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【18禁表現あり】除夜の鐘は誰の煩悩?【番外編】
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世の男子が一度は妄想したことのある「理想の年越し」。真人はそれを、事もなげに実行しようとしていた。
大掃除という名の戦場で、俺はその事実に気づかされることになる。
「まこ、高いところ拭ける?」
「もう終わりましたよ」
振り返った真人は、完璧に仕事を終えた顔をしていた。埃ひとつない棚。脚立を降りる所作すら無駄がない。窓も風呂も完璧だ。……本当に、顔とスペックだけで無双できる男である。
「さすがスパダリ執着攻めアルファ……!」
「……譲さん、最近変な本を読みすぎでは?」
言い切った直後、空気が一瞬だけ凍った。
どうやら――声に出ていたらしい。
「……え」
逃げ道を探す間もなく、真人の視線がゆっくりとクローゼットへ向く。
「この箱、怪しいですね」
淡々とした声。
だが、その静けさがいちばん怖い。
クローゼットの奥から引きずり出された段ボールが、床に置かれる。
がさ、と音を立てた瞬間、心臓が嫌な跳ね方をした。
「ちょ、ちょっと待っ――」
伸ばした手は、途中であっさり止められた。
指先を軽く押さえられるだけ。力は入っていないのに、動けない。
真人は無慈悲に箱を開け、中から一冊を抜き取った。表紙の美麗な男たちを見た瞬間、微かに表情がかわった気がした。
「……何て読むんですか、これ。二哈和……白猫……?」
ぱら、ぱらり。ページをめくる音が、死刑宣告のカウントダウンのようだった。
「一冊二千四百九十円。……八冊ありますね。合計、約二万円ですか」
喉がヒッ、と鳴った。
「しかも、全部きっちり透明カバー付き。……へぇ、厳重に保護されてるんですね、これ」
「違うんだ! それは文化財を保護するような、オタクの性(さが)でね!?」
「僕が隣にいるのに、わざわざ二万円も出して男同士のエロ本買う必要あります?」
目が笑ってねぇ……! 真人の放つオーラが、完全に「浮気現場を押さえた本妻」のそれである。いや、俺が抱かれているのは真人だけなんだけどさ!
「違う、エロが見たいわけじゃなくてね?! これは愛の救済というか、業の深さを描いた超大作であって――」
「……ストーリー、ですか」
真人の指が、ピタリと止まった。 よりによって、俺が何度も読み返してページが開きやすくなっていたページでだ。
「『……っ、熱い、なか……そんなに、かき回されたら……ぁ!』」
「やめて! お願いだから朗読しないで!!」
「『……俺を見て……もっと、欲しがって……』……なるほど。これが譲さんの仰る、高尚なストーリー。僕との夜より、これをみて自分でする方がいい……と」
「ち、ちがう、してない……濡れ衣だ……」
真人の瞳に、暗くどろりとした「ガチの執着」が灯る。
「ま、まこ……?」
真人は返事をせず、次の一冊、また次の一冊と取り出していく。
積まれていく本の背表紙が、無言で俺を追い詰める。
「……こっちは漫画」
タイトルを読み上げる声が、妙に丁寧だ。
「『執着攻め』」
一拍。
「『最強の番犬が俺の番(つがい)』……」
顔が、熱い。
息が浅くなる。
真人はそこで初めて俺を見る。
表情は柔らかいままなのに、目だけが冴えている。
「……譲さん」
掃除用具が床に落ちた。小説はまだいい、漫画はダメだ! 絵面がダイレクトアタックすぎて、完全に詰んだ。
「いや、違うんだ! 少女漫画的なノリというか、資料っていうか! 俺も真人を喜ばせるために勉強しようと思って……」
最初は確かにそうだったのだ。しかし、読んでいるうちに楽しくなって沼にハマってしまった。真人は、カラフルかつ肌色多めな表紙と、扇情的な煽り文句から目を離さない。
「なぜ、本物の『最強スパダリ・アルファ』が目の前にいるのに、こんな本に頼るんですか」
本を床に置いた真人が、逃げ道を塞ぐようにじりじりと這い寄ってきた。
「現実の『執着攻め』がどんなものか、読みふける暇もないくらい教えてあげないといけませんね。……いいですよね、譲さん?」
「お仕置きです」
「え?」
「譲さん――今年のシメは何だと思います?」
嫌な予感しかしない。
「紅白見て、蕎麦食べて……」
「除夜の鐘、わかりますよね?」
「……百八つ、だろ」
「ふふ、それです。鐘の音に合わせて、譲さんをお仕置きしてあげますよ」
距離が近い。目は笑っている。完全に確信犯だ。
「……ペースが遅すぎないか?」
「年始は丁寧に、が基本ですよ」
だめだ。こうなった真人に言葉は通じない。こいつは煩悩の払拭を、神聖な儀式ではなく「性なるイベント」として処理する気なのだ。
*
蕎麦を茹でるにはまだ少し早い時間。俺たちは"人をダメにするソファ"にもたれかかり、年末特有の気の抜けた小休止に入っていた……はずだった。
真人は性格が歪んでいる。これは悪口ではなく事実だ。 なぜか俺の段ボールを抱え込み、さっき断罪したはずの本を、今さら当然のような顔で読み始めたのだ。
「『この攻め、いいですね』」 「…………」 「『口移しで薬を飲ませ、さらに通常なら一滴で効く媚薬をたっぷりと塗り込み……』」
やめろ、読むな、声に出すな。ごくり、と喉が鳴ったのは、俺の敗北の音だった。 ……正直に言おう。そのシーン、俺も好きだ。
「い、いいよな。そのキャラ……」 「ふーん」
ページをめくりながら、真人がにこりと微笑む。
「譲さん、無理やりされるのが好きなんですか?」 「は、いや、それはフィクションで――」
言い切る前に、本が閉じられた。
「大変です、譲さん。あなたの愛する"僕のモノ"が、今の朗読で触発されました」
嘘だ。絶対に嘘だ。"奴"は真人の意志ひとつで沈黙も臨戦も切り替えられる、理知的かつ従順なはずなのに……。
「顔、赤いですよ」 「気のせいだ」 「へえ」
ゆっくりと距離を詰められる。
「年越し蕎麦の前に、煩悩が一つ増えましたね」
増やしたのはお前だろう。 真人はくすと笑う。大晦日くらい静かに締めさせてほしかったが、心のどこかで期待してしまっている自分もいた。
紅白の歌声が遠ざかり、除夜の鐘が空気を震わせる予感に満ちた頃。照明を落とした寝室で、俺たちはシーツの海に横たわっていた。
「鐘が鳴り始めるまで、まだ少しありますよ」
耳元で囁かれる。抵抗する気なんて、最初からなかった。真人は俺のシャツを、まるで儀式のように丁寧に捲り上げる。
「ポリネシアン・セックス、って知ってますか? 波のようにゆっくりと、相手を溶かしていく。煩悩の数だけ動きを刻むには、ぴったりだと思いませんか?」
こいつの目は本気だ。笑っているのに、完全に「狩り」の温度。
「百八回もそんなスローでやったら、萎えるんじゃないか?」
「いいんです。年始は、丁寧に迎えましょう」
重なる唇、絡み合う舌。服が脱がされるたび、肌に熱が伝染していく。
そして――始まった。真人は俺の中に繋がると、存在を刻みつけるように深く抱きしめてきた。
「一……」
耳元でのカウント。その声だけで体がびくりと跳ねる。
「二……」
深く沈み込むような、絶妙に焦らされる動き。
「ひ、あ……っ」
十、二十。時間感覚が融解していく。真人の体温、息、匂い。潮の満ち引きのような動きに、理性が少しずつ削り取られていく。
「まだ三十くらいですよ? 最後までちゃんと数えますから」
その言葉を裏付けるように、遠くの寺から、低く重い音が響いた。
――ゴォォォォォ……ン……。
空気を震わせる地響きのような除夜の鐘。それが俺の耳に届くのと同時に、真人が深く、突き上げるように腰を沈める。
「三十一」
真人の声が、鐘の余韻に重なる。外では煩悩を祓う儀式が厳かに行われているというのに、この部屋の中では、真人がカウントを重ねるたびに俺の煩悩が膨れ上がり、熱く濁っていく。
「三十二……三十三……」
――ゴォォォォォ……ン……。
また、鐘が鳴る。一定のリズムで打ち鳴らされる外の音と、真人が俺の中を擦り上げるリズムが、いつしか完全に同期し始めていた。逃げ場のない快感が、一打ごとに心臓を直接叩かれるような衝撃となって全身を駆け巡る。
「ひ、あ……っ! まこと……っ、鐘と一緒に……くんの……やめ……っ!」
「……いいですね。譲さんの震え、鐘の音より響いてますよ」
耳元でくすりと笑う声。八十、九十。外の鐘の音は、もう遠くの幻聴のようだった。俺に聞こえるのは、部屋を満たす淫らな水音と、真人が刻む残酷なほど甘いカウントだけ。
こんなにゆっくりなのに俺はいつもより感じてしまっていて、それでも勿体ぶった腰つきによって確定的な刺激をもらえない。
「つらい……まこと……っ、もう、イかせて……!」
「……ちゃんと反省してます?」
ついに百を超えた。外の鐘も、終わりが近いのか間隔が少しずつ狭まっていく。それに急かされるように、真人の動きも熱を帯び、深く、深く、俺の最奥を抉り抜く。
「百八」
最後の数字が囁かれた瞬間、世界が弾けた。激しい痙攣が全身を貫き、真人もまた、俺を壊すような力で抱きしめて熱を放った。
……どれくらい経っただろう。俺はぐったりと真人の胸に顔を埋めていた。体中が甘い脱力感に包まれている。真人は俺の髪を優しく撫でながら、満足げに囁いた。
「明けましておめでとうございます、譲さん」 「……おめで、とう……」
俺の声はまだ震えていた。正直、真人には振り回されてばかりだ。でも、腕の中に伝わる体温を感じていると、そんな不満はどうでもよくなってくる。
性格は歪んでいるし、嫉妬深い。それでも、俺はこの真人がいつまでも可愛くて、愛しくて仕方ないのだ。
「えと……今年もよろしく、まこと」
柄にもなく素直にそう告げると、真人は表情を変えないまま、ふっと口角を上げた。
「僕のこと大好きな譲さん。――今年もよろしくお願いします」
その全部分かっているような言い方が、たまらなく癪で、たまらなく愛おしい。……ああ、今年も俺は真人に骨抜きにされるんだろう。
そう覚悟を決めて目を閉じようとした、その時だった。真人が俺を抱き直し、耳元でとどめの一撃を放った。
「さて。それじゃあ、姫初め(ひめはじめ)しましょうか」
「…………は?」
「ちょっと後悔してるんですよ、さっきひと突きごとにごめんなさい、って言って貰えばよかったかなって」
「やめて、今、謝るから……!」
俺の静かな正月は、まだ始まってすらいなかったのだ。
大掃除という名の戦場で、俺はその事実に気づかされることになる。
「まこ、高いところ拭ける?」
「もう終わりましたよ」
振り返った真人は、完璧に仕事を終えた顔をしていた。埃ひとつない棚。脚立を降りる所作すら無駄がない。窓も風呂も完璧だ。……本当に、顔とスペックだけで無双できる男である。
「さすがスパダリ執着攻めアルファ……!」
「……譲さん、最近変な本を読みすぎでは?」
言い切った直後、空気が一瞬だけ凍った。
どうやら――声に出ていたらしい。
「……え」
逃げ道を探す間もなく、真人の視線がゆっくりとクローゼットへ向く。
「この箱、怪しいですね」
淡々とした声。
だが、その静けさがいちばん怖い。
クローゼットの奥から引きずり出された段ボールが、床に置かれる。
がさ、と音を立てた瞬間、心臓が嫌な跳ね方をした。
「ちょ、ちょっと待っ――」
伸ばした手は、途中であっさり止められた。
指先を軽く押さえられるだけ。力は入っていないのに、動けない。
真人は無慈悲に箱を開け、中から一冊を抜き取った。表紙の美麗な男たちを見た瞬間、微かに表情がかわった気がした。
「……何て読むんですか、これ。二哈和……白猫……?」
ぱら、ぱらり。ページをめくる音が、死刑宣告のカウントダウンのようだった。
「一冊二千四百九十円。……八冊ありますね。合計、約二万円ですか」
喉がヒッ、と鳴った。
「しかも、全部きっちり透明カバー付き。……へぇ、厳重に保護されてるんですね、これ」
「違うんだ! それは文化財を保護するような、オタクの性(さが)でね!?」
「僕が隣にいるのに、わざわざ二万円も出して男同士のエロ本買う必要あります?」
目が笑ってねぇ……! 真人の放つオーラが、完全に「浮気現場を押さえた本妻」のそれである。いや、俺が抱かれているのは真人だけなんだけどさ!
「違う、エロが見たいわけじゃなくてね?! これは愛の救済というか、業の深さを描いた超大作であって――」
「……ストーリー、ですか」
真人の指が、ピタリと止まった。 よりによって、俺が何度も読み返してページが開きやすくなっていたページでだ。
「『……っ、熱い、なか……そんなに、かき回されたら……ぁ!』」
「やめて! お願いだから朗読しないで!!」
「『……俺を見て……もっと、欲しがって……』……なるほど。これが譲さんの仰る、高尚なストーリー。僕との夜より、これをみて自分でする方がいい……と」
「ち、ちがう、してない……濡れ衣だ……」
真人の瞳に、暗くどろりとした「ガチの執着」が灯る。
「ま、まこ……?」
真人は返事をせず、次の一冊、また次の一冊と取り出していく。
積まれていく本の背表紙が、無言で俺を追い詰める。
「……こっちは漫画」
タイトルを読み上げる声が、妙に丁寧だ。
「『執着攻め』」
一拍。
「『最強の番犬が俺の番(つがい)』……」
顔が、熱い。
息が浅くなる。
真人はそこで初めて俺を見る。
表情は柔らかいままなのに、目だけが冴えている。
「……譲さん」
掃除用具が床に落ちた。小説はまだいい、漫画はダメだ! 絵面がダイレクトアタックすぎて、完全に詰んだ。
「いや、違うんだ! 少女漫画的なノリというか、資料っていうか! 俺も真人を喜ばせるために勉強しようと思って……」
最初は確かにそうだったのだ。しかし、読んでいるうちに楽しくなって沼にハマってしまった。真人は、カラフルかつ肌色多めな表紙と、扇情的な煽り文句から目を離さない。
「なぜ、本物の『最強スパダリ・アルファ』が目の前にいるのに、こんな本に頼るんですか」
本を床に置いた真人が、逃げ道を塞ぐようにじりじりと這い寄ってきた。
「現実の『執着攻め』がどんなものか、読みふける暇もないくらい教えてあげないといけませんね。……いいですよね、譲さん?」
「お仕置きです」
「え?」
「譲さん――今年のシメは何だと思います?」
嫌な予感しかしない。
「紅白見て、蕎麦食べて……」
「除夜の鐘、わかりますよね?」
「……百八つ、だろ」
「ふふ、それです。鐘の音に合わせて、譲さんをお仕置きしてあげますよ」
距離が近い。目は笑っている。完全に確信犯だ。
「……ペースが遅すぎないか?」
「年始は丁寧に、が基本ですよ」
だめだ。こうなった真人に言葉は通じない。こいつは煩悩の払拭を、神聖な儀式ではなく「性なるイベント」として処理する気なのだ。
*
蕎麦を茹でるにはまだ少し早い時間。俺たちは"人をダメにするソファ"にもたれかかり、年末特有の気の抜けた小休止に入っていた……はずだった。
真人は性格が歪んでいる。これは悪口ではなく事実だ。 なぜか俺の段ボールを抱え込み、さっき断罪したはずの本を、今さら当然のような顔で読み始めたのだ。
「『この攻め、いいですね』」 「…………」 「『口移しで薬を飲ませ、さらに通常なら一滴で効く媚薬をたっぷりと塗り込み……』」
やめろ、読むな、声に出すな。ごくり、と喉が鳴ったのは、俺の敗北の音だった。 ……正直に言おう。そのシーン、俺も好きだ。
「い、いいよな。そのキャラ……」 「ふーん」
ページをめくりながら、真人がにこりと微笑む。
「譲さん、無理やりされるのが好きなんですか?」 「は、いや、それはフィクションで――」
言い切る前に、本が閉じられた。
「大変です、譲さん。あなたの愛する"僕のモノ"が、今の朗読で触発されました」
嘘だ。絶対に嘘だ。"奴"は真人の意志ひとつで沈黙も臨戦も切り替えられる、理知的かつ従順なはずなのに……。
「顔、赤いですよ」 「気のせいだ」 「へえ」
ゆっくりと距離を詰められる。
「年越し蕎麦の前に、煩悩が一つ増えましたね」
増やしたのはお前だろう。 真人はくすと笑う。大晦日くらい静かに締めさせてほしかったが、心のどこかで期待してしまっている自分もいた。
紅白の歌声が遠ざかり、除夜の鐘が空気を震わせる予感に満ちた頃。照明を落とした寝室で、俺たちはシーツの海に横たわっていた。
「鐘が鳴り始めるまで、まだ少しありますよ」
耳元で囁かれる。抵抗する気なんて、最初からなかった。真人は俺のシャツを、まるで儀式のように丁寧に捲り上げる。
「ポリネシアン・セックス、って知ってますか? 波のようにゆっくりと、相手を溶かしていく。煩悩の数だけ動きを刻むには、ぴったりだと思いませんか?」
こいつの目は本気だ。笑っているのに、完全に「狩り」の温度。
「百八回もそんなスローでやったら、萎えるんじゃないか?」
「いいんです。年始は、丁寧に迎えましょう」
重なる唇、絡み合う舌。服が脱がされるたび、肌に熱が伝染していく。
そして――始まった。真人は俺の中に繋がると、存在を刻みつけるように深く抱きしめてきた。
「一……」
耳元でのカウント。その声だけで体がびくりと跳ねる。
「二……」
深く沈み込むような、絶妙に焦らされる動き。
「ひ、あ……っ」
十、二十。時間感覚が融解していく。真人の体温、息、匂い。潮の満ち引きのような動きに、理性が少しずつ削り取られていく。
「まだ三十くらいですよ? 最後までちゃんと数えますから」
その言葉を裏付けるように、遠くの寺から、低く重い音が響いた。
――ゴォォォォォ……ン……。
空気を震わせる地響きのような除夜の鐘。それが俺の耳に届くのと同時に、真人が深く、突き上げるように腰を沈める。
「三十一」
真人の声が、鐘の余韻に重なる。外では煩悩を祓う儀式が厳かに行われているというのに、この部屋の中では、真人がカウントを重ねるたびに俺の煩悩が膨れ上がり、熱く濁っていく。
「三十二……三十三……」
――ゴォォォォォ……ン……。
また、鐘が鳴る。一定のリズムで打ち鳴らされる外の音と、真人が俺の中を擦り上げるリズムが、いつしか完全に同期し始めていた。逃げ場のない快感が、一打ごとに心臓を直接叩かれるような衝撃となって全身を駆け巡る。
「ひ、あ……っ! まこと……っ、鐘と一緒に……くんの……やめ……っ!」
「……いいですね。譲さんの震え、鐘の音より響いてますよ」
耳元でくすりと笑う声。八十、九十。外の鐘の音は、もう遠くの幻聴のようだった。俺に聞こえるのは、部屋を満たす淫らな水音と、真人が刻む残酷なほど甘いカウントだけ。
こんなにゆっくりなのに俺はいつもより感じてしまっていて、それでも勿体ぶった腰つきによって確定的な刺激をもらえない。
「つらい……まこと……っ、もう、イかせて……!」
「……ちゃんと反省してます?」
ついに百を超えた。外の鐘も、終わりが近いのか間隔が少しずつ狭まっていく。それに急かされるように、真人の動きも熱を帯び、深く、深く、俺の最奥を抉り抜く。
「百八」
最後の数字が囁かれた瞬間、世界が弾けた。激しい痙攣が全身を貫き、真人もまた、俺を壊すような力で抱きしめて熱を放った。
……どれくらい経っただろう。俺はぐったりと真人の胸に顔を埋めていた。体中が甘い脱力感に包まれている。真人は俺の髪を優しく撫でながら、満足げに囁いた。
「明けましておめでとうございます、譲さん」 「……おめで、とう……」
俺の声はまだ震えていた。正直、真人には振り回されてばかりだ。でも、腕の中に伝わる体温を感じていると、そんな不満はどうでもよくなってくる。
性格は歪んでいるし、嫉妬深い。それでも、俺はこの真人がいつまでも可愛くて、愛しくて仕方ないのだ。
「えと……今年もよろしく、まこと」
柄にもなく素直にそう告げると、真人は表情を変えないまま、ふっと口角を上げた。
「僕のこと大好きな譲さん。――今年もよろしくお願いします」
その全部分かっているような言い方が、たまらなく癪で、たまらなく愛おしい。……ああ、今年も俺は真人に骨抜きにされるんだろう。
そう覚悟を決めて目を閉じようとした、その時だった。真人が俺を抱き直し、耳元でとどめの一撃を放った。
「さて。それじゃあ、姫初め(ひめはじめ)しましょうか」
「…………は?」
「ちょっと後悔してるんですよ、さっきひと突きごとにごめんなさい、って言って貰えばよかったかなって」
「やめて、今、謝るから……!」
俺の静かな正月は、まだ始まってすらいなかったのだ。
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