください」
「え、俺はいいですよ」
「じゃ、パンケーキだけで」
軽く笑ってシャッターを切ると、
「はい、これ送りますね」とすぐに共有してくれた。
通知が光って、画面にふたり分のパンケーキ。
なぜかそれだけで、少し照れくさい。
「そういえば、野々宮さんって普段なにしてるんですか?」
「え?」
「仕事以外で。休日とか」
「うーん……たいしたことしてないですよ。
MMOやって、ストゼロ飲んで、寝る。そんな感じ」
「……かわいいですね」
「かわいくないでしょ。おっさんですよ、ただの」
笑いながら言うと、朝比奈さんも同じように笑った。
けれどその目の奥が、ほんの少し優しく見えた。
「そういう時間、いいと思いますよ。
ちゃんと息抜きできてるってことですから」
「いや、逃げてるだけですよ」
「逃げるのも、生き方のひとつです」
「……朝比奈さんは? 普段は」
「楽器の練習とか、体のケアとかですね」
「ケア?」
「αって、ちょっと体調の波があるんですよ。
匂いとか、反応とか、放っとくときつくなる」
「へぇ……大変なんだな……」
「まあ、慣れました。そういう体だからって言われて育ったんで」
軽く笑って言うその口調が、
思っていたよりずっと穏やかで、落ち着いていた。
――はじめてαとちゃんと話したけど、案外、普通なんだな。
派手さとか、威圧感とか、そういうものを想像していた。
けれど、目の前の朝比奈さんは、
言葉も柔らかくて、どこまでも穏やかで。
パンケーキを美味しそうに食べる姿なんて、
むしろ少し抜けて見えるくらいだ。
……けど、ふとした瞬間、
その目の奥がまるで別人みたいに冷たく見えるときがある。
笑っているのに、
どこか“見透かされている”ような気がして、
視線をそらした。
「野々宮さん、どうかしました?」
「い、いえ。なんでも」
曖昧に笑い返したけれど、
胸の奥に小さなざわめきが残ったままだった。
店を出ると、午後の日差しが少し傾きかけていた。
駅へ戻る道の途中、ふと甘い香りの混じった風が吹いて、
朝比奈さんの髪が軽く揺れた。
「……あれ、猫カフェですよ」
指差した先には、小さな木の看板。
“保護猫と過ごす癒しの時間”と書かれている。
「入ってみません?」
「いや、ああいうの、ちょっと苦手で。
なんか、見せものにしてるみたいで」
「じゃあ、触らなければいいんですよ」
そう言って、柔らかく笑う。
「見るだけでも癒されます。……行きましょう?」
いつもより半歩近い声に、断れなくなっていた。
店内は静かで、午後の光が柔らかく差し込んでいた。
白や茶の猫たちがのんびりと歩き回り、
床や棚の上でそれぞれの居場所を見つけている。
木の香りとコーヒーの匂いが混ざって、
不思議と心が落ち着く空気だった。
「わぁ……」
朝比奈さんの声が、少し弾んで聞こえた。
その表情は、いつもの穏やかさとは違ってどこか無邪気で、
猫たちはまるで呼び寄せられるように彼の足元へ集まっていく。
一匹、また一匹。
気づけば彼の膝の上にも肩にも猫が乗って、
まるで群れの中心に座る“王”みたいになっていた。
「……猫の帝王、ですね」
「え?」
「なんか……そう見えました」
「ふふ、面白いな」
その笑顔が、午後の光を受けて眩しかった。
猫が擦り寄るたびに、彼の肩が小さく揺れる。
その光景がやけに綺麗で、
目を離せなかった。
「野々宮さん」
名前を呼ばれて、反射的に視線を上げる。
猫に囲まれた朝比奈さんが、少しだけ首を傾げていた。
「……こっち、来ません?」
「え?」
「大丈夫。猫、噛まないですから」
冗談めかして笑いながら、
彼はそっと手を伸ばしてきた。
指先が触れる。
その瞬間、心臓が跳ねた。
ほんの一瞬の接触なのに、
体の奥が熱を帯びていく。
猫の喉の音だけが、静かに響いていた。
そして――
朝比奈さんの手が、ゆっくりと俺の手を包んだ。
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